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カメラマンは笑顔のプロじゃなきゃできない

ケース1 鬼無里先輩


メガネをとって周りを見たら誰もいなかった。


「これイジメかな?」


「そうかもな」


俺らにこんな格好させておいて放置とか鬼畜にもほどがある。俺の格好はまだいい。しかし実篤のやつは…


「お前の服やばくね?」


「俺もそう思う」


実篤が着ているのは真っ白な燕尾服。イメージ的には結婚式で着るようなタキシードのデザインを無理矢理燕尾服風に仕上げたらこんな感じ。


笑ってやろうと思ったが、イケメンは何を着ても似合っているのがムカつく。


周りのお客様からの視線が痛い。ちょっと!俺たちどうすればいいわけ?脱いでいいの?


「待たせたね」


そう思ってると先輩が帰ってきたようだ。


「どこへ行ってたん…」


振り返ると男装の麗人がいた。


「どうしたんだい。そんな惚けたような顔をして?」


鬼無里先輩は白い手袋に包まれた手を口元に当てながらクスリと笑った。


先輩が着ていたのは俺とお揃いの燕尾服。髪はどうやったのか短く編み込まれ一房顔に沿うように垂らしている。その立ち姿は男の俺よりかっこよかった。褒め言葉としてはどうかと思うが。


「ふふ、見惚れてくれたみたいでなによりだ」


「どうしたんですか?急にそんな格好をして?」


「おかしいかい?」


「いや、それは全然」


「折角だから僕も着てみたくなってね」


先輩は俺に近づくと俺の手を取る。


「では、行こうか?」


有無言わさず手を引っ張られ店の奥に連れてかれる。そこにあったのは写真撮影用のスタジオ。そこには店の人がカメラのセットをして待っていた。


「ここは?」


「こんな機会も滅多にないからね。記念写真でも撮ろうと思ってね」


やっぱりか。 流されるままにカメラの前に立つ。なんか緊張してきた。


「じゃあ〜一枚普通に並んで立ってるのいきますね〜」


カメラマンの大きなまん丸メガネをかけた女性が掛け声とともにシャッタをきる。慣れたかけ声で色んなポージングをしながら、どんどん取られていく。


いや、撮りすぎじゃね。


「はぁはぁ…いい…いいですよ〜くう〜執事同士の絡みきた〜」


カメラさんの息がだんだん荒れてきているのは気のせいだと信じたい。


「じゃあ〜最後に〜背の高い方がもう一方の腰を抱いてください〜抱かれた方は後ろに体重かけて〜」


え゛ッ!?


「すいません。それはちょっと…」


「ええ〜男同士なら恥ずかしがることないのに〜」


「この方女性なんですけど…」


男同士でも嫌だよ。男同士の方が嫌だよ。


「え?あっ!すいません〜そっか〜そちらの方は女性の方ですか〜」


むむむッと考え込む。カメラさん。


「はっ!女であることを隠しながらお屋敷で働く執事A。その事実にちょっとした事故で気づいてしまった執事B。執事Bは執事Aの秘密を守るために奔走し、執事Aはそんな執事Bに心を惹かれていく。執事Aはそんな頑張る執事Bに対して女としての気持ちを抱いてしまう。この感情は執事Bに対する裏切りではないのかと罪の意識に苛まれながらもついに…捗ってきた〜〜〜!!!さぁ!さっき言ったポーズを〜!」



早口過ぎて何言ってるかわからないんですけど!


