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心の底のあの男が褒めてくれた

 そうそう、そういえば、いろいろあって書くのを忘れていたけれども、1つ大切な話があったんだった。


 心の底のあの男が、珍しく僕の作品を褒めてくれたんだ。不動明王の格好をして、どこかのお堂の床に座っているあの男だよ。

 ある意味で、あの男も小説の神みたいなもんさ。でも、アイツは読者のコトなんて考えやしない。いかにして作品の質を高めるか、そればっかり考えているような男さ。

「作品は作品であって、製品などではない!そんなモノに何の価値もありはしない。その場ではチヤホヤされたり、それなりに売れたりはするかも知れないが、いずれ時代と共に消えていく」

 そんな風に考えている男。

「別に、製品ならば製品でいい。それを極めりゃいい。だが、そんなモノにオレは興味は示さん!」

 そう言ってのけるような男。


 そいつが、僕の作品を褒めてくれたんだよ。

 その作品の名は「マン・ネリカの一生」


         *


「まさか、童話とはな。童話の形で攻めてくるとは、このオレも予想外だったよ。だが、あそこにはハッキリとした思想が見てとれる。それがいい!実にいい!」

 男の話は続く。

「文章自体はやわらかく、やさしい。だから、一見して、そこに騙されてしまいそうになる。だが、その実、世界に反抗してみせている。まだ、反撃のノロシといった程度に過ぎない。それでも、断固とした思いが伝わってくる。そこがいい!」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」と、僕は答える。

「だが、油断するなよ!あんなものは始まりに過ぎないんだろ?続きを書けよ。あの作品の続きを。あるいは、もっと全然違う作品でもいい。それでも、意志は受け継げよ。あの作品の底に秘められていたガッチリとした意志は!」

「わかってる。わかってるよ。いずれ続きは書く。あるいは、関連作を。ただ、今はまだ駄目だ。他にも終わらせておかなければならない作品がいくつもある」

「早くしろよ!いや、ゆっくりでもいい。とにかく、質の高いモノを残せ!待ってるぜ!」

 男との会話は、これで終わり。非常に短いものではあったが、それでも僕にとっては力になった。勇気を貰った。いずれ、書かないとな。あの世界で、別の作品を。

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