合流、それと招いてない客
詳しい状況はいまいちよくわからないけど、反乱起こしたみたいになってることはわかった。まぁ、罪人扱いのトカゲさんかっさらったわけだしね。仕方ないね。
とにかく今は厳しい状況ってことで、おけ?
女王陛下をお姉さんっていう元の姿? に、戻すって言うグレイとの約束を果たすために戻ってきたけど、なかなか難しそう。難易度跳ね上がり感すごい。
次どう動くべきかなんてよくわかんないし、そこは戦闘のプロとかと話すべきだから今は保留。保留よ。丸投げじゃないのよ? 考えなしに突っこんできたわけでもないからね?
さて、どうなるかな……。
「やぁ、お帰り。戻ってくると思っていたよ、アリス」
色々考えて、ぼんやりしながらアズの森に入っていくと、後ろから急に声をかけられてビビる。
「ぎゃんっ!?」
「……もう少しお淑やかな悲鳴くらいあげられないのかな? 君、女の子だろう?」
心臓びくつかせながら後ろを振り返ると、アズが口元に手を当てながらくすくす笑っていた。
「本当、似ているようで似ていないね」
笑っているけど、その目は悲しげに沈んでいて、誰を思い浮かべているかはっきりと分かる。
太陽の光が入っているのにもかかわらず、目が赤っぽく見えるのは……泣いていた? いいえ、気のせいね。
「そう? 私、まったく似てないって言われてたんだけど……姉さんに似ているところもある?」
びっくりしたせいで引きつってるとは思うけど、何とか笑顔を浮かべてアズにそう返した。
「そうだね……とりあえず歩けばいいと思ってるとことかはそっくりかな」
……姉さん、あなたも意外と脳筋突撃思考だったのかしら?
いつもニコニコ優しい姉の能天気というか、なんというかを初めて知って、ちょっと、うん、反応に困るねっ!
「あの子も意外と行動的だったよねぇ」
その声と一緒に、そっと私の両肩に手が置かれる。
「っ!? ……あんたら、私の背後から出てこないと気が済まないの?」
心臓口から出そうなんですけど!?
思いっきり肩に乗った手を叩き落として振り返ると、ニヤニヤ笑ってるグレイ。
想像できましたけどね!? 腹立つな!!
「だ、そうですよ? 二人はやめた方がいいのでは?」
ラビの声に嫌な予感がして、視線をそっちにずらすと、完全にスタンバってるディーとダムが……。
「三回目からは芸がないわよね」
さすがにイラッとして冷めた目で双子を見る。
「お姉さん、僕らには冷たくない?」
「僕らはちょっと、場を和まそうと……」
「ふふっ、芸がないだって!」
「「帽子屋さんも大差ないでしょ!!」」
けらけら笑って双子をからかった後、双子の抗議をスルーしてこっちに向き直ってくるグレイ。
「お帰りアリス。正直私は、帰ってくるとは思ってなかったな」
「あなたとも約束したわよね? あなたが守れって言ったわよね?」
なんか納得いかない。せっかく戻ってきたのに、約束した人物にそう言われるのは納得いかない。
「でも、せっかく逃げられたのに、わざわざ地獄に戻る物好きはいないだろう?」
「悪かったわね、物好きで!!」
納得いかない!!
「せっかく戻ってきたのn」
全部言い終る前に、グレイに引き寄せられた。グレイの胸に、思い切り顔をぶつける。痛い。かたい。
「ふふっ、ありがとうアリス。君はよい子だね。悪い子だけど」
どっちだよ!? 意味わかんないよ!? ついでに言うと、なんなのこの状況!?
「納得いかない!!」
もがもが喚くと、さらにぎゅっと力を籠められる。
「知ってるよ! ……ありがとう」
「……」
語尾が震えたありがとうに、イラつきをおさめることにした。
知ってるよ。期待すると、痛いもんね。無いって思ってた方が楽だもんね。
だからってこの状況はやっぱり意味がわからないけどね!
「帽子屋さんずるーい」
「僕らもお姉さんと触れあいたーい」
「帽子屋、少し熱烈歓迎すぎるんじゃないか?」
「私も……んんっ、せ、説明がまだなのですが」
ちょっと待って最後。ラビ、あんたなんで羨ましがってるわけ? 私もって何よ、も、って。説明があるからって誤魔化しになってないんだけど。手遅れだったんだけど。
「あんたら何してんの?」
「お~、あり~す! 本当に戻って来てる~!! 俺さん感激……」
グレイに密着してて首も動かせないけど、先に行ったチェシャ猫がトカゲさんをつれて戻ってきたのがわかった。
……トカゲさん、声が、少しかすれてる。
グレイの手に力がこもった。見せたくないって? それとも、あんたでも少しビビるくらいな状態なの?
