女子会!
「鬼無里先輩。なんで男子二人だけ返して私たちは残したんですか?」
民俗研究部の部室には私を抜いて4人の女子ー鬼無里先輩・霞・天・アリーちゃんーが残っていた。先ほどまで蓮水弾劾裁判をやっていた部室はもう普通の隊形に戻っていた。
「いや、少しはっきりさせとこうと思ってね」
「何をですか?」
先輩は薄く笑いながら私たちを見まわした。
「君たちは蓮水くんの事が好きなんだろ。1人の異性として」
なんでもないことのように。服装や食べ物の趣味を聞くみたいに先輩は言った。
「愛してますね」
「好き〜!」
「…大好き」
みんなも躊躇うことなく即答する。4人の目がこちらを見る。答えていないのは私だけだから。
答えを期待するでもなく、ただ単純に私の答えを待っていた。
「………好きですよ」」
私はみんなから目線を逸らしながら言った。
蓮水には告白未遂をしたり、告白もどきをしたりしたが改めて言うと恥ずかしい。
私の答えを聞いて、先輩は満足気に頷き笑い出す。
「いやぁ〜この部室ドロドロ過ぎないかい?蓮水くんはとんだ女たらしだね」
それには同意だ。
私のことを救ってくれたのが四月。それから五月、六月で新たに2人もひっかけてきた。一ヶ月に1人の女の子を助けなければいけない病気にでもかかってるのか?
「そんなことは百も承知でしょうに。早く話を続けてください」
「霞くんもそう急かさないでくれ。そんな君たちに聞きたいことがある。学園祭中に蓮水くんの自由を手に入れたわけだが、どうしたい?」
「そんなの決まってます。学園祭には行かせないで家でずっと私のお世話をしてもらいます」
「一緒に学園祭を遊び尽くしたい!」
「…ハスミとずっと一緒にいたい…ハスミがやりたいことをしたい…」
3人がこれもまた即答する。
ていうか霞はそれ学園祭の意味ないんだけど。
そうだなぁ、私は
「蓮水と一緒に普通の学園祭を楽しみたいかな。蓮水が純粋に楽しんでる顔が見たい。できればすぐ横で」
すんなりと言葉が出てきた。
「みんななかなか乙女ちっくだね。蓮水くんから無理矢理二日間の自由を奪った人間とはとても思えないね」
「けっこうノリノリで裁判長をやってたあなたがそれを言いますか」
「それもそうだね。アリーくんにでも言わせればよかったかな」
その会話でアリーちゃんがハッと気づいたように蓮水の罰の件について聞く。
「……なんであんなことをしたの?」
本当にわかってないのか、アリーちゃんは首をかしげる。
みんなが鬼無里先輩の方を見て、説明するように促す。
「僕たちが面倒くさいのを避けるためさ。蓮水くんはすご〜〜くめんどくさい男なんだよ。あの男は意味を考える。理由をつけたがる。私たちの気持ちからは目を逸らして。きっと彼は私たちの気持ちには薄々気づいている。だけど何かしらの理由をつけて好意を受け取ろうとしないだろうね」
鬼無里先輩は朗々と語る。だけどそこには少しばかりの苛立ちが含まれているような気がした。
「そんなことは許されるはずがない」
先輩の目が光る。
「どんな理由をつけても、どんな意味をそこにつけようが僕たちの好意を否定できない状態まで持っていく。これはそのための布石さ。彼が『しょうがない罰だから』と思いながらこちらのいうとことにホイホイきいている間に僕たちは追い詰める。気がついたら逃げらないようにしておく。ちゃんと僕たちと向き合えるようにね。そのためにこれが必要だったのさ」
そろそろこっちも攻めてもいいだろう。というかこれ以上ほっとくともっと女子が増えてそうで怖い。負けるつもりはないけど。
「そういうことだから、蓮水くんとの学園祭はきっちり等分してみんなに時間を振り分けることにするよ」
まぁ、そうなるだろうとは思ってた。
「そういえば私たちの部活では何かしないんですか?」
やってない部活もあるが、ほとんどの部活は出し物をしていた。
「民俗研究部は例年展示を一応するよ。まあ、蓮水くんとの時間も増えるし、今回もそれで…」
ふと、言葉を止めて考え込む先輩。
「と思ったが、こういうのはどうだろうか?忙しくなって蓮水くんとの時間は減ってしまうが…」
先輩の蓮水に執事服を着せたいという提案にみんなが同意した。
***
そしてコスプレ屋さんで。
蓮水が霞にわちゃわちゃとセットされている。
完成形を見た瞬間、私はいや私たちは何かに撃ち抜かれた。
蓮水の燕尾服姿が予想以上にきまっていた。服自体は蓮水に似合うように果てしない論争を繰り広げて決めたものだから絶対に合うと思っていたけど、そんな私たちの思惑を軽々と超えてきた。
燕尾服はジャケットが少し短く下に着ているカーディガンが多く見える形。ズボンは単純な黒一色。ジャケットには所々に銀のチェーン。蓮水のスラッとした体型によく似合っていた。
そして霞が追加したアイテム二つ。銀縁眼鏡にオールバック。目が痛くて開けられないのか細目になっているのが逆にぐっど。
私たちは蓮水に聞こえないように円になる。
「これだよ。これ!僕が蓮水くんに求めていたのはこれさ!」
「これは同意せざるおえませんね。かっこ悪くなることはないと思ってましたがこれほどとは…」
「私もう心臓の鼓動が止まらないです。顔も自分でわかるぐらいに真っ赤にですし」
「ふわぁぁ〜全力でお兄ちゃんに甘えたい〜全力でダメにされたい〜!」
「……ハスミ!…ハスミ!…かっこいい!」
女子全員大興奮だった。みんなでフンスフンス言っている。
チラッと蓮水を見る。髪をペタペタ触りながら『おお、オールバックだ』と驚いている。そんな動作もかっこいいとか反則でしょ。
「で、この後どうしましょうか?」
「うむ、目標は達成できたわけだからね。このまますぐに蓮水くんに着替えさせるのももったいないねぇ」
うーむとみんなで考え込む。
「兄さんとツーショットを撮りましょうか?多分こちらもコスプレすれば、記念撮影だからですんなり撮ることができますよ」
無言でうなずきあうと各々散らばっていった。
ーーシャァァァァ
「うわぁ〜この執事服派手すぎ。恥ずかしいぃ…あれ?蓮水。みんなは?」
「えっ?みんなどっか行ったの?俺ら放置で?」




