ぷりーずみー、方法
まず、夢の中のゲームの中も、白兎は男……オス? だ。でも、メールの喋り方は女にみえる。
次、ゲーム中のキャラはアリスって名前じゃない。でも、ゲームのシステム的に、宛て先の名前は変えられない。
最後、だいたいどこから送られてきたんだよ、これ! って話。
怖いよ! 意味がわからんよ!!
軽くパニック状態の私に追い打ちでもかけたいのか、さらにメールが届いた。
反射的に本文を開いてしまう。
『差出人:白兎
宛て先:アリス
あなたに会いたいわ。それでなくても、途中で投げ出すのはいけないと思うのよ。もどって、ちゃんとやり遂げて。約束、したんでしょう?』
約束、約束……。した、グレイと。チェシャ猫も、ちゃんとトカゲさん救えたか、まだわかってない。やり遂げたの、私? だめなら、もう一回チャレンジしないと。
また、メールが届く。
『差出人:白兎
宛て先:アリス
許して、アリス。私の大事な、アリス。私はあなたが大切で、でもそれがあなたを困らせてしまったのね。許してちょうだい。それで、また、仲直り、したいのよ』
私の大事な、アリス……なんだっけ? とても大切な、言葉だった気がする。
この『アリス』は、受け入れられる。他の人に呼ばれるアリスは、自分の名前じゃなかったけど、このアリスは、私の名前だ。
そう、私はアリスって呼ばれてた。
誰に?
たぶん、姉さんに!
『差出人:白兎
宛て先:アリス
まだ怒っているかしら。でも、私はあなたが大好きよ。ねぇ、私のアリス』
姉さんなの? 聞きたい、話したい、知りたい。返信しようとアイコンを押すけど、反応してくれない。
なんで!? こんな時にバグったの!?
『差出人:白兎
宛て先:アリス
来て。お願い。白兎が待ってるわ。真っ赤な目で泣いてるの。帽子屋は本当にイカレてしまうまでもう少しよ。芋虫も、寂しそうだわ。助けて、アリス。お願い。お願い』
あぁ、やっぱりこれは夢の世界からのメールだ。あの世界にいるんだ、姉さん!?
行きたい。行くわ。でも、どうやって行けばいいの? 教えてよ、助けてよ!
『差出人:白兎
宛て先:アリス
怒っているのね? ごめんなさい。償いたいわ。でも、今は、助けて、お願い』
違うわ、違うのよ。償うのは私の方。意地悪しているわけじゃないの。どうやって言葉を届けるか、わからないのよ!
『差出人:白兎
宛て先:アリス
アリス、おねがい』
わからない。狂ったように返信アイコンを叩き続けるけど、応答がない。壊れてしまったのかな。もう、どうしようもないの?
それきりメールは来なかった。ゲームは一度ブラックアウトしてしまって、再起動したときには姉さんからのメールはどこにもなかった。
白昼夢でも見たのかしら。だったらなんて、悪い夢!
電源を落として、ゲームを放り出す。ぐったりして、ベッドに倒れ込む。
お願いと言われたって、行き方がわからない。お願いしたいのは、こっちの方よ。
……。
水を飲もう。一回、落ち着いてみよう。
ベッドから起き上がって、キッチンに向かった。
ゲームしているうちに、日が沈んできたみたいだった。ちょっと薄暗い。
変なとこにぶつからないようにキッチンに向かうと、その前のリビングで父さんとばったり出会う。
「っ、××! どうかしたのか?」
「ちょっとのど乾いて……」
「ココアでも作ろうか? お前、好きだったよな?」
それいつの話だろう。最近はココアなんて、そんなに頻繁に飲んでない。はずよ。
断ろうかと思ったけど、何か言う前に父さんがキッチンに行ってしまった。まぁ、飲み物なんて何でもよかったからいいけど。
……のど乾いてココアって、結構またのど乾きそうだけど。いっか。うん。
椅子に座って待っていると、父さんがカップを二つ持ってやってきた。
「ついでだから父さんのも作っちゃったよ。ココアなんて何年振りだろうな」
「私も久しぶり。……、ありがとう」
「いや、いいんだ。他に何か欲しいものはあるか?」
「ないわ。大丈夫よ」
「……」
「……」
それきり沈黙が落ちる。
そりゃそうだ。母さんが死んで、姉さんが死んで、父さんはそれを忘れるように仕事ばっかで、私の事なんてあんまり気にしてなかった。
私が姉さんのふりしてたのもあるんだろうけど、会話なんてほとんどなかったし、何話していいかわからないんだろう。私は話す気すらないけど。
「が、学校はどうだ?」
「何もなかったと思うわ」
「そうか……」
父さんは何か話したいみたいで、会話を振ってくるけど続かない。
話を膨らませないのが悪いって? そんな気分じゃないのよ。
どうやったらまたワンダーランドに行けるかしら? どうやったら約束を果たせるのかしら?
