学校のお悩み相談室の不良のたまり場率は異常。
「ごちそうさまでした」
ふむ中々おいしかっなスーパーストロベリーパフェ。表面にかけられていたイチゴソースもさる事ながら、ソフトクリームの滑らかさといったらもう。下にあるコーンフレークとのハーモニーがよりいっそう美味しさを引き立てる。食べ終わった後の自分の中に吹き込むのは春のそよ風。ああ、こんなちんけな言葉でしか伝えられない自分の語彙のなさが恨めしい。アイ ワァント ポキャブラリー!また来よう。
「どう、ここ私がいつも行ってるんだけどおいしかった?」
「はい。とても満足しました。また時間を見つけて一人で来てみようかなぐらいには思いました」
「(あっ 一人で行くんだ)」
英さんが何とも言えないような顔してる。
「では、英さんの悩みについて話しましょうか?」
「切り替え早いね」
「そりゃ英さんだって一刻も早く解決したいでしょう?」
「それはそうだけど」
悩みってのは自分が解決したいと思った瞬間に行動したほうがいいんだよ。思い立ったが吉日とかよく言うけどあれって直ぐに行動に移せって意味でしょ。遅かったらうだるだけだし。イチゴパフェで時間を取った俺が言う事でもないけどな。
「とういうか昨日ひき肉食ったんですか?!」
「えっ、今更そこに驚いちゃうわけ」
「いや、何かこうイメージってあるじゃないですか。生肉好きのキャラって長めにスライスしてある肉を親指と人刺し指で持って、いかにもっていう感じで食べてるイメージが」
「うん。なんとなく言いたい事はわかるけど偏見をわざわざ本人に言う人初めて見たよ。」
ちょっと甘くみてたな英さんの事を。よくわからんけどひき肉は何かダメだろ。
「ん?そういえば家族はこの事知っているんですか?」
「知らない。言ってないから。…多分、おそらく。というかこれでバレてたら死ぬる」
確かに。友達に話せて家族に話せない事って結構あるんだよなぁ。双方の愚痴とかな。まあ家族って自分が隠していると思っている事大体知っているよね。むしろ一生懸命隠しているこっちが恥ずかしい。
全国の高校生の家族の皆様。優しさって時に精神を折ります。気をつけて下さい。
「とりあえず生肉を食べる事を止めてちゃんと肉を焼きましょう」
「えっ?」
何で『ちょっとなに言っているかわかんないです。』みたいな顔してんの。どこのお笑い芸人なの?ていうかそんな突拍子もない事言ってないけど。肉を焼けって言ってんの。人類が何のために火を操れるようになったと思ってんの?何で時代に逆行するの。
「生肉好きを治したいんですよね?」
「う、うん。もちのろんだよ」
「肉は焼いてください」
「……は〜い。………………じ、自分が頑張った日とかには……ご褒美的な」
「焼け」
「……はい」
あんた治す気ないだろう。もうよくね食えよ食っちゃえよって言いたい。あの普通になりたいっていう保健室の会話を返してくれ。完全に逸脱しちゃってるからこの子。
まあいいか。後はどうするかなぁ………
「まだ人肉食べたいっておもいます?」
ブフゥゥーーーー
英さんは口に含んでいたカフェオレを吹き出した。机に。きったな。ちょっとちょっと何やってんのよ花凛ちゃん。俺かけられて喜ぶような性癖ないからね。全く、ああ、ああこんなに汚しちゃってナフキン、ナフキン。
「「あっ」」
卓上のナフキンを取ろうとしたら英さんと手が重なった。なにこれ恋が始まっちゃうの。いや二人とも口から出たものを処理しようとしてんだけどね。
シュチュエーションを考えてこういう事は自重してくださいよ神様。こういうのは図書館とかでやりたい。二人で恋愛小説に手を伸ばして触れあっちゃいたい。妄想乙。
「突然何言い出すの!」
机の上を拭きながら言う。
「いや、だって前にそんな事言ってましたよね?」
「言ったけど言ったんだけどさ……もう少し話の流れとか考えてほしかったな。一応確認するけどこれ結構やばい話題だよ」
知ってます。自覚あったんですね。
もう一度英さんは改めてカフェオレを口に含む。何となく口元に目がいく。うむ、よきかなよきかな。艶かしい。口元フェチか、目覚めそうだな。
今日相当まいってる気がする。
「ふぅ……人肉は不思議と食べたいって欲求はこないかな。むしろ蓮水くんを食べたいって思った状況の方がイレギュラーなんだと思うよ」
「英さんはこれから自分でイレギュラーとか特異とかいう言葉を使わないでください。説得力が皆無です」
「いやまああの時は蓮水くんがすごい美味しそうに見えたんだよね〜」
「話聞いて」
俺が美味しそうに見えたね。そういえば小さい頃から動物に懐かれるけどそれがこの理由だったらやだな。
食欲も俺以外の人には湧かないと。何でだろうな?俺と他の人の違いか。これは考えても仕方がないか。しかしどうしたものか。これからも人肉が食べたくならないとは限らないし。こっちもついでに解決しとくか。俺の平穏のためにも。うんマジで真っ先に狙われる筆頭だからね俺。
「そういえば、スマホ持ってます?」
「そりゃ持ってるけど。どうして?」
「ちょっと出して貰えますか?それで普通に持ってこうやってスマホを折るぐらいの気持ちで握ってください。」
「いいけど……」
訝しげにスマホを出して握りだす。あー手が白くなってるしちゃんと力を入れているっぽいな。ほーん。
「んんんん、はぁ〜。これ何の意味があるの?」
そりゃ一回それやられてますから。
「これを見てください。」
俺の先代スマホを持ち出す。
「ひしゃげた……スマホ?」
「そうです。俺の前のスマホです。屋上で英さんに押し倒されたあの日に英さんに握りつぶされました」
「えっ」
顔面蒼白になる英さん。サァーっていう擬音が聞こえてきそうである。
「つまりこれをやったのが俺を食べようとしたときなんですけど。我を失い火事場の馬鹿力的なものがでちゃうほど人を食べたかったことになりますよね」
「いーーやーーー!」
俺がことさら明るく言った言葉に英さんは絶叫で返事をした。ここ喫茶店なんですけど。