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英 花凛

 私がこんなになちゃったのはいつからだろう。小学生の頃はまだ可愛い子供だった気がする。甘い食べ物が好きで、純粋な笑みを浮かべてみんなと同じですごい楽しかったような気がする。


 中学2年生ぐらいの頃かな。何かお肉が食べたいなーお肉が好きかなーって思ったのは。思春期だったから少し恥ずかしいなぐらいにしか思ってなかったな。あの時は……


 勇気を出して一番仲の良かった友達に話してみた。『きっと成長期何だよ〜。お肉好きなのにそんなにスリムでうらやましぞ〜このこの。』とか言ってくれたな。嬉しかった私普通なんだって思えたから。


 だけどそれも長くは続かなかった。すぐに自分が生肉が好きだって気づいたから。ユッケとかそんな生易しいものじゃなくてスーパーで売ってるパックに入っているようなやつ。


 精肉店の匂いが食欲を誘う。テレビで見た牛や豚の解体作業に釘ずけになった。滴る血に目を奪われた。歩いている猫や犬を見てかわいいの前にどんな味がするんだろうって思うようになった。


 みんなから自分がどんどん隔離されていくのを感じた。近くで話してるのに何だか自分だけ違う感じがした。一時期みんなの言葉の意味でさえ分からなかった。


 私は一体どうしちゃったんだろう。





***



キーンコーンカーンコーン


 チャイムの音で私は目を覚ました。ここは?真っ白なカーテンが見える。保健室かな?私はどうしてこんなところに。


 ビキィ


 いたたた。何か頭がいたい。あれ?私さっきまで屋上にいて……


 あっ!そうだ!遠江くん!


 私は立ち上がろうと自分の横のカーテンを開ける。


ーーーーシャァァァ


 いた。なんか遠江くんがいる。パイプイスのようなものに座りながら『女子と二人きり!しかし会話レベルが低くて話が通じないんだが。』というラノベを読んでいる。うん。あなたの趣味にどうこう言うつもりはないけれどせめてブックカバーはして欲しかった。


 「あっ目が覚めたんですね。」


 いつも通りの眠そうな目とヨソヨソしい態度で声をかけてくる。


 遠江 蓮水くん。いつも何か考え事しているような、ぼーっとしているような男の子。175センチぐらいの割と高い身長にこっちが羨ましいような黒い艶のある髪の毛を持っている。じゃなくて!


 「なんでこんな所にいるの?!」


 「すいませんでした。眠ってる女子の近くにいるなんて気持ち悪かったですよね。お大事にしてください。では」


 「じゃ、じゃなくて……」


 「ああとあれですか?倒れてる原因ですか?それなら信じられない話なんですけどなんと校庭から野球ボールが飛んできたですよね。それが見事に頭に当たったんです」


 この人はわざとやっているんだろうか?少し考えれば質問の主旨ぐらい簡単にわかるでしょ。


 「……なんで逃げなかったの。私が寝ているうちに。」


 「なんでって?」


 「だっておかしいよ!私あなたを襲ったんだよ!しかもあなたを食べようとして!ずっとあなたと会話をしていたのも一人になるのをずっと待ってただけ。親しそうなフリして。気持ち悪いでしょ!」


 そんな困ったような顔で私を見ないで、お願いだから優しくしないで。


 彼はその顔のまま口を開いた。


 「気絶していたのに周りに誰もいなかったら不安な気持ちになりません?状況説明が必要じゃないですか」


 そんな理由で。そんな状況説明とかそんな理由で。そんなの保健室の先生に任せればいいのに。


 「……私気持ち悪かったでしょう?」


 「正直、何言ってんのこの人って思いましたね。今考えてみればあのセリフにあの状況、役得なんじゃないかなって思えてきました」


 「……私、普通じゃなかったよね?」


 「さあ?英さんの普通を知らないですし?」


 「……私は醜かった?」


 「?……英さんは美人ですよ?」


 「私の話を聞いてくれる?」


 「まあ、聞くだけなら。」


 私は遠江くんに中学の頃からの話をし始めた。




***




 「で、英さんはどうしたいんですか?」


 私の話を聞き終わった遠江くんは、開口一番にそういった。


 「どうって?」


 「英さんが自分の好き嫌いに悩んでるってのはわかったんですけど………


 この人私の悩みを好き嫌いで済ませやがったよ。


 ……その好き嫌いを克服したいとか。克服じゃなくてとりあえずあなたの肉を食べたいとか。もうアラスカに行って狩猟生活する。とかなんかないんですか?」


 いや、アラスカは……ないよ。ちょっと考えちゃったけどないよ。

 だけど考えてもみなかった。私のこのコンプレックスとも言える嗜好をどうしたいかなんて。もう一生付き合っていくしかないと思っていた。


 どうにかできるなら私は……


 「克服したい。こんなのやだよ。普通の女子高生みたいに青春を満喫したい。もうこの衝動をなくしたい」


 そうだ私はこの気持ち悪い欲動から逃げだしたいんだ。押さえ込みたいんだ。 私の心からの叫びとも言える願いを聞いた遠江くんは言った。


 「克服できるといいですね。そろそろ夕飯の時間なんで帰りますね。お大事に」



ーーーーガラガラ ピシャン


 えぇ!ありえなくない!普通に帰ったよあの人!確かに被害者だけど『もう気にしてないよ』見たいな空気出してたじゃん。なんかこう一緒に手伝ってくれる流れだったじゃん。決めた!理不尽でもなんでもいい、蓮水(・・くんに手伝ってもらう!



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