前口上
ぶち撒かれた臓物の上を歩けば、溜まっていた空気が圧迫され、破裂する。
それと同時に、人体とはこれ程脆いものだったのかと軽く失望する。
殺してしまった。同僚にはそりゃあキツく言われていたが、これは仕方がない。人間と僕等天使では体の構造が全く違うのだから、限度がどこかなんて解かるわけがない。
そう脳内で言い訳をしながら証拠を隠滅する。バレて騒ぎになってしまうとその方が面倒だ。
「……それにしても随分不幸な人間だこと。」
そうひとりごちて、散らばる贓物を比較的柔らかい土の中に埋める。少し臭うけれど、数日もすれば土になるだろう。最後に地面にこびり付いた血を砂で隠す。
……随分時間を潰してしまった。そろそろ同僚も心配しているだろうし、天に帰るとしよう。服はその辺に捨てて、適当にあしらえばなんとかなるだろう……
程なくして帰ると、案の定同僚が泣きながら寄ってきた。話を聞いたところ、なんと地上へ行ったきり3日は経っていたらしい。家出したと思った、悪魔に殺されたのかと思った……なんて喚いていた。僕に限ってそんなことはない、と言おうとしたけれど、眠いので無視した。途中、変な匂いがすると言われ少し戸惑ったが、どうにかやり過ごすことができた。そして自室にこもり、僕は深い眠りについた。
以来、時偶その光景が夢に出るようになった。けれど、特に不快な思いはない。きっと僕は、天使でありながら殺人に対して快楽を覚えてしまったのだ。