#1-7 能動 - Active -
#1-7
視線は画面に向かい、左手に持っているスマートフォンを離そうと思っても離す事が出来ない。
すると突然、独りでに右手が動き、その人差し指が画面へと向かっていく。
嘘だろ。
なんで勝手に動くんだ。
止まれ。
止まれ、止まれ。
止まれ止まれ止まれ!!!
抵抗しようとも自分の思い通りに体は動かない。
しかし、僕の感情はむしろこの事象を望んでいた。
強く念じた先で起こったこの事象を、この事象の先にあるかもしれない可能性を、僕は心の中で信じている。
今起こっているこれは紛れもなく、僕が望んだ物だった。
じりじりと右手が画面に近づき、震える人差し指が画面の表面に触れる。僕はついにメッセージのURLをタップした。
ジジジ……ガガ……
耳障りな音が聞こえ、画面が明滅する。
ガガッ……
ほんの一瞬の出来事。そのはずなのに、とても、とても長く感じた。
ジー……ジジ……ジジジジ
世界がスローモーションになったような感覚。
僕の居る薄闇が一瞬凍り付いてしまったかのような、何にも似つかない空気の動き。
────[[僕はここだ]]
くぐもっていた声が突然鮮明になり、その瞬間、僕の体と視界が自由になった。
ふと部屋を見渡すと、ベッドから部屋の外へ向かって、有刺鉄線のような棘をつけた白色に発光する線が伸びている。
気づくと僕は線を辿って部屋を飛び出していた。
「至!」
母の静止を振り切り、僕は走り出す。
リビングを出て、玄関へと走る。
変わらずぼんやりと光り続ける線は家の外まで伸びていた。
この線の行き先がどこなのか、どこまで続いているのかはまったくわからない。
でも、この線の先にきっと「404 Room」があるのだと確信していた。
走りながら僕は線を辿る。
辺りはすでにかなり暗く、立ち並ぶ薄緑の色を帯びた街灯が長い影を伸ばしていた。
入り組んだ住宅街の路地の中を、線を追いながらすり抜ける。
コンクリートの感触が何度も足の裏を打ち続けている。
結構な速度で走っているにも関わらず、不思議と息は切れない。
しばらく線を辿り続けると、古びた小さな洋館に辿り着いた。
住宅街の外れだろうか、今までこんな場所があることを知らなかった。
異様な雰囲気を醸し出した古びた小さな洋館は二階建てで、その周囲に建物はなく、ぽっかりと空いた敷地に「ここだけが異次元なのではないか」と思ってしまう程に突如として存在していた。
汚れた窓からはからは赤褐色の明かりが漏れている。
誰か居るのだろうか……。
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