お兄ちゃん呼びが仇になるとは
てっちゃんと手をつなぎながら階段を登る。この階段は穴のすぐ横ぐらいにつながっているそうだ。
てっちゃん曰く、階段ではなく穴を選ぶことを信じていにゃ。ハート。選ぶっていうか気づかないうちにはまったんだけどね。
というか俺が穴を見つけたらそこに落ちていくようなアグレッシブな人だと思われてんの。もしくは芸人気質。まあ、穴があったら入りたいぐらいの恥ずかしい人生を送ってるけどね。
おっ!やっと終わりが見えてきたな。どんだけ長い滑り台だったのかと今になって恐ろしい。
「ぐわ〜やっと地中から出れたな」
地中からでても洞窟の中なんだけどね。気分的に伸びをしてみる。
「ごめんにゃ。こんなに長く拘束するつもりなかったんだけどにゃ。お兄ちゃん」
申し訳なさそうに言う。先程、奴隷うんぬんかんぬん言っていた人と同一人物とは思えない。人物じゃないけどね。
「お兄ちゃん?」
「にゃ?」
地獄からの声が聞こえた。死神の吐息を感じた。悪魔に首元を掴まれた。深淵に引き摺り下ろされる。俺、この戦争が終わったら結婚するんだ。ここは任せて先に行けぇぇぇぇぇ。
つまり俺は今死と隣人になっているということ。
俺は首を歯車仕掛けのようにギギギギギと動かす。洞窟の入り口に霞と花凛さんが立っていた。笑顔ではある。笑顔ではあるんだけど。
「その子は誰ですか?そしてお兄ちゃんとは?」
「にゃって何かな?小さい子に何を言わせているのかな?」
「……弁解させて貰ってよろしいでしょうか?」
「「却下。」」
「いやいや。誤解だよ誤解。お兄ちゃんっていうのは小さい子が年上の人を呼ぶときの呼び方だろ!にゃに関しては俺が言わせてるわけじゃないから!なぁ!」
てっちゃんも何か弁明してくれ。
ニヤッ
てっちゃん今、こっちを見て少し笑いやがった。ま、まさか。
「そんな……私を妹にしてくれるっていうのは嘘だったの!お兄ちゃんがにゃってつけると可愛い可愛いって喜ぶから私頑張ったんだよ!」
迫真の演技だなおい。なんで涙まで流せんだよ。何?子役なの?銀幕デビューするわけ。
ほら。あっちの二人ものすごいことになってるよ!
「お母さんだってあんなに喜んだのに!ええええん…」
泣きながら(振り)森の方に駆け出していくてっちゃん。お母さんって誰だよ。
「「兄さん(蓮水)??????」」
はてなマークが多すぎて怖いです。
「いや〜修羅場だな〜」
「はい、どーん」
「ヘブしっ!」
安定的にイラッときたのでとりあえず実篤を投げ飛ばす。こいつ投げやすいな〜鬼無里先輩がいつも投げているのもわかる気がする。キャラが軽いと存在も軽くなんのかな?
「はっはっはっ!相変わらず蓮水くんは楽しそうにやっているようだな」
「あっどうもなんかお久しぶりです。鬼無里先輩」
「そうだね。ざっと25日ぶりぐらいの出番だね」
「えっ?」
なんだろうか。確証はないけれど。何かメタ的なものを感じたような。
「いやいやこっちの話だ気にしないでくれたまえ」
「了解です」
しかしさすが先輩落ち着いていらしゃる。やっぱり年上は違うな。中学生の時は高校生が大人に見えるの法則と同じだね。違うか。因みに中学生にとっての大学生は不良と同じぐらいの恐怖の対象だったりする。目つきが気に入らないとかで絡まれそう。違うか。
「それにしてもこっちは急にいなくなった蓮水くんを探してやっとここにたどり着いたというのに……」
「兄さんはそんなことを御構い無しによそに妹を作るし」
「その人に蓮水の趣味嗜好全開の語尾を強要するし」
「さっきはえらく仲よさげに手をつないでいたりもしたね」
なんだろうか徐々に鬼無里先輩の圧まで高まってきているような。
すっかり忘れていたけど俺ここにさらわれてきているんだよな。うん。ここは色々冤罪があるけれどもしっかり謝罪をしておこう。ほいほい陳謝陳謝。陳謝って新陳代謝の略だっけ。
「あらあら、まあ随分と賑やかになったのね〜。」
はい?声のした方を見ると美人さんが立っていた。
頬に手を当てながらほんわりほわほわ微笑んでいる。外見的にはてっちゃんをそのまま大人にしたらこうなるのかなっていう感じ……あれ?
「さっき照子が泣きながら私のところに来たのよ。もう、妹に意地悪しちゃダメじゃない。お兄ちゃんなんだから」
そう言って俺の頭を人差し指でコツンと叩く。何この子の自作自演。怖っ。
「すいません。綺麗な奥さんお名前はなんて言うんですか?」キラリ
えっ実篤はこういうタイプの人が好きだったの。年上奥様に年下イケメン高校生とか。はっ。ぺっ。
「うふふふふふふふふふふふ」
「すいませんでした」
強ぇ。笑っているだけでナンパを撃退しやがった。
「兄さん?その人は誰ですか?」
俺に聞かれても困る。俺だって初対面です。
「蓮水くんの奥さんですよ〜」
「「「「「!!!!!!!!!!!!」」」」」
と、とんでもない地雷をぶち込みやがった。




