一歩踏み出すというのは肯定的な意味で使うだけじゃない
PVが10万を超えました。
読者の皆様ありがとうございます。
このお話もあと一章ぐらいで最後となります。頑張って書きたいと思いますので、お付き合いお願いします。
 
バシャァァ!
「うおわぁ」
俺はあまりの冷たさに目を覚ました。最初に目に入ったのは灰色の壁。どことなく薄汚れていて何年も使われていないような部屋だ。そして自分の状態に気づく。椅子に座らされ、手を後ろに回され胴体を椅子の背もたれに縄で結び付けられている。ヤンデレ監禁スタイルはこれかベットに手錠の二択だと思います。
服からは水が滴り落ちている。髪もビショビショのようだ。どうやら水をぶっかけられたらしい。
もちろんそんなことをした犯人は。
「もう少しまともな起こしかたなかったんですか?」
「ふふ、ごめんなさいね。気持ちよさそうに寝ているのがあまりにも憎たらしくて」
笑いながら恐ろしいことを言っているのは、あの女性。俺の背後からバケツを横に捨てながら現れる。金属のバケツが壁に当たってゴワンゴワンと響く。
あの時背後から襲われここに連れてこられたようだ。
「意外に落ち着いているわね?ここまで想定内だったのかしら?」
「そんなわけないです。監禁されるとわかってたら、あなたの前に出てこないで天狗さんのお世話になってましたよ」
俺の天狗という言葉を聞くと途端に不機嫌そうに顔を歪める。
「その天狗。全く余計なことしてくれたわよね。まさか全員警察送りにしてくれるとわね。全くあの男達もタダじゃないのよ?」
まるでお金をかけたら代わりはいるみたいな言い草だ。
「この恨みをどうやってはらそうかしら?ねぇ、遠江 蓮水くん?」
「…………」
こちらに俺の生徒手帳を見せながらあからさまに名前を呼んでくる。 こちらは全部わかってますよってか?
「私もどうやったらあなたに仕返しできるかなって考えたんだけど。やっぱりここは全部滅茶苦茶にしちゃおうかなって?そうね。あなたを人質にして天狗をおびき寄せて、その間にあなたの家を襲っちゃうとか」
クスクスと楽しそうに笑う。目が全然笑ってない。このお姉さんをここまで駆り立てるものはなんなのだろう。
「何でそこまでするんですか?何でそこまでして吸血鬼を捕まえようとするんですか?」
ピタッと女性は笑うのをやめた。無表情になってこう言った。
「決まってるでしょ。金になるのよ」
言っている意味がわからなかった。
「何驚いた顔をしているの?まさか私に両親の仇ーとかお涙頂戴の理由があるとでも思ったの?ないわよ。野生動物の確保と一緒。珍しい生物は金になるそれだけよ。あっ!そうだ!天狗も一緒に捕まえようかしら。そしたら今回と前回の損失もカバーできるかも」
「前回?」
「以前に吸血鬼狩りに失敗してね〜たくさん黒服消費しちゃったのよね〜もう一回準備し直すのに苦労したわ」
俺が行き着いた最悪の可能性が。
「あんたが匿っている吸血鬼の父親のせいでね」
………………。
「まさかあれだけの武力差でこちらが負けるとわね。ありゃ化け物よね」
………………。
「あれれ。蓮水くん。怒ってるの?もしかして正義感とか振りかざしてあなた達の方が化け物だとか思ってる?まっ全然構わないけどね?これでも自分が外道なことぐらいわかってるつもりよ」
怖いなぁ。怖い。自分に向けられた悪意でもないのにすごくゾワゾワする。
もうこの人の話は聞きたくないな。
胸糞悪い話を聞いているとこちらの心まで腐っていきそうで。
この醜い表情を見ているとこちらの心まですり減っていきそうで。
彼女から発される悪臭を嗅いでいるとこちらの心まで捻じ切れてしまいそうで。
俺も人の汚さをそれなりに見てきたつもりだったけど、ここにもまだ感じたことのない汚泥がたくさんあった。
たった十六年の人生で何を語ってんだ若造がとか言われそうだけどね。
 
相手は自称化け物。
 
ここから始まるのは二人きりの時間だ。
何人たりと立ち入ることが許されない化物達の狂宴。
 
これはヒーローもヒロインもいない。ヒールだけの話。救いようもなければ、救う必要もない。悪役の悪役による悪役だけの余話。
 
こんな力ではこんなことしかできないから。
 
 
「…………《あなたを愛しています》」
これはラブコメです。




