その後の把握
ラビと合流して、どうせ目的地は一緒だからとチェシャ猫が道ずれになり、三人でアズの森に行くことになった。
「なんでアズの森?」
「俺ら今反逆者なわけ。アズはあの森で一番支配力が強いから、アズが望まなきゃ追っても閉め出せるんだよ」
「あそこには陛下でも手が出せませんからね。囲まれてはいませんけど、出る時と入る時は少し注意が必要なくらいです」
「本当に特別な森なのね……」
「そうそう。ってか、帽子屋さんのお屋敷は家探しされてめちゃくちゃだったし、城に戻れるはずもないし、もうそこくらいしか逃げ場ないんだよね」
思ったより状況は悪そう。まぁ、女王様に逆らったわけだし、予想できたっちゃできたけど。
でもさー、騎士に門番に宰相? そうとう城の重役抜けてないか? 大丈夫?
「で、何でチェシャ猫はジャックの服なんて?」
「お城に潜入調査。……猫はさ、まぎれんのが得意なんだよね。つまり、気配をまねるのが得意。で、俺は変装が得意。まぁ、そういうこと」
ちょっとよくわかんないけど、最初も役付に見えなかったし、その後も帽子一つでトカゲさんと見間違えたし、そういうことなんだなって。
……どういうことなんだよ、って言う気もするけど、ワンダーランドワンダーランド。
「でもばれたらまずくない?」
「そんなへましないよ! なめてんの?」
「チェシャ猫、アリスは心配してるだけですよ」
「あっそ。じゃあ余計なお世話!」
ぷいっとそっぽを向いてしまうチェシャ猫だけど、よくそんな顔逸らしながら足場の悪い道歩けるな、となんか感心。
「チェシャ猫……。すみません、アリス」
ラビが自分の事のように謝ってくる。……いや、実際自分の事と思ってる? あなた、私と似てるから、自分のせいだって思ってそう。
「いいのよ。仕方ないってわかってるし」
「あなたのせいでは……」
「やめましょう。そういうの。今は現状把握したいわ」
私のせいだっていうのは確定しているの。だからさ、これって堂々巡りになるしかないのよ。じゃあ時間の無駄ね。
「わかりました」
何か言いたそうだったけど、ラビは耳を垂らして私の望みどおりにしてくれる。
我がままだったかしら? ごめんなさいね。でも、お願いよ。
「トカゲについては実際に会ってくださいね。彼、とてもあなたの事を心配していました」
「……無事、なのよね?」
「あまり、見られたくも、見せたくもない状態ではありますが、精神的には元気ですよ」
見せたくないって、何よ? いったい、どんだけ、何が? 想像できない。でも、ちょっと覚悟した方が良さげかも。
「あれでよくそんなこと言えるよね」
ぼそっとチェシャ猫がつぶやいたのに、ラビが顔色を変えて声を上げた。
「チェシャ猫!」
「でも、あんたに会いたがってる。ちゃんと会ってね。そんで、あんたたちの罪を思い知れ」
さっきはそっぽを向いたくせに、今度はがっつり睨み付けてくる。瞳孔が細まって、獣に威嚇されてる感が半端じゃない。
わかってるわよ。そんな睨み付けなくたって、目の前で姉さん殺しちゃったのよ? 十分、思い知ってるわ。まだ足りないかしら? 何としてでも償うの。だから、ならもっと思い知らせてね。
「ねぇ、姉さんはどうなったのか、知らない?」
「あんたの姉さんがここにいるわけなくない?」
睨み付けてた瞳が丸くなる。チェシャ猫が怪訝そうにそう聞いてきた。
「前回のアリスが、そうなんですよ」
「は……? ハァっ!?」
ラビの解説に、チェシャ猫は思い切り叫び声をあげた。
「ハッ? 嘘でしょ? きょうだい? ちがうか、姉妹? はあ? はぁ? うそ、嘘だって。え?」
「本当ですよ。『白兎』がそう言ってるんですよ? 間違いでも嘘でもないです」
「だって、だって!!?? えぇ!?」
せわしなく猫耳がぴくぴくするから、つけられたピアスがちりちり音を鳴らす。とても混乱しているのか、目もきょろきょろとあたりを見回した。
「え? 知らないの?」
とか言ってる間に、チェシャ猫はキャパオーバーでもしたのか、ぽかんと口を開けて立ち止まってしまった。
でもラビの足は止まらない。え、置いて行っていいの?
ラビとチェシャ猫を見比べるけど、まぁ、潜入調査できるくらいだし一人でも大丈夫か、と放っておくことに。というか、普通に情報の方が気になるわ。そーりー。
「知っているのは、チェシャ猫を除く反逆者側ですね。チェシャ猫は今ですか。一応私の我がままだったので、ルール違反をした言い訳ではないですが、勝手に話させてもらいました。チェシャ猫はその話し合いに参加していなかったので、知らなかったんですね。帽子屋邸の人たちは知っていたようですけど、それはアリスから話したんですか?」
「ええ。そうよ。そんな感じ」
「では、イモムシはあまり驚いていなかったので、察していたようです。一時期前回のアリスと存在を共有していたからでしょうか……」
「あ、そうよ! 姉さん!! 姉さんがどうなってるか。知らない?」
存在共有。でも記憶が戻って、アズに存在が戻った。でもなんかしてるって、アズが言ってた気もする。じゃあ。どうなったの?
「死者は、戻らないのでは……?」
ラビが悲しそうに顔をゆがめた。
やっぱり無駄だった? こっちに来ても姉さんには会えないの?
でも、違うわ。メールが来たのよ。姉さんからだわ。そうよ、姉さんのメールで、約束を果たすって決めたじゃない。
だったら、姉さんがいなくても、無駄なんか言ってられないわ。
「……姉さんはいる。はず。アズに話を聞いてみたい」
「……そうですね。私もあの二人の情報は詳しく知らないので、話し合った方がいいでしょう。あえなくとも、思い出は共有できると思いますよ」
最後はラビなりの慰めなんだろうけど、姉さんのこと認めてくれないみたいで少し腹が立つ。
私嘘言ってないわ。きっといるもの。じゃないとメールなんてできないでしょう?
「あ、あぁ、えっと、アリス?」
チェシャ猫が追い付いたのか、後ろから困ったような声が聞こえる。
「なぁに?」
「マジで前のアリスと姉妹なわけ?」
「そうだけど?」
「……あー、その……お前……いや、いい。なんでもない」
いや、ここまで引っ張ってナンデモナイはないでしょ? 気持ち悪いな。
「ちょっと、気になるでしょ、言ってよ」
「言わない。……でも、ちょっと悪かった、って、言っとく」
チェシャ猫はそう言って、どこからか取り出したハンチング帽を目深にかぶって表情を隠した。
でも言われたこっちはわけわかんなすぎ。
「はぁ?」
「何か変なものでも食べたんですか?」
ラビまで心配げにチェシャ猫の顔を覗き込んだ。
「あんたら……なに? 俺がせっかく歩み寄ったらそんな反応するわけ? 納得いかねー」
「今までぎゃんすか噛みついてきたやつに、急に謝られても……」
「うっ、わ、わかってるけどよー……あぁ、もう! うるせー! おら、森だぞ。入れよ!!」
そのままチェシャ猫は振り返らずにかけて行ってしまった。
取り残された私たちは顔を見合わせる。
「なんなわけ?」
「さ、さぁ?」
「……まぁ、行きましょうか」
「えぇ、行きましょう」
なんか釈然としないけど、とりあえずアズの森へ。




