最初に女性に恐怖を覚えたのは妹です。
書き溜めがあったので投稿しました。なくなり次第2日おきの投稿になります。
「ただいま」
入学初日を無事?乗り切り、家に帰ってきた。どうでもいいけど、自転車で30分のところにある高校って近いと思う?
「お帰りなさい。兄さん」
「おう、ただいま霞」
玄関で出迎えてくれたのは双子の妹である。言い忘れていたがうちは古武術の道場をやっており妹は、家でも道着を着ている。柔道じゃなくて剣道っぽい道着ね。そっちの方が萌えるしね。そういう基準で決めてないか。妹が着ている服装で萌える萌えないの会話はやめとこう。
「兄さん。玄関に突っ立てないで、早く上がってください」
「悪い悪い」
「すぐ夕食なので早く食卓に来てくださいね。……それとどうしたんですかその頬の傷は?」
「ああこれ、ちょっと階段でこけてね。よくわかったなこんな小さい傷」
「それぐらいわかりますよ。集中力を持ってすれば。別にじっくり顔を見ていたとかではないですから」
「誰も言ってないけどな。部屋に荷物置いてくる」
「……そうして下さい」
この傷ね。ヤバい。放課後のこと思い出して顔が熱くなってきた。
***
「よろしくね」
うわーめっちゃ笑顔綺麗だなこの人。作り物みたいだ。さすが美人。悪口じゃないよ褒めてるよ。本当だよ。
「あっ……」
英さんが俺の頬に手を伸ばしてくる。えっ?なに急に?それ以上俺のパーソナルスペースに入んないでもらっていいですか。死ぬぞ。俺が。
「血が……」
血?本当だ!ちょっとピリってすると思ったら少し血が出てんじゃん。『君が怪我がないならそれでいい』とか言って頬を拭ってみようかな。完全に外すな。
なんで英さんはその血がついた自分の指を見ているんですか。何でそんな凝視してんの?より目になっちゃてるよ。美人が台無しだよ。まあ、ここは清潔アピールでも……
「ハンカチ使い「ねぇ」
「はい」
普通に言葉遮られた。意外に自分の言葉が言えないのって辛い。
「遠江くんって何型?」
「A型です」
「そう」
英さんがゆっくりとこちらに両手を伸ばしてくる。思わず後ずさる。
「逃げないで」
そのまま俺の頬を両手で挟むと、顔をどんどん近づけてくる。英さんの整った顔が迫ってくる。それはまるで「キ」から始まって「ス」で終わるものようで。
そして英さんは俺の頬の血をなめとった。
入学初日。初対面でどういう状況だ?最近の高校生はこういう挨拶をするんですか?そうですか。俺は違う文化圏の人のようです。
「……………………………………」
ちょっと待って。何で英さんは俺を掴んだまま固まっているの。まさか惚れましたか。ラブコメ展開ですか。ごちそうさまです。お願いですから放してください。
「あの……」
「ご、ごめん。……そ、そう消毒、消毒ほら最近の細菌は危ないからさ。えっと……助けてくれてありがとう。じゃあまたね!」
「あっ、はい。さようなら。」
階段を駆け下りていく英さん。英さんもお茶目だな、最近の細菌だなんてぇ。
「………………帰ろう」
***
妹と二人きりの食卓で思い切って聞いてみることにした。
「なあ、霞。女子が、男子の顔を舐めるのって普通かな?」
「はい?何を言っているんですか?そういう妄想の類は兄さんの頭の中で留めておいてください。変態ですか?」
「いやそれが実際にやられたんだよ」
「はい?」
おかしいな。さっきと同じ言葉の筈なのに絶対零度並みに冷たく聞こえる。
「兄さん、箸を置きなさい。そしてどういう状況でそうなったのか説明しなさい。もちろん兄さんが拒否することなんてありませんよね。だって兄さんは被害者なんですから。兄さんが強要した訳ではないんですから。ねぇ?」
いや何?怖い怖い怖い怖い。いつもだけど無表情で淡々と言ってるのが怖い。俺が強要したと思ってんの?そんな変態じゃないよ。
舐められた時も、意外に舌って冷たくて柔らかいんだなとか、なんか髪からいい匂いしたなとか、女子の手は小さいんだなとかしか思ってないからね。
どう考えても変態でした。
「強要なんてする筈がないだろ。ただ階段から落ちてきた女子受け止めて一緒に落ちて。それで怪我して、怪我舐められたっていうだけだよ。」
バキッとね。
へっ、へー。箸って片手で折れるんだぁ。初めて知ったなぁ。
「……兄さんに抱きついて優しく受け止めてもらったうえで怪我をさせるなんて……それだけでは飽き足らず私の兄さんを舐めるなんて羨ましいことを……この気持ちをどこへ持っていけば……」
「大丈夫か?いきなり俯き出して?」
「……兄さん」
「何でしゃっろ?」
「その人に近づかないでくださいね。その人完全に変人ですからね。危ない人ですからね。あれです。いわゆる肉食系女子というやつです。兄さんなんてす直ぐ騙されてお金を盗られるのが落ちですよ。」
「いや、そんな事ないだろう。笑顔のかわいい良い人だったし。それにワンチャン俺に惚れたっていう可能性も無きにしも非ずだろ。」
「兄さん……鏡、見て。」
「俺こんな事も言っちゃいけないレベルで顔ダメか」
「…………………………………」
「目を逸らして黙るな。いつもそんな感情表現豊かじゃないだろうが。こういう時だけ的確に俺の心えぐってくるな」
妹にボコボコにされる兄。ご褒美じゃない。