本の上で見た夢
初めて人の依頼で書いた小説。
友人が砂糖を吐きだし、犠牲になってしまった。
朗読用に書いた小説なのでとても短いです。
そして普段書く小説はもっと辛い。
目を半分開け、次のページを開いて文字列を辿る。
図書館はとても静かで、私が座って本を開いている以外はごく数人しかいない。
真っ暗な視界を前にして、はっと気付く。
どうやら、少し眠っていたらしい。
目をこすりながら、小さく欠伸をしていると、クスクスと小さく笑う声がした。私がこっくりこっくりと船を漕いでいたのがおかしかったのかもしれない。ちょっと恥ずかしく思う。
私としては、今読んでいる部分の続きが気になって、眠るどころじゃない。
でも、睡魔は私を襲ってくる。
目で追っている文字がぼやけて読めない。早く続きが読みたいのに。
誰かが近くで笑った。いつの間にか、横に座っていたらしい。
「何を読んでるの?」
その誰かが聞いてきた。この声を私は知っている気がする。
「妖精の本、だよ……」
ちゃんと答えられたかは、分からない。眠気に負けてしまう。
また聞かれた。「どんな話なの?」と。
「妖精が出てきて、女の子が頑張るの……」
頬に硬い物が当たる。机だと分かった。
「面白い?」
「うん……」
ふわふわと頭の中に、本の内容が浮かんで、思わず口元が緩んだ。
「凄く、面白いよ……」
頭に何かが乗る。暖かくて、大きな手だ。手は私の髪の流れる方へと優しく動いた。
「また今度、話を聞かせてくれないかな?」
声と同時に、椅子を引く音がした。
頭は眠っていても、耳だけは、正常に音を拾う。
だから「君の話をね」と最後に耳元でささやく声も聞こえた。
私の肩にふわりと何かをかけた後、声の主は消えてしまった。
起きれば、もう図書館には誰もいなかった。
ただ私の肩にかかっていた制服の上着には暖かさが残っていて、つい先程まであの声の主がいたんだとわかる。
不意に、上着から何かがはらりと落ちた。
本を借りる時に提示する図書カード。
その名前を見て、やっぱり、とあの声の主を思い浮かべて胸が熱くなる。
さて、どうしよう。明日この上着の持ち主を探して返さなければならない。だけどその前に、この本を全部読まなければ。
読んで、探して、もう一度……。
めずらしくほのぼのできた小説です。
そんな小説をいっぱい書きたいと思う今日この頃なのに、ほとんどの作品がどうあがいても絶望へたどり着くのは一体全体どうしてでしょうか……。