「ぐれい」
抗議のために声をあげると、力は弱められた。でもそのかわりに腕が頭の方に回って、振り返らせないような位置取りになる。
え、なに、怖いんだけど……。
「ふふふ~、今回のアリスは~、帽子屋とロマンスしちゃ~うの~?」
トカゲさんの状態をさらに悪く想像して怯えた私に、その能天気な口調は安定剤として響く。
口調が少し詰まった感じがした。なんでだろう? あれかな、伸ばす息がもったいないのかな? 息が続かないのかな? そう言えば少し苦しそうだ?
それでも能天気そうな口調はそのままで、ほっとする。どうなってるかわからないけど、取り繕える程度、なんだ。だよね? そう、思いたい。
「……おや? それだと私、犯罪者じゃないかな?」
「あはは~、アズの方が~、もっと歳の差あるよ~? ね~、この、ロリコンっ」
「……否定したいが、できないのが悔しいな」
……ん? そうだよね、アズの元の姿って、それなりの歳の青年だったような……。そんで姉さんは今の私より年下……。
「グレイ」
「なんだい?」
「気づかなくていいことに気が付いてしまったわ」
「……じゃあ気づいてないことにしよう。うん、名案だ」
「そう、迷案ね」
深く考えないのが最良の手。おーけー。……いや、それは姉さんにとっていいことなのかしら? いえ、考えたら負けね。
「で、私はいつまで目隠しされてればいいのかしら?」
「あ~、アリスってグロ~イの、大丈夫だっけ~?」
考えたくない。考えたくない。トカゲさんの状態は、今、どうなってる?
「スプラッタは、苦手、ね……」
「そっか~。じゃ~、そのままでいいよ」
「っ、よくないでしょ……」
チェシャ猫が絞り出すように、言葉を吐きだす。
あぁ、うん、言ってたね。見て、思い知れって。
グロいのもスプラッタも得意じゃないし、なんなら姉さん思い出すからトラウマスイッチでもちょっとあるけど、でも、そうね。みて、思い知らないと、ダメかしら。
ふーっと一息整えて、緩んだグレイの手をしゃがんで抜け出す。捕まえようと手が追いかけたのが見えたけど、止まってくれたみたい。
振り返った先には、一般人みたいな服装をしたチェシャ猫。それと、車いすに乗せられている、トカゲさん。
トカゲさんは毛布にくるまれていて、足も、手も、見当たらない。毛布は血だらけで、唯一出てる顔に巻かれた包帯とかも、まっかっか。
ぞっとして、寒気がする。
「あぁ、もう、ほら……大丈夫かい?」
え? 車いすに座ってるからって、足も毛布にくるむのが普通だっけ? でも、あれ? 足抱えて座っているの? どこに足を置いている?
「聞こえてるかい? 聞こえてないね」
何で腕もくるんだの? 何で毛布そんな血で汚れてんの?
「あり~す……」
顔もボロボロだよ? 包帯と絆創膏、そんな真っ赤で役に立ってる? 顔中真っ赤で、肌が見えないんだけど?
「よっと」
「いあだっ!?」
頭に衝撃が走る。痛いなんてもんじゃない。もうヤバい。星が散るって。
「元気出た?」
二重の意味でぐらぐらしてきた視界に、銃をひらひら振ってるチェシャ猫が映る。
「おまっ、おまえぇぇえええ!!」
銃で殴るやつがあるか!? 銃だぞ!? 鉄の塊だぞ!? 死ぬわ!!
「まぁまぁ、落ち着けって。問題ないよ。……だよな?」
「打ちどころ悪けりゃ死ぬわよ!? 頭なんて!!」
「あれ~? やさしめ~?」
包帯が巻かれていない片目をきょとんとさせて、トカゲさんがチェシャ猫を見た。
えっと、どこが優しいんですかね!?
チェシャ猫もそっぽを向いて、トカゲさんの足元に座り込んだ。
ちょっと、何で殴ったのか説明ください。確かに正気に返った感はあるけど、銃で殴る必要はあったんでしょうか。
「あぁ~、アリス~。俺さんはトカゲでね。トカゲの能力って、尻尾が切れてもまた生える再生力~みたいな~?」
「いや、尻尾治っても元通りってわけじゃないんでしょ、あれ?」
骨はないままだって聞いたことあるぞ。トカゲのしっぽの重要性はそこまでわからないけど、ヒト型の腕と足の重要性はわかるぞ。
そこに骨がなかったら、もう動かせないじゃない?
