約束はいつの時代も死んでも守るもの
「では、また明日」
「はい、さようなら。先輩」
「さよならです」
「さようなら」
交差点で鬼無里先輩と別れ三人で家を目指す。むわっとした風が頬を撫でる。そろそろ夏本番って感じだ。
「あっち〜」
てっちゃんもさっきの風を感じたのか、リボンを緩め、ブラウスをパタパタしている。そのアクションすごく夏っぽい。 今日の最高気温は30度。夕方とはいえ、けっこうな暑さだ。
「そういえばさ」
「ん?」
「夏休みは何しよっか?」
夏休みとな?
「その話題はちょっと早過ぎないか?まだ一ヶ月ぐらいあるだろ。それにイベントでいえば学園祭がうちは七月中旬にあるぞ」
「いいじゃん、いいじゃん。話のネタだよ。アリーちゃんはどっか行きたいところある?」
「…………?」
アリーさん。アリーさん。首を傾げ過ぎて倒れそうだよ。
「はなび?」
「あっ!それは私も見たいな〜」
「てっちゃんっは見たことないの?」
「山から降りてないからね。手持ちのやつはやったことあるけど、さすがに打ち上げは見たことないかな〜」
「この地区の河川敷で花火大会があるからそこに行けば良いんじゃないの?霞に連れて行ってもらえよ」
俺は行きたくないよ。屋台が出てるから人混みあるし、屋台の食べ物はやたら高いし。 俺はそんなラノベみたいにイベントがポンポン起こる生活したくないのよ。家でゆっくりしたっていいじゃない。
「もう、お兄ちゃん!そこは美少女二人をデートに誘うところでしょ!はい!」
てっちゃんは小指を突き出してくる。
「ほら、アリーちゃんも小指出して!」
「右?左?」
「右!」
てっちゃんの小指が他二人の小指をまとめて搦めとる。三人でやっているせいで些か変則的な指切りが整った。
「指切りげんまん。嘘ついたらー」
この歌よく聞くと怖すぎ。 嘘をついた時罪に対する刑が指切りと拳万と針千本ってヤバいよね。この歌詞を作った人の嘘に対する憎しみが酷い。
「お兄ちゃんが下僕にな〜る」
「針千本じゃないんかい」
ランクアップしちゃってるよ。下手したらもっとひどいことされるやん。 俺のツッコミ虚しくニコニコ笑顔でてっちゃんは最後まで歌いきった。
「指切った!」
切られた。まあしょうがない。ここは甘んじて、てっちゃんとアリーさんの奴隷を受け入れよう。うむ。約束しちゃったものはどうしようもないからね。約束は守らなきゃダメだよね。よ〜し。
え?約束が違うって?何のことかわからないな。
むっ俺のゲスセンサーが強い対敵反応を感じてる。無垢な力の予感。
「約束……ふふ約束!」
アリーさんは右手を胸に抱きしめながら嬉しそうにはにかんでいた。
ふぅ〜
花火大会行きますかね。
「にゃはは。女の子の下僕になれなくて残念だったね」
ふん。全然そんなこと思ってないんだからね。
***
「悪い。学校に忘れ物したわ。ちょっと取り入ってくるから先帰っててくんね?」
「ん〜明日じゃダメなの?」
「ちょっと大事なものだからな。今日取りにいきたい」
「はいよ〜じゃあアリーさんと先帰ってるね」
「バイバイ」
「じゃあな」
俺はてっちゃんとアリーさんに背を向けて走り出し、来た道を引き返す。
住宅街を抜けずに曲がり角を2回ほど過ぎたあたりで俺は立ち止まった。別に走るのに疲れたわけじゃない。ただこの辺が丁度良いだけだ。
もうてっちゃんとアリーさんは遠くへ行っただろうか?
「というか実は俺のファンだったりしますか?お姉さん?」
「ふふ、そうかもね」
路地から出て来たのはマスクにサングラスの女。そうファミレスであったあの女性だ。
女性はゆっくりとマスクとサングラス、帽子を取る。現れ出たのはその帽子四次元ポケット?と言いたくなるほどの背中半ばまである銀髪。日本人離れした美しい顔。
「これで俺のただの熱狂的なファンだったら万々歳だったですけどね」
「ん〜残念。背格好と顔はまあ及第点をあげれるけど、なんかこう覇気がないからダメね」
ん?意外に高評価じゃね。
「一応聞きますけどなんで俺たちのことをつけていたんですか?」
「あなたと一緒にいた金髪の少女を確保するためよ」
予想だにせず簡潔に答えてくれた。もう少し問答があると思ったが拍子抜けだ。
「堂々と誘拐宣言とはもしやこれがお国柄」
「そんなわけないでしょ。あの子を捕まえなければいけない理由がある。ただそれだけよ」
「それってアリーさんが吸血鬼だと言うことですか?」
「あらそんなことまであなたに話したの。知っているならば話が早いわ。彼女を引き渡してくれないかしら?」
「その場合アリーさんはどう扱いを受けるんですかね?」
「そうね。それはもう丁重にお姫様のように扱うは………と言えばあなたは満足?」
「最後のさえなかったら、こちらもサラッと引き渡したんですけどね」
「嘘ばっかり。でも、交渉決裂ね」
最初から説得する気なんてないくせによくおっしゃる。
ピリリリリリリリ
話が終わるのかを待っていたかのように女性のスマホが鳴りだす。
「私よ。状況は?………………そう。ええ。此方の用事ももう済んだわ。だから」
一回言葉をきってこちらを見る。若干だが口元がニヤついている。
「対象をすぐに確保しなさい」




