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肉食系女子に狙われています  作者: シュガー後輩
第3章 俺と吸血鬼
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彼女の優しさは彼の心を穿つ

俺は廊下に出ると、そのままドアを背に座り込む。身体中から汗が一気に吹き出し、虚脱感が全身を襲う。


「はぁ!はぁ!はぁ!」


こみ上げてきた吐き気をぐっと飲み込む。胃がキリキリと痛むが、胸を殴って無理矢理おさめる。あんなことをした俺に苦しむ権利なんてあるはずがない。


「……ゲホッ。くっ、俺の黒歴史がまた増えてしまった。このままではブラックヒストラーの名をほしいままにしてしまう。もう、二度とあんな口説き文句使わねぇ……」


気を紛らわそうとふざけてみるが、動悸はおさまらない。俺は壁を支えに立ち上がると歩き始める。さて、出口はどこだ。 辺りを見回してもどっちに行っていいかわからないので、とりあえず右に進んでみる。そこに待っていたのは衝撃だった。


突き当たりを曲がったら前から勢いよく何かが飛んできた。踏ん張ることもできずそのまま後ろ向きにぶっ倒れる。


「見つけた!」


俺の首元に抱きついていたのはアリーさんだった。えっ。翼が生えてる。かっこいい。吸血鬼モード第二形態みたいな感じだ。


「どうしてここに?」


意外にもすんなりと言葉が出た。さっきまで脂汗をかきとんでもない状態だったのであんまり密着して欲しくないんだけど。あれだけの衝撃が体をアリーさんのボディアッタクでくらったはずなのに、不思議なことに身体はさっきよりも楽になっていた。


「……ハスミの帰りが遅いからむかえにきた」


顔近い。近い。なんでアリーさんは起き上がらずに俺の身体の上にうつ伏せになったまましゃべるの?そこは君のリビングなの?蓮水のそこは空いてないよ?


「……大丈夫?」


そんなに汚れのない目でこちらを見ないでほしい。自分の汚さが浮き彫りになりそうだから。


「顔が青白いよ?疲れてる?」


俺はアリーさん目から逃れるように答える。


「気のせいじゃないですか?ここ照明が蛍光灯ですからそう見えるだけですよ」


「うそ」


珍しくアリーさんに間髪入れずに否定される。


「……わかる。ハスミは今無理してる。昔よく鏡にうつってた顔と同じだもん」


アリーさんは優しく俺の前髪辺りを撫でてくる。


「……無理しないで?私を頼って」


その優しさは俺が求めてはいけないものだ。俺は最低な行為をした。俺の相談にのってくれた鬼無里先輩や俺に好意を向けてくれるてっちゃんに対して最悪な方法を選択した。そもそもこんな悲劇の主人公みたいに嘆くことだって許されるわけがないのだ。俺は毅然と一人で地を踏みしめて立たなければならない。

 だから俺は顔に笑みを浮かばせた。


「無理してませんよ。たとえ無理をしていたとしても、それは俺の勝手から起きたことです。アリーさんにその苦労を負わせていいわけがないです」


「ハスミはおバカ」


………はっ?


アリーさんが言うとは思えなかった、唐突な暴言に硬直してしまった。蓮水の精神に9641のクリティカルダメージ。


「……私もバカだけど、ハスミはもっとバカ。ハスミの『こうしなきゃいけない』はどうでもいいの……私がそうしたいの。ハスミの役に立ちたい。ハスミを元気づけたい。ハスミを癒してあげたい……ハスミを幸せにしたい……全部全部私の自分勝手。私がハスミに頼って欲しいの」


なんて優しい言葉なのか。 俺は意固地なってたのかもしれない。自分の行動にわざわざ難しい理由を見つけて、意図をはりつけ自分をわかりやすく縛っていたのだ。俺はこういう人間だからと制限をした。


だけどいいのかな?


自分勝手にアリーさんの幸せを願って、この苦しさを誰かに慰めてもらいたいと思ってもいいのかな?


そんなはた迷惑な話があっていいのかな。


「……やっと泣いた」


アリーさんがふわりと笑った。アリーさんの真っ赤な目はたしかに慈愛の光をはらんでいた。


俺は最低だ。


この笑みを見て、報われたと思ってしまった。


「アリーさん。今度は本当に大丈夫です」


もう二度と道を誤らない。それをこの気持ちに誓おう。決して間違えることがないように。


「アリーさん。俺を助けてくれてありがとうございます。こんな俺なんできっとアリーさんにてっちゃんにも霞にも迷惑をかけると思いますが、その時はお世話になってもいいですか?」


「……もちろん」


俺はアリーさんと一緒に笑った。 なんだか気分が良かったから。



***




「それじゃあ、帰りますか。俺らの家に」


アリーさんに下りてもらい立ち上がって歩き出す。もう息苦しさも心臓の鼓動も落ち着いていた。 落ち着いたら、お腹すいてきたなぁ


「ハスミ!」


「はい?」


ちょんとほっぺたに柔らかい感触。


「へ?」


今のは?


アリーさんを見ると目だけでなく顔全体が朱色に染まっていた。


まさか今のはキ……


ガシャン!


「ななななななな!」


突然の物音にビクッとする。


廊下の奥には霞が居た。どうやら霞が鉄パイプを……何で?鉄パイプ?を落としたようだ。霞は目を丸くしというか白目で口を開けて呆けている。


その鉄パイプの黒いシミは……


アリーさんのファーストインパクトからまだ復帰していない俺にこれ以上何をさせようっていうの? 急に霞が口を閉じる。ギギギと鉄パイプを拾い直すした。


しばしの静寂。


知ってる。これってホラーでよくある来ないと見せかけての


「来たぁ」


霞は白目をむいたまま、こちらにダッシュしてきた。アリーさんを抱き上げると反対方向に逃げ出す。まさかのエクストラステージですか?


「……ふふふ」


この状況でよく笑えますね。そりゃ被害は俺だけだろうけどさ。


「……ハスミ。ふつつか者だけどよろしくお願いします」


そう言って、再びほっぺにキスをした。












これにて第3章終了です。

後日談とかは次の章の冒頭で。


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