幽霊メール
名前が思い出せないまま、しばらく経った。
目が覚めなかった期間は二週間ほどだが、異常は見られないと言うことで、いろいろ検査をして家に帰っていいと許可が出た。
検査中に考えたこと、あの夢の事、姉さんの事、無くした記憶の事。
名前だけじゃなくて、ところどころ記憶もないみたいだけど、ないから確実なことは言えない。どことなく、心に穴が開いてしまったような気分になる。
寂しい。
家に帰っても、姉さんはいない。お母さんも早くにいなくなってしまった、だからお父さんが退院できた私に色々世話を焼いてくるけど、ちょっと一人になりたい気分。
あの夢はなんだったのか。
目が覚めても、寝てても、ずっとぼんやりしている気がする。
家に帰ってきても、何もしたいことはないし、寝ぼけたままな気持ちだ。
フラっと、自分の部屋に入って、壁にかけてあった高校の制服が目に入った。
あぁ、そうだ。高校に入って、私の目標は破たんした。
ずっと姉さんの代わりに生きようと思って、姉さんの前をして生きてきた、でも姉さんの時は中学の時で止まってしまっている。
行きたい高校があったみたいだから、頑張って勉強して、その高校に入った。
でもその後は?
その後の姉さんは知らない。だからどうしていいかわからなくなった。
姉さんの事を思って、考えて、でも余計わからなくなってきて、だから私は……。
そう、姉さんを突き落してしまったとこと似たビルに入った。
あははっ、これじゃあ自殺でもしようとしてたみたいじゃない。
……。
苛立って、何回も来ていない制服をぐちゃぐちゃにして放り投げた。虚しくなって、そのままベッドに倒れ伏す。
このまま寝たら、あのワンダーランドの夢に戻れないかしら。姉さんと、また会えないかしら。
夢の中でも殺してしまった姉さんに、また、会えないかしら。でも夢だから、結局私の願望で、それはどうしたらいいんだろう。
頭の中もぐちゃぐちゃ。視界に入る制服もぐちゃぐちゃ。
……いっそあのまま夢の中で死んでしまってたらよかったんじゃない? 人は思い込みで死ねるって言うし、夢の中で死んだら、現実でも死ねたんじゃないの?
重いため息を一ツついて、手のひらを見る。
油性ペンで、書いてもらった私の名前。読めるけど、理解できない記号みたいなそれを見て、そっと呟く。
「あ、ん」
姉さんがつけてくれたって言ってた。姉さんの名前はお母さんがつけてくれたから、私の名前はお父さんがつけるはずだったんだって。
でも姉さんがどうしてもって聞かなくて、私の名前はこれになった。
何でこの名前にしたんだろう。何を思ってつけたんだろう。姉さんは私の名前呼んでくれた? どんなふうに? どのくらい? 覚えてない。
もう一つ、重いため息をついた。
今日も平日、明日も平日。でも学校には行きたくない。どうふるまっていいかわからない。
でも家の中ですることもない。特別やりたいこともない。
ゲームでも初めて、引きこもりライフでも楽しもうか? 楽しめないか。
でも暇つぶしにはちょうどいい。
押入れを漁って、いい感じのゲームを探す。作業ゲームはいろいろ考えちゃうからダメだ。冒険もの、ホラーもの、何がいいかな。
そこで一つのパッケージが目に留まる。
「『ガーディアン・イン・ワンダーランド』? うわ、古……」
五年以上前のものだった。そういえば、姉さんとよく遊んでいたような……?
「これ、やろうか……」
携帯ゲーム機でやるゲームだ。オンラインでやることもできるけど、一人でやるのももちろんできる。
ワンダーランドを舞台としていて、自分はそこの冒険者として異世界から招かれる。ワンダーランドの住人から出される依頼にこたえる冒険もの……って、うん?
なんか、あの夢の世界に、似てる?
急いで本体も探し出して、ゲームを起動する。
パッケージは二つあったけど、両方文字が書かれていた。たぶん一つは私の名前、もう一つは姉さんの名前……亜梨守。だから迷うことはなかった。
ベッドに腰掛けて、ゲームが起動するのを待つ。
セーブデータは一つ。そこに映る少女のアバターを見て、目を見開いた。
銀髪、青い目、私のきていたアリス装備と同じ服。ゲームのキャラだし、可愛くないはずがない顔。
これ、夢の中の私じゃないの。
いったんゲームの電源を落とし、姉さんのカセットを起動する。
金髪、碧眼、私と似てるけど少し違うアリス装備。
そのアバターは夢の中の姉さんそっくりだった。
「どういう、こと? だって、ええ?」
最近よくあるゲーム世界トリップもの? でも夢よ? え、夢オチってだけ? 私のラノベ的冒険譚は終了しましたってこと? それだけの話?
意味がわからない。でも、なんとなく惰性的に、カセットを私のものに変えてからゲームを続ける。
ワンダーランドは一国だ。ハートの国と名付けられた一つの国だけ。周りは森に囲まれていて、外の世界はないと言う。
依頼を出してくるのはその国で重役の人たち。女王陛下、白兎、帽子屋、騎士……あの世界で役付だった人たちだ。キャラデザインも、似てる……。あ、でも、動物系の人は、動物そのものだった。
役付以外にも、侯爵夫人、ドードー、メアリー・アン、グリフォン、他に何人かいたけれど、侯爵夫人は夢と同じだった。ドードーは鳥。メアリー・アンやグリフォンなどの見たことない人も多かった。
でもやっぱり、似てる……世界も、雰囲気も、人も、何もかも?
あっちの世界でのカード集めのヒントになるかもしれない、と思ったけど、戻れないなら意味がない。
意味もなくワンダーランドをさまよっていく。
夢の世界がゲームの世界なら、冒険ものだから力があったのに。戦える力があったのに。足手まといにならない力が……。
ない物ねだりしても遅いけど、悔しい気持ちが溢れてくる。
自分のアバターの名前は自分の名前だからか、理解できない。夢の中そっくりのアリスがいるのに、その名前が理解できないとか、ちょっと気持ち悪い。
暇つぶしのためにゲームをやってるはずなのに、どんどん気分が悪くなってきた。
いったん寝ようかな、とか思っているとメールが届きましたと言うアイコンが光る。
……誰から?
ゲーム中のキャラからメールが届くことはない。オンラインだったら友達登録している人なら届くけど、今はオフライン。ついでに言うならオンラインで友達登録した人なんていない。いつも姉さんとローカル通信だった、から……。
なら、届く可能性があるのは姉さんだけなんだけど、姉さんはいないし、姉さんのカセットも起動してないし、通信だってしてないし、さらに言うならメールしたことなんてない!
何かの不具合か何か? とか思いながらも、恐る恐るメールのアイコンを開く。
差出人は、白兎? 白兎って、ラビ……じゃ、ないわよね。ゲーム中の白兎? でもメール機能は、キャラクターに対応してないし……。
頭の中?で埋め尽くしながら、メール本文を開いた。
『差出人:白兎
宛て先:アリス
こっちはもう一週間たったわ。いつまで寝ているの? 早く戻ってらっしゃいな。』
え、誰?
病院の対応がこれでいいか謎ですが、ゲームの事もふわっとしていますが、フィクションってことで大目に見てくださいませ……。お願いします!




