“小説の神”との対話
僕の最終的な目的は、究極の小説家となり、“小説の神”と対決し、それに勝利すること。
残念ながら、まだその領域には到達していない。ただし、小説の神と対話することはできるようになってきた。
今回は、その話をしよう。
「この前は、ああ言ったけどさ。全く逆の方法だってあるんだよ」
そう、小説の神は切り出した。
「この前?」
「そう、この前さ。無難なモノを書くなって話。それから、書きたくなくても、書けなくても、書き続けるのだという話」
「ああ…」と、僕は納得する。
小説の神は、話を続ける。
「あくまで、アレはプロの小説家になる為の話さ。別に、そうでない道だってある。自分の好きな時に、好きな小説を、書けるだけ書く。そういう方法だってあるのだ。納得するまで、自分の小説を追求し続ければいい」
「それだと、プロの小説家にはなれない?」
その質問に対して、小説の神はこう答える。
「まあ、難しいだろうね。現代のこの国では、それは難しい。もちろん、そういう方法もある。そういう方法もあるにはあるが、非常に難しい。この国だけではない。いろんな国で同じコトが言えるし、現代だけでなく、過去の時代もそうであった」
僕は、もう1つ質問をぶつけてみる。
「では、プロの小説家になる近道は?」
「そりゃ、もちろん、読者の思う通りに書いてやるのさ。読者が望む通りの展開。望む通りのペースで。おっと、ここで1つ注意点がある」
「注意点?」
「そう、注意点さ。たった今、“読者の思う通りの展開”と言ったが、それを言葉の通り受け取ってもらっては困る。もっと正確に表現すれば、“読者が潜在的に望んでいる展開”だ。それは、読者が表層的に望んでいる展開とは別物」
「難しいな…つまり、どういうコト?」
「簡単に言えば、ストレスを与えてやるのさ。それも、適度なストレスをな。たとえば、あるキャラクターに試練を与える。ちょっとした試練を。いや、徹底的な試練かな?どうしようもないくらいに危機に陥らせる。その代わりに、短期間だ。時間的には、一瞬でいい。一瞬だけ、どうしようもない危機に陥らせる。そうして、直後の回で、それを回避させる。それもギリギリの手段で」
僕は、ちょっと考えてから、再び質問してみる。
「それって、物凄くありきたりな方法なんじゃない?」
「それでいいのさ。ありきたりでいい。ただし、工夫は必要だ。基本自体は、ありきたり。そうでなければ、読者がついてこれない。読者の方が、読み方がわからなくなってしまう。そういうのは駄目。そういう意味でのストレスを与えてしまってはならない。そうではなく、読者は読み方がわかる。その上でのストレスだ。プラスアルファ、そこに工夫が必要」
「工夫?」
「そう、工夫さ。他の作家との違い。ここは、ほんのちょっとでもいい。その代わり、サンショウを噛み砕いた時みたいにピリリッ!とくるヤツがいい。それで、読者を痺れさせるのさ」
「なんだか、簡単そうだけど…」
「そう。簡単そう。簡単そうに見えて、実はなかなか難しい。今度、実際にやってみな。そう簡単にできるものじゃないって、わかるから」
さらに、僕はもう1つ質問してみる。
「もう1つ尋ねていい?」
「ああ、いいさ。何でも聞いてみな」
「どうして、そんなに親切に教えてくれるの?そんな風に懇切丁寧に。もったいなくはないの?自分の技術を人に教えちゃって」
「もったいない?そんなわけないだろう。それどころか、どんどん吸収して欲しいね。そうして、この小説の神に追いついてきて欲しい。そうすれば、もっと先に進める。退屈してるんだよ、実の所。神っていうのは、そういうものなんだ」
「じゃあ、いつか僕が君に追いついて、乗り越えてしまったら?」
「その時は、その時さ。仕方がないと諦めるね。むしろ、それを楽しみにしているよ。ま、そう簡単に、そのようなコトになったりはしないと思うがね」
これが、今回の小説の神と僕との対話の全文。ある意味で、最初の対決みたいなもの。もちろん、まだ全然勝負になっちゃいないけど。それでも、僕は口火を切った。
スタートラインに立ったならば、後はゴールに向って一直線!走り続けるだけさ。




