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『ひとくいおにとうつくしひめ』

むかしむかしのことでありました。


ある(むら)にそれはかわいい(おんな)()()まれました。


女の子はつつじとなずけられ大事(だいじ)(そだ)てられました。


つつじが十と五つをこえるころには、(だれ)もがふりむくような(うつく)しい(むすめ)(そだ)ちました。


つつじが一度(ひとたび)(はな)せばそのあまりにも美しいことばにみんながききほれました。


つつじが歌えばそのあまりにも美しい歌声に(とり)(けもの)も寄ってきました。


つつじが(わらべ)といっしょに(たわむ)れればそのあまりにも美しい気色(けしき)(だれ)もがみほれました。


つつじが(わら)うだけでそのあまりにも美しい(かお)にむらびとたちは(はな)やぎました。


いつしか、つつじはむらびとたちからしたしみをこめて『うつくしひめ』と()ばれるようになりました。





さてそんなむらの(ちか)くには、(おお)きな(やま)がありました。


そこはたいそう木がおいしげる自然(しぜん)(ゆた)かなところでありました。


その山には、いつのころからかひとくいおにが()んでいるといううわさがでるようになりました。


その山をこえようとした旅人(たびびと)がおににつれていかれた。


(おお)きな()がたおれていた。


おそろしけもののようななき声がきこえてきた。


それらのものは(すべ)ておにのしわざだといわれました。


つつじのむらでも(わる)いことをした童には

「ひとくいおにがきてくっちまうぞ!」

とおとなが言うほどでありました。



そんなある日のことでした。へいおんに暮らしていたむらに山の(ほう)からドシン、ドシンとおおきな音がきこえてきました。


むらびとたちがさわぎはじめました。


そこへ山から1(かん)をゆうにこえる()()なおにがおりてきました。


おには三日月(みかづき)のように(くち)をひらくと、むらびとたちに()かって言いました。


「ここからうまそうな(にお)いがただよってくるんだ。くわせろぉ。」


むらびとたちは、だれもがこおりついたようにうごけません。


それはみたおにはあたりの匂いをかぐとのそりとうごきはじめました。


「匂うぞぉ。匂うぞぉ。…ここだぁ。」


おにがそう言ってふみいったのはつつじの(いえ)でした。


「おまえだぁ。おまえをくわせろぉ。」


おそろしいこえでつつじにせまりました。


「わかりました。あなたにたべられましょう。ですが、むらのみなには手をださないでください。」


つつじはそのうつくしい声をふるわせながらこたえました。


そうしてつつじはおにに山の上につれていかれてしまいました。






むらびとたちがはおいおいとなきました。かなしみにくれました。


そこへむらの入り口のほうからひとりの武士(ぶし)(ある)いてきました。


「ごめん。旅のものであるが、どうして皆で泣いているのか?」


むらびとたちはさきほど起こったことをなみだながらに(つた)えました。


(はなし)をきいた武士はこう言いました。


「よし、それでは拙者(せっしゃ)がおにをたいじしてきてやろう。」


武士はかんしゃのことばをうけながら、ゆうゆうと山の方へとあるいていきました。





どんどんと山を(のぼ)っていくと一つのほら(あな)にたどり()きました。


ほら穴のなかをのぞくとむすうの(ほね)ときょだいな(なべ)がありました。


おにのすがたは見当(みあ)たりません。


武士はなべのほうにあるいていき、なかをみると。つつじがしとやかに(すわ)っておりました。


「あなたがうつくしひめかな?言われていたとおりなんとうつくしい。」


「はい。そのようによばれているものであります。あなたはなぜここへきたのですか。」


「わたしはおにからあなたを(たす)けにきました。」


「そんなあぶないこと()めてください。それにどうやってあの大きなおにをたおすのですか?」


「ではこうしましょう。あなたはなべのかげにかくれていてください。拙者が()わりになべの中に入りましょう。おにが(かえ)ってきたら声をかけてください。」


「わかりました。」


武士はつつじの代わりに中にはいると(いき)をひそめました。


するとまたドシン、ドシンという音がきこえてきました。


どうやらおにがかえってきたようです。


「もし、おにさんちょっとこっちへきてくれませんか?」


つつじがおにによびかけます。


「んん〜なにかようかぁ。」


そう言っておにはなんの疑問(ぎもん)もいだかずなべのなかをのぞきこむと…


「てりゃぁー!」


「ぐわぁぁぁぁ!」


なかから飛びだしてきた武士にきられてしまいました。


そのままいきおいで武士はつつじの()をつかむといちもくさんにかけていきました。


「ま、待てぇ〜」




これより(さき)におにがあらわれることは、なかったというそうです。


つつじはまたむらにもどりへいわにくらしましたとさ。


めでたしめでたし。


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