結婚の名言はかず多くあれど、だいたいがネガティヴ
六月の花嫁というのを知っているだろうか?ざっくりいうと欧米で始まった風習?であり、六月に結婚したらしあわせになれるよ的なアレである。日本ではクリスマスとかバレンタインとかの下々互換ぐらいの扱いかな。うん、多分そんな感じ。
これ不思議な感じするよね。幸せになるために結婚するのに六月に結婚したらしあわせになれるよって、もはやどういうことなのかわからん。なんなん勝ち組の癖してまだ幸せを積んどきたいの?実は望まれぬ結婚なの?
結婚が幸せな事ばかりではないことをうすうす感じているからできたのかもしれないよね。『変身』などの文学作品を書いた人は好きな人ができて結婚したいって思うけど、いざ結婚して家庭を持つよってなると不安に押しつぶされそうになって逃げ出しちゃうらしいよ。これは最低だね。
後、結婚つながりでもう一つ。マリッジブルーって言葉あるよね。あれを最初、小説家なんかで読んだ時てっきり落ち込んだ時に使うもんだと思ったなぁ。横文字でかっこいいから親に使ってみたら『なんだwwwwwお前wwww結婚すんのかwwwwwwww』みたいな反応されて恥をかいた記憶がある。草生やしすぎだから。
ここまで勝手な意見をのたまってきたが、俺はまだ16歳だし現代人なもんで結婚などは程遠い領域の話なんだけどね。
そう思っていた時期が俺にもありました。
***
「蓮水。お前の婚約者連れてきたから」
寝言は寝て言えよ。夕食の最中に親父が神妙な顔でいう。なんでこんなに真剣な顔似合わないんだろう。やっぱりいつもにやけてるせいで顔が歪んでるからかな?よし、歪みをのすために横から衝撃を当ててみよう。
「ちょっと待て!なんで手をパキポキと鳴らしている」
「なんでって…準備しなきゃ怪我するだろ。意外に人を殴るのも楽ではないんだぞ」
「待って、なんで殴るの?!俺、ユーの、ちちおや」
「カタコト、ムカつく」
成敗!ふう、これで世界がまた一歩平和に近づいた気がするよ。
「もう、義父さんたら。結婚相手ならここにいるのにね。ねぇ、お兄ちゃん」
「ちょっと、話がややこしくなること言わんでくれないかな。てっちゃん!」
俺は自分の隣で魚の骨を箸で器用にとっているてっちゃんにいう。体は大きくなっているものの相変わらずにぱぁーとした笑顔を浮かべている。
結局てっちゃんがあの山に帰ることはせずにここに居座りはじめた。とりあえず、霞には行く宛のない家出少女として説明した。さすがに信じないだろうと思ったが、なぜか信じてもらえた。まあ、大反対されたけど。
学校には俺たちの従兄弟の遠江 天として転校してきた。なんか神通力で色々やったらしいが詳しくは知らん。というか恐ろしくて聞けない。
「兄さん。天さんのいつもの戯言は聞き流してください。家出少女はがめついですからね、そのうち身ぐるみ剥がされますよ」
「もう、霞ちゃんは厳しいなぁ〜」
てっちゃんは俺の耳元ヘさっと口を近づけていう。
「私が本当に欲しいのは蓮水だけ」
…………あの朝の一幕からてっちゃんは俺への好意を隠そうともせずに、積極的にくる。
いや、俺だって色々言ったさ。てっちゃん自身を最初に見つけたのが俺だっただけで、きっとこれからもっと沢山の出逢いがあるはずだ。だから、俺じゃなくてもっと違う人に……
そう言ったらてっちゃんは。
『お兄ちゃんは馬鹿?何?これからの出逢いって?蓮水は貴方だけだよ。確かに世界中を探せば、お兄ちゃんより、イケメンな人も優しい人もお金持ちな人もいるかもしれない。だけどあの時、あの場所で私を追いかけてくれたのはお兄ちゃんだけだよ』
『お兄ちゃん。人の気持ちは考えても仕方ないの。どんなにお兄ちゃんが理屈を屁理屈をこねようが、私に説得する言葉は持ってないよ』
『ただ、貴方が、お兄ちゃんが、蓮水が好きです』
『追いかけて捕まえておいて、離すなんて許さないからね』
今思い出しても恥ずかしすぎる。あんなに真っ直ぐな好意は初めてだ。もう、めちゃくちゃ近くにあるてっちゃんの顔がまともに見れない。
ちなみに告白は謹んでお断りしました。
……誰だヘタレって言ったの。
確かにてっちゃんは好きだけどそれは決してライクであってラブではないし、そんな状態で告白を受けても不誠実だろ。 ちなみにこれを普通にてっちゃんに言ったら、蔑んだ目で『うわぁ、メルヘン童貞』って言われた。解せぬ。
「あなたたちはいつまでひっつきあっているんですか?夕食の時間ですよ。早く離れなさい」
霞がこちらに冷めた目線を向ける。それに対しててっちゃんはさらに俺の方に引っ付く。
「ごめんね。お兄ちゃんを取っちゃって。寂しかったにゃ?」
「私が寂しい?兄さんを取られて?冗談もほどほどのしないと流石の私でも怒りますよ?後たまに使う語尾なんですか?あざとすぎて引きます?」
「お兄ちゃんが強制してくるにゃ」
バキィ
霞さん。箸2本目逝ったぁ。
そりゃ怒るよ。身内になかなかの変態がいるっていう事態だからね。
ちょっと待って霞さん。その手首のスナップは何?準備体操?待って、待ってその折れた箸をどうするつもり?
あぁぁぁぁ
俺が天国への階段を一歩を踏み出そうとした時、襖が控え目に開いた。
だれだろお母さんかな?
「あの……いつ入ればいい?」
襖から少し覗く顔。小ぶりな顔に綺麗な金髪碧眼。
「「「誰?」」」
「だから、お前の許嫁」
バキィィィ!
どうも告白されて、リア充まっしぐらの遠江 蓮水です。更に六月のある日、俺に許嫁ができました。
とりあえず箸を三膳ほど買い直さなきゃな。




