運命の悪戯は残酷だ
ザァーーーーーーー
激しい雨と風が体を打ち付ける。効果音の字面だけ見れば深夜のテレビのようだが、そんな生易しいものではない。一刻一刻が自分の体温を奪っていく。
「くそッ、あいつらは何処へ行ったんだよ」
わりかし小さな村だからみんなで探していればそのうち見つかると思ったが、甘かった。全然、見つからない。
こんなにたくさんの大人を振り回すなんて小悪魔系女子の片鱗を見せつけてくれてんのかよ。見つけたら恨み言の一つや二つ言ってやる。
「おい!そこの兄ちゃんも集合してくれ!」
「どうしたんですか!」
「一回集まって探す場所を擦り合わせないといけなぇんだ!」
「わかりました!すぐに行きます!」
***
村の中心に集まるともう既にたくさんの人が、集まっていた。中には実篤の姿も見える。
「実篤!どうだった?!」
俺は何かしらの発見がある事を期待して聞くが、実篤は、黙って首を横に振った。
…………………………。
「そこの兄ちゃん二人!」
先程、俺を呼びにきた人に声をかけられる。
「なんですか?」
「兄ちゃん達はずっと捜しっぱなしだろ?もう、休んでくれ」
「えっ?でも、まだ見つかっては」
「それでここの住人ではない兄ちゃん達が遭難したら困るだろ?疲れは判断力を鈍らせるしな」
「………………」
「まあ、あれだ。他所者が頑張ってるとなると、俺らも休憩しずらいから」
この男の人が気を使ってくれているのはわかった。よそ者という少しきついワードも不思議と気に触ることはなかった。
「蓮水。その通りだよ。あんまり困らせないの」
後ろから、俺を諌める声がかかる。振り返ると傘を差した花凛さんが立っていた。
「花凛さん。どうしてここに?」
「誰かが止めないと絶対に無茶するから、お目付け役としてきたの。蓮水のね(今日の私じゃんけん強い♫) 」
何もかもお見通しか。
「わかりました。一回公民館に戻ります」
「そうそう。それでいいの。鬼無里先輩達も心配していたよ」
「そんなに、俺が何かをやらかすと思ってるんですかね」
「みんな、そう思ってるよ?」
「さも、常識を改めて聞かれたような顔しないでください。俺だって傷つきますから」
この人は…小首を傾げて…すごいかわいいじゃねぇか。
「まあ、何かをしてくれるとも思ってるよ」
「同じことでしょう?」
「それはどうかなぁ〜」
どっちみち俺がすることには変わりはないわけですし。……どっちみち俺が世界に及ぼす影響は変わりはないわけですし。後者の方がかっこいいだと。
「それで、子供達の状況はどんな感じなの?」
一転して真面目な顔になる花凛さん。
「見つかってもないですし。手がかりもないです」
「そっか。みんな心配しているのに。どこに行ったんだろうね」
「まったくです」
「さっきもお母さんがたが、公民館にたづねてきたんだよ」
「何か子供達の行き先について言ってませんでしたか?」
「そんな事があったらもうとっくに話してるよ。…ただ、山に近づくなと注意はしておいたから、そっちには行ってないだろうって」
「山に近づくなって言っても、ここ自体が山の中ですよね」
「違う、違う。それもそうだけど。私たちが下ってきた山の方だよ。土砂くずれが起きやすいから」
「!!」
おいおい!あそこが崩れたらどうなる。決まっているあの洞窟も何もかも埋まってしまう。それにてっちゃんだって…あいつが天狗で、不思議な力を使えるのは知っている。それでも、本当に大丈夫なのか?
お前らまさかこう思ったのか?『てっちゃんを助けなきゃ』と。
「……花凛さん。俺、あいつらの行き先わかったかもしれません」
「えっ?!本当に!」
「行ってきます」
花凛さんの返事を聞かず走り始めた。振り下ろされる雨粒もぬかるんだ道も今だけは気にならない。今、あいつらだけで必死に戦っているのを知ったから。
***
ハァ、ハァ、ハァ
文化部の俺がひたすら走る。心臓がバクバクしてる。足は膝からガクガクきている。でもまだ走れる。アドレナリンって奴か。みんなも持久走とか極限状態で測ったらどうだろうか?絶対に記録伸びるから。
見つけた。
洞窟へと続く道で、うずくまる影が三つ。その横にはでっかい木が倒れていて道をふさいでいる。木のせいで立ち往生しているようだ。
その木に押しつぶされなくてよかったし。木のおかげで子供達が先に進めなかったのもよかった。何はともあれこれで解決か。よかった。えがった。
そんな風に安堵した俺をあざ笑うかのようにそれは起きた。
ゴゴギゴゴギギギ
木が
倒れる
子供達の
上に
認識して、走り出した時には遅かった。




