#1-9 奇態 - odd -
#1-9
────404
それを見た瞬間、僕は全身が栗立つ感覚を覚えた。
404 Room……。
まさか、本当にあるなんて思いもしなかった。
この先に、僕が願う物がある。
その事実を認識した瞬間、心臓が激しく脈打ち始める。
ドクン……ドクン……ドクン……
速度を増していく度、内側から体中が熱くなるのを感じた。
ぼんやりとした蝋燭の光が揺らめき、404の文字を時折鮮明に映し出している。
僕は畏怖しながらも、意を決してドアノブに手をかける。
ひんやりとした金属の質感を掌に感じた。
自分の手が震えているのがわかる。
震えを止めようとしても止まらない。
この震えは恐怖からか、好奇心からか、希望からか、僕はもはや正常な判断を失っていた。
ドアノブをしっかりと掴み、ゆっくりと回す。
カチャ……────。
ドアの機構が動いた音。
その音を聴いて、僕のさまざまな感情は更に加速していく。
めちゃくちゃになりながら加速した感情を抱えながら、僕は意を決してドアを開けた。
ギィィィ………。
軋む音が不気味だった。
静寂に包まれたこの館の中で、鮮明に乾いた音を響き、部屋の中が露わになった。
────暗黒。
そう表現する他無かった。
線が暗黒の中へと向かっているのだが、今まで光っていた線は、暗黒を境に光を失っている。
つまり、「闇よりも黒い「暗黒」」がそこにはあった。
僕は何故だかその暗黒を視認した時に「死」を連想し、とてつもない恐怖を感じた。
しかし、僕がここに来た意味は「願いを叶える為」……すなわち「死ぬ」為だ。
「願いを叶えてくれる部屋」……僕の望む「死」を叶えてくれて、僕が楽になれるのであれば、僕はこの部屋に入るという選択以外ありえない。
これで最後だ。
これで僕は楽になれる。
そうだ、これでいいんだ。
行こう。
踏み出そう。
僕は、目の前にある暗黒に足を踏み入れた。
コツ……。
踏み出した一歩が、暗黒へ向かう。
コツ……。
また一歩、暗黒に包まれていく。
コツ……コツ……コツ……コツ……。
暗黒に向かって歩み始めた僕の視界は一瞬にして完全なる「黒」へと変貌した。
まったく光の無い世界、これまでに体験した事のない「闇」。
体中がその闇に包まれ、僕は闇の中へと溶けたような気分になった。
────ギィィィ!!バタン!!!
視界が変貌したその刹那、背後で大きな音がした。
僕は焦って振り向いたが光などどこにも存在しない。何も見えない。
もはや、振り返っているのかすら分らなかった。僕が向いているはずの「背後」は、本当に背後なのか、暗黒の中で方向感覚すらも失っていた。
ドアが閉まった────。
僕がその事実を認識した瞬間、全身を何かに捕縛された感覚を覚えた。
「ッッ!!」
声にならない声を上げる。
体中に蔦が巻き付いたような感覚。しかし、その蔦は絶えず蠢いている。
ぐにゅぐにゅと動きながら僕の体に巻き付いた「蔦」のような何かは、あっという間に僕の自由を奪ってしまった。
ミシミシミシミシィッ!!
「ぐあっ!!」
巻き付いた「蔦」の様な何かが急速に僕の体を締め上げる。
締め上げた瞬間、僕の全身に棘のような物が突き刺さる強烈な痛みを感じた。
ミシミシミシィッ!!
もはや声すらも出なかった。僕は喉の奥から小さな嗚咽を吐き出した。
体中に感じる痛みの元から生暖かい物が流れ出すのを感じる。
血か。
僕は死ぬんだ。
よかった。
本当に良かった。
何もかもがこれで終わる……。
強烈な痛みの中で徐々に意識が薄れていく。
体中の力が抜け、体温が下がり、寒さを感じた。
────プツッ
突如耳奥で糸の切れるような音がして、その瞬間、僕は意識を失った────。
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