「でもほら~、俺さんは役付だからね。さすがにもっとすごい再生力なんだって~。だから~、腕も足も目もまた治るんだ~。だからあんし~ん?」
「あ、やっぱ、ないんだ……」
「おっと~し~つげん」
手足がないのは予想できたけど、何? 目もないの? 確かに右目は包帯の下だけど……。
想像以上、最悪のさらに下って感じ。
だるま、だっけ? 手足、ないの……。
「わたし……」
「ごめ~んね~、巻き込んじゃって」
何も考えてないけど、何か言おうとしたその声にかぶせるように、トカゲさんが謝ってきた。
「え?」
「見たって、き~たよ~。俺さん、前のアリス守れなくて~、今のアリスを代わりに守れれば~、前のアリスに償えるかなって~、思っちゃったんだ。ごめんね」
伸びない謝罪が胸に来る。
「ちがっ」
「ちがわな~い。ねぇ、妹だって聞いてね~、俺さん、ならもっとよかったって思ったよ~。妹守ったって、それなら姉アリスは喜んでくれるかな~って~。卑怯だね」
「違うよ……」
「ふふ~、でもさ、アリス。ごめん、いろいろ失敗しちゃったね~。迷惑かけてごめんね」
迷惑じゃないよ。私が壊しちゃったんだよ。
言い返したいけど、トカゲさんが許してくれないのがわかった。
トカゲさんが私を元気づけるために、守るために、自分を悪者にしてるのがわかった。
なら、私は……私は、心の中で自分を責める。表では、トカゲさんに、何も言わないことにしよう。
グレイにも言ったわよね。どうせ水掛け論だから、何も、言わないわ。
「あー、言いにくいんだが……」
そこでアズがそっと手をあげて会話に入ってくる。
「そうだ~よね~。前のアリスってどうなった~の~?」
「……私そのためにもこっちに戻ってきたのよ」
難しい顔をしているアズに顔を向けて、聞きたいことを聞きだしたい欲求を少し抑える。無理やりはよくない。だめ。絶対。
「少し前まで存在を感じていたんだが、アリスが戻る数日前から、なんというか、接続が切れた感じがする。でも、存在はしているようなんだ……」
私が戻る数日前? それっていつ? というか、元の世界とここは時間の流れ一緒なの?
「私、姉さんから『戻って来て』みたいなメール、手紙? を、受け取ったのよ」
「……まずこっちとあんたらの世界つなげられるのって白兎だけのはずじゃないの?」
「いえ、私はこの件にかかわってませんよ?」
「どういうことだろうね?」
「前のアリスが~、元の世界に戻ったわけじゃなくて~?」
「それはない。確かにこの世界にいるのは感じる」
「というか、死んでるのなら戻るも何もないと思うけれど」
役付きたちがごちゃごちゃ考え始めるのを、挙手していったん止める。
「あのさ、死んでるのよね?」
「あぁ」
アズが代表ではっきりとうなずく。
「じゃあ、私がアズのゲームで会った姉さんって、何?」
そう、私は大きな木の中で、アリスに会った。あれは姉さんだった。私が最後に見た姉さんよりも幼かったけど、あれは確実に姉さんだったわ。
「わかりやすく言えば幽霊みたいなものかな。魂をこの世に留める、感じだ」
「で、ゲームを攻略して、それはどうなったの?」
「天に昇りかけたんだが、羽を生贄にしてまたとどめたんだ。ゲームの時みたいにも会えなくなくなったが」
「つ~ま~り~?」
トカゲさんも詳しく聞いていなかったのか、少し責めるように説明を求める。
「とりあえずこの世界にいるだけ、の存在になったんだ。アリスがあの子の事を思い出したら最後に話しくらい、と思っていたんだが……」
「話させる前に、いなくなったわけ?」
「そうだ」
「どこにいるかわからないんですか?」
「さっぱりだ」
結論、不明。
姉さん、いるのはいるのよね? どこに行ったの? 会いたくないから、どっかいっちゃったの?
会いたいよ。謝らせて……我がままかしら? ごめんなさいごめんなさい。
「「取り込み終わった??」」
いつの間にか姿を消してたディーとダムが、ひょっこり姿を現す。
「あぁ、外の様子は?」
アズがまだ難しい顔をしている。まだ、というより、また、かもしれない。
姉さんとは違う問題が、私の知らない間に起きているもよう。
「なんか、入れろ入れろってうるさいんだよね」
「アリスが戻ってきたの嗅ぎ付けてきたみたい」
「そうそう。重要だからって」
「アリスのためだって」
「「ゲームのためだって」」
「え、ゲーム?」
誰? 反逆者側にいないゲームしてない人たちって、ハートと、後……。
あ、侯爵夫人とドードー?
「ゲームか……アリス、どうする?」
「え、私が決めるの?」
「ゲームをするのは君だろう?」
「……じゃあ、会うわ」
勝てたら味方が増えるってことだものね。頑張らないと。




