#1-1 兆候 - sign -
#1-1
その話が巷に流れたのはつい一週間前の事だった。
僕はその話を、スマートフォンに届いたニュースメッセージで知った。
[[【オカルトニュース】世界の何処かに「願いの叶う部屋」があるらしい]]
オカルトなんて今の時代信じる奴がいるのか?
どうでもいい。
僕には関係ない。
僕はこの文字列を見たとき一瞬にしてそう思った。
しかし、驚くことに周囲の反応は僕が予想したような物とはまったく違った。
明日からの夏休みに備え、学校に残してあった荷物を持ち帰ろうと、帰宅の準備をしながら教科書やプリントをまとめていると、隣の席に座っていた同じクラスの幼馴染、「渡邊優弥」が話しかけてきた。彼とは昔から付き合いがあり、家族ぐるみの付き合いをする程度の仲だ。
「なあ至……この間届いたニュース、「404 Room」のについての記事読んだか?」
彼が言っている事が一瞬理解できず、僕は無表情のまま彼の顔を見つめる。
「願いとか夢を強く念じると、そいつの元に誰かからメッセージが届いて、「願いの叶う部屋」に行けるってやつ……。信じてるんだよな、あれ」
そうか。
僕はそのくらいの反応しか出来なかった。僕はオカルトニュースなんて信ぴょう性の低い物を信じてはいなかったし、そもそもその記事を読んだ事すら忘れているくらいだった。しかし、僕は引き続き彼の話を黙って聞くことにした。ここで反論する意味も、彼と口論する気も無かったからだ。
「へえ、そうなんだ」
そう言った僕に対して少しムスッとしながら、彼は自分の持っていたスマートフォンを指さし、鼻息荒く語り始めた。
「藁をも縋る思いになるぜ、こんな話を見たら!この部屋が本当だとしたら、志望校にだって簡単に入れるだろうし、そんなちっぽけな目的以外に、自分がなりたいものになれたり、大金持ちになれたり、なんでも夢が叶うんだぞ」
彼の目は本気だった。
言葉の勢いに圧倒された僕はしばし黙り込み、数秒の沈黙の末彼に言った。
「……へ、へえ……すごいね」
彼は僕の返答に対し深く溜息をつき、窓の外を眺めながら呟く。
「この間失踪したって話の「八重崎」って奴……隣のクラスのヤツだよ」
八重崎。
隣のクラスで評判の「変な生徒」だった。僕も何度か彼の姿を見た事がある。
細い体に青白い肌、銀縁の眼鏡が特徴の、少し不気味な奴。
しかし、僕自身、彼との関わり合いは無いし、特に思い入れもない。
「あいつ、「404 Room」を探しに行って失踪したって……」