#1-8 扉 - door -
※誤字を修正しました。
#1-8
汚れた窓からは赤褐色の明かりが漏れている。
誰か居るのだろうか……。
線は変わらず僕の視界にあり、ぼんやりと光りながら洋館の玄関に向かっている。
さっきまで急いでいた足を止めた僕は、一歩一歩ゆっくりと玄関へと近づき、「中に誰かがいるかもしれない」という不安に耐えながら、少し大きめの両開きのドアに手をかけた。
取っ手を少しだけ手前に引く。
鍵は掛かっておらず、すっとドアが動く感触を得た。
ギイィィ……。
蝶番が擦れ、ドアの軋む音が響く。
僕が思っていたよりもドアは軽く、意外にもすんなり開き、中から褐色の光が漏れた。
館の中にある物への色々な不安を抱えながら、恐る恐る僕は一歩先の空間をのぞき込む。
白色の大理石の床が広がる、思いのほか少し広めのロビー。
辺りを見渡してみると、古びた外見に沿うような上品な木製の家具が薄暗い照明の下に置かれている。
「誰かいらっしゃいますか」
誰かに聞こえるように、声を張りながら言った。
しかし返事はなく、発した声だけが大理石の床に反響して消えた。
訪れた静けさの中で改めて辺りを見渡すが、人が居る様子は無い。
線を目で辿ってみると、ロビーの端にある小さな螺旋階段に向かっている。
僕は階段へと近づき、大理石から切り替わった赤い絨毯が階段を覆っている上を、線を目で追いながらゆっくりと登っていく。
キシ、キシと古びた絨毯が音を鳴らす。
随分と長い間使われていなかったのか、歩くたびに小さく埃が舞うのが見えた。
真鍮製の手すりを伝うと、金属質の冷たさを掌に感じる。冷たくも滑らかな手すりをしっかり掴みながら短い螺旋階段を登ると、二階の廊下へとたどり着いた。
客室かと思われる六つのドアがある細い廊下は薄暗く、壁には一定の間隔で動物か人間か分らない不気味な絵画が飾られている。廊下の奥へと目を向けると、線は最も奥のドアへと向かっていた。
廊下の雰囲気に畏怖しながら、ゆっくりと廊下を歩きだす。
百合の花を象った硝子製の照明が天井から何個も吊り下がっていて、その光だけが廊下を照らしている。硝子製スタンドの中にある明かりは、よく見ると電球ではなく、幾本もの蝋燭だという事に気づいた。
やっぱり誰か居るのかもしれない……。
飾られている絵画の中に描かれていた不気味な「何か」を想像してしまい、僕は恐怖した。
ぼんやりとした蝋燭の明かりの下、線を辿りながらしばらく進むと、ついに一番奥のドアへとたどり着いた。
線から目を離し、僕はゆっくりとドアを見上げる。
視線は木製のドアの真ん中へ向かう。
そこには真鍮製のひし形の板が張られており、板には燻されたような黒い線で複雑な模様が彫り込まれており、その板の中心には文字が書かれていた。
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それを見た瞬間、僕は全身が粟立つ感覚を覚えた。
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