会話のリズムが合わない相手いるよね
許嫁さんの名前がウィークさんだと判明。それと空気が読めないかも。
ウィークさんは、まだ俺とてっちゃんのことをじっと見つめている。体勢的にかなり恥ずかしいが、なんだか迂闊に動けない雰囲気。動いたら斬られる!みたいな感じかな。
ウィークさんの一挙一動に注目する。
ふと、目を逸らす。立つ。もといた場所に戻る。座る。お茶を飲む……ってそれだけ?
「あ、あのぉ」
俺はおそるおそる話しかけりる。
「ん?」
「何か言いたいことがあったのでは?」
「?……言ったよ。…自己紹介はちゃんとしなさいって教わったから……」
うむ、それは大事なことだ。日本人として当然なこと。あまりの状況にすっかり失念していた。そりゃそうだ挨拶は大事だよな。というかその文化、外国にでもあるんだ。
はぁ。こんな見知らないところでしっかりと挨拶をした人がいるのに俺らときたらもう。親父と戯れてたのがいけなかったな。つまり全部親父が悪い。家族の責任を全部請け負ってくれるなんて感動で涙がちょちょぎれる。
それじゃあまずは……
「霞、霞っ」
「……あっ兄さん…………みんながいるので待ってくれませんか?」
「何を言ってるんだ?」
「えっ………へっ……ひゃぁ……ゴホン。私に何かようですか兄さん?」
「おう、戻ってきてくれて何よりだ。まず、親父の尋問をするよりも前にやるべきことがあったよ。……ちゃんと挨拶をしよう。みんなでさ」
霞はハッとした顔をする。
「すいません。私がお父さんを正座させたばっかりに」
「それについたはグッジョブとしか言いようがないな」
初対面の挨拶つまり掴みは大事ってことは高校入ってからのクラス学んだからね。その失敗をここで生かす。
もう二度とするもんか。緊張のあまり下を向きながら、早口で名前と出身校だけ言ったあの自己紹介を。終わった後の一拍遅れてまばらな拍手。とても辛かったです。
「こんばんは。天ですにゃ。このお兄ちゃんの未来の恋人にゃ」
嘘をつくな嘘を。
「遠江 霞です。あそこのの娘で、そこのの妹です」
指をさすな指を。
「ウィークさん」
俺は一度名前を呼ぶ。 小学校の先生のように挨拶・掃除至上主義みたいなものではないけれど。挨拶ができるかどうかで人をはかるのはあまりの好きではないけれど、きっとこの子とならうまくやっていけるとそう思った。だから、はっきりしっかり伝えよう自分のことを。
「遠江 はす「アリー」
「へっ?」
「アリー」
「はぁ」
「アリー」
「………」
「アリー」
「アリーさんと呼べばいいですか?」
コクリと頷く。
「そうですか……」
「……」
「……」
「……」
「……えっと、遠江 蓮水って言います」
「みんな、よろしくね」
お、おう、おうおう。あーこういう感じの人かーなるほどなるほど。
きっとうまくやっていけるさ。(ヤケ)
***
四人でテーブルを囲み、相互理解を深めるためでお馴染み質問タイムに突入。テーブルの長い一辺にアリーさんが一人で座り、向かい合うようにして俺とてっちゃんが並んで座る。短い一辺には霞が座っている。
「アリーさんはどこで、親父と出逢ったんですか?」
「私の家で」
……うん、質問が悪かったは今のは。大丈夫。この人はこういう方なんだよ。これがしょうがないんだよ。無口系かつ無表情ね。クーデレ一直線ってやつですね。了解、了解。 あれだろ、ゲーマー兄弟の妹の方と会話をしてると思えばいいんでしょ。
何それ、萌える。
「アリーさんは、どこの出身何ですか?」
「ドイツ」
「どうして、日本に来たんですか?」
「……お義父さんに連れてこられたから」
そこらに転がっている親父を指差しながら言う。
「はっ?」
「ついて来たら、ご飯食べさせてくれるって」
「ちょっとそこのカスを起こせ」
やばい、親父が不審者だ。完全なる変質者だ。おいおい完全変態果たしてんじゃぇか。どこの虫だよ。 霞が、親父に背中から喝らしきものを入れる。電気ショックを受けてように親父の身体がはねた後、頭を振りながら起き始める。
今の技は何でしょうか?
うちの妹が武道家すぎる件についてとかいうスレ立てしていい?
「うう………Where is me.Who is here.」
もう一回寝かせようかな。 ツッコむのもめんどくさいんだけど。
「ここは遠江家で、貴方はカスですよ。思い出しましたか?」
「霞は何を教えてんだ」
頭を振っていた親父がふと窓の外を見る。窓の外は夕日が山と山の間に沈もうとしており、くらい茜色で染まっている。
「……やべっ」
親父が突然、襖を開けて部屋から出て行く。それから玄関のドアが開く音と閉まる音。どうやら、外に向かったようだ。 突然のことすぎて誰も動いていない。というかてっちゃんにいたっては普通にアリーさんと談笑していた。
「っ!待ちなさい!」
霞が親父を追いかけて走り出す。もう、暗くなるから気をつけろよ〜
さて、あとは若い人に任せて邪魔者は退散するとしましょうかね。おほほ。
もはや色々どうでもよくなった俺はこの場から逃げようとする。
ガシッ
立ち上がろうとした俺の袖をアリーさんが掴む。いつの間にテーブルのこちら側へ!
「ーーぁ」
ウィークさんが何かを言っている。ただ、顔は俯いているし、長い金髪が顔をおおっているのでの何を言ったかは推測もできない。
「ーーがぁ」
がぁ?
「ーーーーーーーー血がぁ」
あれれ〜おっかしいぞ〜変だな〜僕の耳が正しかったら『血がぁ』って聞こえるぞ〜ああ〜『違う』って言ってるのかも〜
俺が某名探偵風に現実から目を背けもうダッシュで逆方向に進もうとする。しかし、そんなことは許されるはずもなく。
「血がぁ……欲しいィ……」
顔を上げたアリーさんの目は金色から赤色に変わっていた。そして犬歯は下唇に届くまで伸びている。紛れもなくこれは……
「吸血鬼!」
てっちゃんが驚いたような声を出す。
同時に俺はこう思った。 『吸血鬼?鬼ってキャラが被ってますけど!』そんなことは知らんとばかりに、俺は再び巻き込まていく。




