『ひとくいおにとうつくしひめ』
むかしむかしのことでありました。
ある村にそれはかわいい女の子が生まれました。
女の子はつつじとなずけられ大事に育てられました。
つつじが十と五つをこえるころには、誰もがふりむくような美しい娘に育ちました。
つつじが一度話せばそのあまりにも美しいことばにみんながききほれました。
つつじが歌えばそのあまりにも美しい歌声に鳥も獣も寄ってきました。
つつじが童といっしょに戯れればそのあまりにも美しい気色に誰もがみほれました。
つつじが笑うだけでそのあまりにも美しい顔にむらびとたちは華やぎました。
いつしか、つつじはむらびとたちからしたしみをこめて『うつくしひめ』と呼ばれるようになりました。
*
さてそんなむらの近くには、大きな山がありました。
そこはたいそう木がおいしげる自然豊かなところでありました。
その山には、いつのころからかひとくいおにが住んでいるといううわさがでるようになりました。
その山をこえようとした旅人がおににつれていかれた。
大きな木がたおれていた。
おそろしけもののようななき声がきこえてきた。
それらのものは全ておにのしわざだといわれました。
つつじのむらでも悪いことをした童には
「ひとくいおにがきてくっちまうぞ!」
とおとなが言うほどでありました。
*
そんなある日のことでした。へいおんに暮らしていたむらに山の方からドシン、ドシンとおおきな音がきこえてきました。
むらびとたちがさわぎはじめました。
そこへ山から1間をゆうにこえる真っ赤なおにがおりてきました。
おには三日月のように口をひらくと、むらびとたちに向かって言いました。
「ここからうまそうな匂いがただよってくるんだ。くわせろぉ。」
むらびとたちは、だれもがこおりついたようにうごけません。
それはみたおにはあたりの匂いをかぐとのそりとうごきはじめました。
「匂うぞぉ。匂うぞぉ。…ここだぁ。」
おにがそう言ってふみいったのはつつじの家でした。
「おまえだぁ。おまえをくわせろぉ。」
おそろしいこえでつつじにせまりました。
「わかりました。あなたにたべられましょう。ですが、むらのみなには手をださないでください。」
つつじはそのうつくしい声をふるわせながらこたえました。
そうしてつつじはおにに山の上につれていかれてしまいました。
*
むらびとたちがはおいおいとなきました。かなしみにくれました。
そこへむらの入り口のほうからひとりの武士が歩いてきました。
「ごめん。旅のものであるが、どうして皆で泣いているのか?」
むらびとたちはさきほど起こったことをなみだながらに伝えました。
話をきいた武士はこう言いました。
「よし、それでは拙者がおにをたいじしてきてやろう。」
武士はかんしゃのことばをうけながら、ゆうゆうと山の方へとあるいていきました。
*
どんどんと山を登っていくと一つのほら穴にたどり着きました。
ほら穴のなかをのぞくとむすうの骨ときょだいな鍋がありました。
おにのすがたは見当たりません。
武士はなべのほうにあるいていき、なかをみると。つつじがしとやかに座っておりました。
「あなたがうつくしひめかな?言われていたとおりなんとうつくしい。」
「はい。そのようによばれているものであります。あなたはなぜここへきたのですか。」
「わたしはおにからあなたを助けにきました。」
「そんなあぶないこと止めてください。それにどうやってあの大きなおにをたおすのですか?」
「ではこうしましょう。あなたはなべのかげにかくれていてください。拙者が代わりになべの中に入りましょう。おにが帰ってきたら声をかけてください。」
「わかりました。」
武士はつつじの代わりに中にはいると息をひそめました。
するとまたドシン、ドシンという音がきこえてきました。
どうやらおにがかえってきたようです。
「もし、おにさんちょっとこっちへきてくれませんか?」
つつじがおにによびかけます。
「んん〜なにかようかぁ。」
そう言っておにはなんの疑問もいだかずなべのなかをのぞきこむと…
「てりゃぁー!」
「ぐわぁぁぁぁ!」
なかから飛びだしてきた武士にきられてしまいました。
そのままいきおいで武士はつつじの手をつかむといちもくさんにかけていきました。
「ま、待てぇ〜」
*
これより先におにがあらわれることは、なかったというそうです。
つつじはまたむらにもどりへいわにくらしましたとさ。
めでたしめでたし。