「そろそろ諦めたらどうだい?僕は別に構わないよ…蓮水くんならね…」


先輩が手を広げてこちらを待ち構える。


「じゃ、じゃあ失礼して」


おそるおそる右手を先輩の腰に回す。


先輩の腰は華奢で柔らかかった。


「はい〜じゃあ〜体重をかけて〜」


右手に先輩が身体をあずける。


「おおっと!」


先輩が右手に体重をかけたせいでバランスが崩れ、咄嗟に抱き寄せて支える。


「「!!」」


「美しいィ!」


先輩の顔が目の前にあった。


カメラさんの嬌声も気にならない。先輩も目を丸くして睫毛をまたたかせている。それが綺麗で。綺麗で。


先輩は頰を染めながら言った。


「ふふ。しっかり支えておくれよ。まるで僕の体重が重いみたいじゃないか?」




ケース2 遠江 霞


「ふぅぅぅぅ…」


「どうした蓮水?そんな疲れたような声を出して?」


俺はまた燕尾服売り場に戻ると近くにあった椅子に座り込んだ。頭を抱える。


何やってんだ俺?という言葉が頭の中をリフレインする。先輩になんてことをしてしまったんだという後悔の念で一杯だった。少し役得だと思った自分が憎たらしい。


「兄さん?何座ってるんですか?」


「霞。今ちょっとそっとしておい…て…くれ?霞?」


目の前に居たのは文学少女。


昔ながらのセーラー服に身を包み、水色の可愛いメガネがちょこんと顔にのっている。髪は三つ編みにし顔の両側から垂らしている。


放課後の図書館が似合いそうな、消えてしまいそうな少女だ。


「その格好は?」


「いいから、来てください」


質問に答えてもらえず、手を引かれてスタジオにアゲイン。君も写真撮影をするのね。一人じゃ恥ずかしいってことかな?


さっきのカメラさんの『えっ?今度は違う女の子と入ってきた。もしかして二股!?』みたいな目が辛いよ。


「写真をお願いします」


「は、はい〜」


さっきみたいに簡単に何枚か撮っていく。 カメラさんが何回も「お嬢ちゃん笑って〜」というが霞はニコリともしない。


むむむッと再び考え込むカメラさん


「はっ!文学少女はお金持ちを理由に中学のころみんなから避けられていた。高校では自分がお嬢様であることを隠し、地味な格好をして目立たないようにしている。少しの友達と過ごす充実した日々。でも本当の姿は見せられない。今日も今日とて図書館で帰りの車を待つ。みんなにバレないように時間をずらして。そこに乗っているのは自分が唯一素を出して甘えることができる執事。これはきたぁぁ〜〜〜!!」


カメラさんは店の奥から車の座席だけ取ってくるとスタジオに置く。


なんでこんな小道具が?


「はい〜二人でならんで座ってください〜」


いがいに弾力のあるシートに二人で並んで座る。なんだか劇をやってるみたいで気恥ずかしい。


「そこで〜少女は〜執事にもたれかかる〜」


コツンと肩に霞の小さな頭がのる。


「そこで〜メガネを外して〜三つ編みを外して〜」


三つ編みを外すとその影響かかすかにウェーブがかかったような髪が広がる。それは本当にお嬢様みたいで。


「いい〜いいですよ〜〜」


もはやこれはお客様のためというよりこの人の趣味な気がしてきた。だんだん息遣い荒くなってるし。


ん?ああ。息遣いが荒くなっていたのは霞もだった。俺に寄っかかったまま小刻みに震えていた。


いや、そんなに嫌なら無理しなくても…たぶんこれでカメラさんも満足だろうし。


「それじゃあ〜最後に〜執事の膝に乗って〜胸元にしなだれかかってください〜」


え゛っ!(本日2回目)


「いや、ごめんなさい。それはちょ「兄さん!失礼します」


俺が断るより前に霞が俺の膝に座った。俺と向かい合うように。


「さすがに…これはまずいんじゃないんですかね霞さん」


霞はいつもの表情で言った。


「何かダメですか?兄さん。私たちは今コスプレをしているんですよ。ちゃんとなりきらないとダメじゃないですか?兄さんはそういう風に楽しめない白けた人間なんですか?それとも」


霞は俺の胸に手を当てていう。


「こんなことをされると妹にも欲情してしまう変態ですか?」


「そんなわけ…!」


「では」


霞は頬を俺の胸につけるとそのまま寄りかかる。


霞から香る匂いが鼻孔をくすぐる。俺は何かに耐えられなくなって背もたれに身体をあずけ上を向く。


一秒が一分が長く感じた。いつになったらカメラさんはこの格好を解除してくれるのだろうか。




「…兄…さん」


突然聞こえてきた甘い声に思わず下を向く。


そこには今まで見たこともないような表情で顔を真っ赤に染めた霞がいた。上目遣いでこちらを見てくる。


フイと顔を逸らして。


「兄さん…こっち…見ないでください」










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