帰るまでがデートであります。
「今日はありがとうね。付き合ってもらって。デート楽しかったよ」
図書館を出て少ししてから英さんがこちらに向かって言う。
あの童話を読み終わった後、もう少し調べてみたがとくにこれといって目新しい情報を手に入れることはできなかった。
そして英さんの悩みについても進展なし。生肉を好きな人がいるはいるということ知れただけでも前に進むことができたと思いたい。
やはり解決できないから悩みなのかなっと思ったりもする。よく物語とかで人の悩みを解決していく部活などが存在するが、そこでの解決方法に疑問を持っていた。『あれ、これ別に解決してなくない。』と。それがどんなに無責任か今わかった。悩みを解決するにはそれこそひみつ道具的な何かが必要かな。
一日で全部終わるなんて思ってもいませんがね。乗り掛かった船って降りられないんですよね。
「じゃあ、わたしはこっちだからまたね」
「いや、家まで送りますよ」
「えっ…」
あっダメ?ですよね気持ち悪いよね。自分の家教えたくないよね。本当にごめんなさいね。ちょっとデートのシュチュエーションによってたことを認めよう。
「いやいや、今日は本当にわたしの我儘に付き合ってもらったわけでありまして。これでわざわざ遠回りさせてまで送ってもらうのはこう申し訳ないというか。それに両親とかに見られても恥ずかしいし。…でも今日はデートなんだよね。うん!デートなんだよね!家に着くまでデートです。…送ってもらえるかな?」
「あっはーい。了解でーす」
今のことは心の中でやって欲しかったな。なんかもう僕の周りの女性って濃い人たちばかりなんですが。やっぱり俺のキャラが薄いかな?もう少しキャラ立ちを目指そうかな。
歩いてる間に英さんと色々な話をした。たわいもない話をした。益体もない話をした。最初は二人で無言で歩くのもなんだからということでどちらかともなく話し始めた。
そのなんの目的もない、普通の会話が何故だか心地よかった。霞や鬼無里姉弟と話している時とは違う平穏を感じていた。
こんなのはガラではないんだけどな。
20分ぐらい歩きとおして英さんが交差点で止まる。
「うん、私の家はこの近くにあるからここまでいいや。送ってくれてありがとう。また明日」
「さようなら」
別れの挨拶をしてから、すぐに振り返ると俺は帰り道を急いだ。
今日の一日でわかったこと、英さんは行動が単純だ。その場で起きたことだけを理解し行動に移す。自分の心に従って動き回る。その時の方が生き生きしている。
と、いつものように少し考え事しながら歩いてたのが仇になったのか。
ドンッ
「痛ってぇなぁ!お前どこ見てんだよ!」
普通に前を見て歩いてましたけどなにかってすごく言いたい。
ザ・チンピラっていう感じのあんちゃんに絡まれた。チンピラという言葉の響き雑魚感しかしない。なんかもう面倒くさい予感。
「あん、なんだよその目は舐めてんのか?」
ごめんねこんな目で本当に申し訳ない。だけどこれがデフォ。
そんなに怒んなくても。ただ少し睡魔に襲われてて目が半眼になってるだけじゃないか。
はは、なめくさってるなおい。
「なんとか言えや!」
チンピラが俺の首元に手を伸ばそうとしてくる。
ドシン
チンピラの手が俺に届くか届かないかぐらいで空を切る。俺が地面に尻もちをついてからだ。
「ぎゃは、お前鈍臭っいな。その図体は飾りかよ。ぎゃはははは、ほら立てよ手を貸してやるから」
ニヤニヤしながら手を出してくるチンピラ。目の色が嗜虐的に変わっている。手を掴んだらどうなるか。また転ばされるか、殴られるか。
まだいるんだね、弱い者を虐めて悦に入る馬鹿が。お前ここが異世界だったら直ぐに不遇な死にあうか、主人公に対しての咬ませ犬ポジションだからな気をつけろよ。
じゃあ俺も少し心を込めて頼み込んでみようかな。
俺はすくっと立ち上がると綺麗なお辞儀をして感情を込めて謝った。
「《ぶつかってしまって申し訳ありませんでした。すいません急いでるので行ってもいいですか?》」
自分の声が自分の声じゃ無くなるようなこの感覚。
その瞬間、チンピラの目から一瞬だけ光が消える。
「んん、ああ。ちっ…しょうがねぇな。くそっ気をつけろよ」
路上に唾を吐き捨てながらガニ股で進んでいくチンピラを見送る。
「………………ふぅ〜」
何故だか漠然とした苦味が口の中で広がっていた。いや、何故だかはわかってるな。自分に対する嫌悪感か。
ああ!
こんなの俺のキャラじゃない。俺はもっと飄々としたキャラのはずだ。かっこいい系の。異世界転生したらハーレム作る系の。ああ、チートスキルで無双して、現代知識で無双したい。ちょっと力とか隠していていざとなったら発動みたいな。超こっちを見下していたやつをプチンしたい。獣人をもふもふしたい。エルフにけなされたい。ドラゴンに会いたい。
……ふぅ、やっと落ち着いてきた。やっぱり妄想をすると現実から目をそらせていいな。もはや色々末期。僕の頭の中には夢と希望が詰まっています。キリッ。
帰るか。
俺はそんなままならない思考を抱えて、この今日という日に区切りをつけるかのような夕日を見ながら何故だか『うつくしひめ』のことについて考えていた。




