物語の結末は知りたいけど最終回は見たくない。
「じいちゃん。真剣な話なんだけど……しっかりと会話できる?」
「は?なんだって?」
俺は踵を返して、蔵から出ようとする。
「待って!待つのじゃ。ちょっち、久しぶりの蓮水との会話に興奮してしまっただけなのじゃ。許してくれこの通り」
普通に孫の足元に縋り付くな気持ち悪い。何が悲しくて女の子と出掛けた夜にじじいと漫才をしなければならんのだ。
「じゃあ、本題に入るけど大丈夫?」
「よし、ばっちこい。」
俺は手に取っていた冊子やらを見せながら言う。
「これなんだけど……」
「むっ、ふむこの地域に伝わる民話じゃな。懐かしいの〜子供の頃親に聞かしてもらったもんじゃ」
「この話に出てくる『うつくしひめ』は実在してるでしょ」
確認の意を込めて尋ねる。
「ふむ……ここにある資料でも読んだか……まあ、確かにモデルになった人物は実在していたらしいがの」
ここにあった資料は、何代にも渡って書き続けられた領地の記録のようなもの。うちの先祖は代々ここら辺を仕切っていたらしい。
その資料曰く、動物を意のままに操る人が出た。恐ろしいほどの人心掌握に長けた人物が都に向かった。誰をもが感動する歌人がいる。等々童話にあったような人物が出ているのである。
「そんなの聞いてどうするんじゃ。別に珍しい事もなかろう。地方に伝わる童話で現実に起きたことを元にして書いてあるというのは。どの時代にも天才・奇才がいたということじゃな」
それには何の問題もない。ここで問題なのは、その特異な人物が全員同じ家系図に載っていたことにある。
そのじいちゃんの答えを聞いて虚しさが胸に募った。だって散々悩んできた自分の訳がわからない能力は血筋のせいだったのだから。
傑作だ。自分が求めていた答えがこんな近くにあるなんて。
だが、自分の事がたとえ救えなくても英さんを救える可能性が出てきた。うつくしひめと同じようにひとくいおにが実在した可能性と共に。
***
「ひとくいおにが実在する可能性?」
「はい」
土曜日の夜にあったことを英さんに伝え終わる。とてつもなく胡散臭そうにこちらを見てくる。信じられないのも無理はないかな自分の事がなかったら俺も嘘だと切り捨ててしまう。
英さんが目をスッと細める。
「ふ〜ん。蓮水くんは私を人食い鬼だなんて言うんだ〜そんな化け物だって言いたいんだ。ふ〜〜〜ん」
「化け物ではないです」
俺は間髪入れずに反論した。英さんは冗談の延長線上で発言している。だけどこれだけは言っておきたかった。
「えっ?」
「化け物ではないです。ひとくいおにだって心を持っています。……まあきっとですが」
「どうして、そんなことが言えるの?」
「あの童話には続きがあったんです」
蔵で見つけた話には続きが存在した。うつくしひめのではなく、ひとくいおにの側のだ。武士に切りつけられたひとくいおにが崖の下で倒れているシーンからその物語は始まる。今にも力尽きそうなひとくいおにはそこで盲目の少女と少女のお付きの老婆に出会うのだ。人の肉を求めるおににその少女は自らの身体を差し出す。
『自分が生きていても意味がないから。ならもっと生に執着している人に』
その言葉を聞いたおには食欲が一気になくなるのを感じる。おにの中に何かが満たされる充足感と共に意識が落ちていった。
おには気づいた。自分がまだ生きていることに。見ると傷跡が治療されており。おにの体に寄りかかり眠る少女。
『おまえはぁ。なんでこんなことしたんだぁ』
『あなたが生きたがっていたから』
『おれがぁ怖くないのかぁ』
『何分目が見えないもので』
『おまえはぁなんて言うんだ?』
『花と申します。名字は、はなぶさと』
『はな。ありがとう。おれをみたしてくれて』
そして二人はいつまでも。
「ーーという話だったんです」
「ひとくいおにが私の先祖だとそう言いたいの?」
「はい。そうですね。英さんの例の衝動もこれだったら説明できるんじゃないですかね。先祖帰りしたとかで」
「名字が偶然同じだってだけで?」
「はい」
俺は真っ直ぐに見つめる。確かに根拠は薄い。だが確信はあった。
「はぁ〜わかった。この事がもし本当だったとして蓮水くんは何がしたいの?」
英さんはがっくりしながら言う。
「こういうことですね」
俺は徐にナイフを取り出すと腕を服の下で腕を縛っていたゴムをとり、自分の手首を切りつけた。
裏設定でおには人型になれます。勿論人を騙して喰らうためです。本来は。




