#1-5 豁然 - sudden -
#1-5
………[[新着メッセージが一件あります。]]
ベッドの上に転がっていたスマートフォンのディスプレイが光り、続けざまに、内蔵されたバイブレーターが大袈裟に一度だけ震えた。
まさか────。
──「世界の何処かに「願いの叶う部屋」があるらしいぞ」
───「なあ、「404 Room」って知ってるか……?」
────「願いを強く念じるとメッセージが届いて、「願いの叶う部屋」に行けるってやつ……」
─────「俺信じてるんだよな、あれ」
「そんなはずはない」、その非現実的な事象を否定しているにも拘わらず、喜びか、恐怖か、僕の心臓は激しく脈を打ちはじめている。
額と掌にはじっとりと汗をかき、それを意識した途端、急速に喉の渇きを感じるようになった。
ごくり。
唾を飲み込む音だけが頭蓋骨を反響し僕の耳奥へと届いた。
僕は意を決して、薄闇の中でぼんやりと不気味に光るスマートフォンへと左手を伸ばす。
震える自分自身の手が、黒い虚空の中で白い光に照らされ、あたかもこの世の物ではないかの様に見えた。
スマートフォンの表面に指先が触れる。
プラスティック製のボディの無機質さを感じながら、僕はゆっくりとスマートフォンを持ち上げ画面を見た。
[[新着メッセージが一件あります。]]
ポップアップしたメッセージ受信を知らせる通知。
灰色にも紺色にも似つかない色の枠の中で、白色のゴシック体で表示された不愛想なそのメッセージは僕に「早くこのメッセージを開いて読め」と急かすかの様に表示され続けている。
右手人差し指をゆっくり画面の上へと移動させ、そのまま画面をしばらく見つめながら、もう一度だけ唾を飲み込んだ。
恐怖を覚えながらも、僕は、ゆっくり、ゆっくりと、人差し指がポップアップメッセージへと降下させていく。
その先で、固い感触を感じたと同時に、ポップアップメッセージをタップした。
見慣れたアプリの、見慣れた緑色のスプラッシュスクリーンが表示される……。
しかし、何かがおかしい。
次第にスマートフォンがバイブレーションしはじめ、メッセージのロードを始めたアプリの背景は緑色から黒へと変異していき、ロゴがパズルのピースの様なノイズを帯びてどんどん分解されていく。
画面の表示は変異し続け白と黒の斑になり、分解され続け判別できなくなってしまったロゴはもはや原型をとどめていない。
僕は突如として起こったこの事象に恐怖を覚え、掴んでいたスマートフォンをベッドの上に落としてしまった。
全身の毛穴からぶわっと嫌な汗があふれ出す。
ベッドの上に落ちてもなお絶え間なく震えつづけ変異を続ける画面を見つめ続けている僕の中で、恐怖が加速していく。
その最中、突然画面の様子が変わった。
白と黒の斑になり滅茶苦茶になってしまった画面の中で、新聞や雑誌から文字を切り出しコラージュしたような「怪文書」のようなフォントで、アトランダムに配置されたメッセージが表示された。
((連絡先ニ二登録ササレテイナナイイ、■■■■カカララノメメメッセセsセージデデスス))
[ Go To 404 Room ]
[ http://www.goto404room.com/]
この時僕は悟り、確信した。
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