誰か、私に、方法を、教えてよ!!
「××……」
「……?」
父さんがじっとこっちを見ているのに気が付いた。その前に何かつぶやいたようだけど、記憶に引っかからなかったところを見ると、名前だろうか?
「お前、何か変わったか?」
「……え? 何?」
急に何か変わったかとか言われても、思いつくものはない。外見なら、包帯巻いてるし、ちょっと痛々しく変わってる気がするけど。
「いや、なんというか、姉さんの真似から少し離れたような」
「!?」
「少し、お前らしくなった、気がする」
姉さんの真似が出来てない? どうしよう。これじゃあ姉さんを生かすことができない!
手から力が抜けて、カップを取り落としそうになる。顔はきっと真っ青だろう。
怯えたような表情でもしてたのかな? だからか、父さんが慌てて言葉を足してくる。
「悪いんじゃないぞ!? いい意味でだ! お前らしい方がいいよ。姉さんは、もう、いないん……」
「いるよ!!」
父さんの言葉が終わらないうちに叫んでいた。
カップをテーブルに叩き付けて、椅子も蹴倒して立ち上がっていたみたいで、手に熱さ、耳に大きな音を感じる。
「いたのよ!! 私は会った!! でも、また、私が殺しちゃったかもしれない! それでも、姉さんはいた! 生きてた!」
「それは……きっと夢だろう」
「夢じゃない! あの世界は現実よ!! じゃないと、じゃないと!! 姉さんが生きてないことになるじゃない!!」
あの世界が夢だって信じたくない一番の理由は、きっとそこだ。姉さんが生きている可能性、それがまだあの世界にはある。
そうだ。なら、戻らないと、あの世界に。
私はとっさに身をひるがえす。
「××!? どこに! ××!!」
後ろから父さんの喚き声が聞こえるけど、頭を素通りして、残らない。
ダッシュで玄関まで行って、靴も履かずに飛び出した。
どこ? どこに行けば姉さんに会える? ワンダーランドに行った時の共通点は?
高い所から落ちたこと!!
何でもいいから高い所を探して走り出した。飛び降りできる場所? でも死んじゃわない? 姉さんも、即死じゃなかった。死んだらワンダーランドなんて素通りしてあの世に行っちゃう!?
死なない程度に落ちれる場所ってどこだろう!? 見当もつかないわ!!
どの高さから落ちたら死ぬの? いや、どこでも打ち所悪かったら死んじゃうでしょ!?
あぁぁあああああ、もう!! どうしたらいいのよ!?
二週間くらいずっと寝っぱなしだったし、現実世界では体力がほぼない。アリスだった時はなんだかんだ身体能力が上がってた気がする。
まぁ、役付とバトルにはそのくらいの補助必要だろうしね、しょうがないね。
でも、いまは! そんなのないし、行く場所もわからないしで、適当な道を選んでるから余計体力が削られてもうヘロヘロだ。
どうしようどうしよう。
お父さんは追って来てる? とりあえず逃げきれば何とかなるかしら。あぁ、でも恰好が変。裸足だし、通りすがりの人に呼び止められたら面倒よね! はやく、いい場所見つけないと。
そうだ、私の落ちた場所は? あそこはどこだった? 姉さんが落ちた場所の隣のビル!!




