アリー・ウィーク
私はドイツのある田舎で生まれた。小さい小さい村だった。貧しかったが、食べるのに困るほどではなかった。優しいパパとママと仲良く暮らした。
ママは日本人で私に日本語を教えてくれた。日本でも生きられるようにって。他にも色んな事を教えてくれた。どれもこれもすごくおもしろかった。
その反面、パパが小さい時に私と遊んでくれることはなかった。いつも少し遠くから眺めているだけだった。
私は村の子供たちと森を走り回ったりもした。野ウサギを追っかけたり、果実を採ったりして遊んだ。
楽しく充実した毎日を過ごしていた。
私が10歳の頃、朝起きると村が騒がしかった。窓の外を見ると村の入り口に黒い服をきた人たちがたくさん居た。不気味だった。物語に出てくる死神のようだと思った。
突然、村長さんが倒れた。黒い服の女性が黒い筒を持っていた。
悲鳴が村中に広がった。何が起きたかわからなかった。ママとパパが私の部屋に来て私を抱きしめた。
ママは泣いていた。美人の顔が台無しだった。パパは険しい顔で謝っていた。何度も何度も。
パパはママと私を地下の倉庫に隠した。私たちに元気付ける言葉をかけると精一杯の笑顔で扉を閉めた。その時のパパの笑顔は泣いているような気がした。
暗闇で私はママに抱きつきながらじっとしていた。外からは何かが割れる音や崩れる音。誰かの怒声や悲鳴が聞こえてきた。
そんな苦しい音から逃れるように私は目をつぶってママの体に顔を埋めた。そのまま眠ってしまった。
光を感じて目を覚ました。
パパが地下室の扉を開けていた。体が赤っぽい黒で覆われていた。フラフラと今にも崩れそうなパパにママは私を抱きかかえながらかけよった。パパはママに何かを囁き私の頬を撫でるとゆっくりと崩れ落ちた。
私はママと一緒に引っ越した。村を追い出されたから。優しかった村の人たちが怖い目で私を睨んでいた。そういえば、仲良しだったあの子の名前はなんだったっけ?
***
その四年後、ママが病気になった。
ママは私を育てるために無理をしたらしい。学校から帰ってくるとママが倒れていた。病院に連れていったら癌だと言われた。
お医者さんはたくさんしゃべっていたけど、難しいことはわからなかった。ただ余命という言葉は耳に残った。 寝たきりなママは私にパパのことを話した。
パパは吸血鬼だった。大好きなママの言葉だから直ぐに信じた。ママはドイツ旅行に来てパパを見つけ一目惚れしたらしい。
パパは本当は血だけ吸ってママの事を捨てようとしたらしい。ひどいよね。
その後どうやって結婚したのかは教えてくれなかった。一つ言えることはパパはママに尻に敷かれていたよ。
まあ、そういうことで私には半分吸血鬼の血が流れているらしい。どちらかの血が濃く出るかはわからない。
『でも大丈夫、あなたは優しい子だから』って言って頭を撫でてくれた。
そんなある日、ママの親友の人がお見舞いに来た。日本人で世界中を旅しているらしい。のんびりとした優しい人だった。その人のパパを交えて三人で楽しそうに話していた。
私はいい子だから静かにしていた。ちょっとママを取られて悔しかったけどもう立派な淑女だから。
二人が帰るとママは私に言った。あなたに婚約者ができたよって。
ママの頭を心配した。
なんか盛り上がりゃったらしい。ママは私の婚約者?という男の子の良い所をたくさん説明しはじめた。 ママはあったことあるんだっけ?でも楽しそうに話していた。
ママは亡くなった。優しい笑顔のまま私の手を握って。
私とママの親友の人とそのパパで看取った。私とママの親友の人はワンワン泣いた。泣きじゃくった。
ママは火葬してこそっりとパパが亡くなったところへまきに行ってもらった。ママはきっとそう望んでるから。
ママの親友の人は私を引き取るって言ってくれた。嬉しかった。だけど断った。だって私は吸血鬼かもしれないから。その事を伝えると親友の人は笑った。
『細いことは気にしないの!さあ行くよ!』
流れるままに日本に連れてかれた。
ママの骨はママの実家にと届けに行くらしい。
そして私は『遠江家』へ。
そこで私は運命の出会いがあった。
***
私は怖かったんだ。本当は。
あの黒い服の人たちはパパが吸血鬼だったから襲われたってわかってたから。吸血鬼はモンスターなんだって知ったから。
私は吸血鬼の血が濃かった。だからハスミの血の匂いにつられて襲ってしまって眠らされて、ああもう拒絶させられるんだって思った。ちょっと涙が溢れた。
だけど違った。ハスミの目はすごい温かかった。
ハスミは私を受け入れてくれた。ハスミは私の中に入り込んできた。何も知らない他人なのに、何も聞かずにその身を捧げてくれた。興味なさそうなフリをしてこちらを慮って。
その瞬間吸血衝動がすっと治った。
その代わりハスミを触りたくなった。触ってほしくなった。甘えたくなった。甘えてほしくなった。もっと知りたくなった。もっとしってほしくなった。
この胸の気持ちを大事にしようと思った。
ママ。私の婚約者は、ママが言った通り『優しくてかわいい男の子』だったよ。




