シンプルに逝きましょう
「ディー、ダム? 何であんたたちがここに?」
後ろを振り返ると、まったくそっくりの双子が呆れたように笑って私を見ていた。
「俺が連れてきた。手は多い方がいいだろ」
双子の後ろには超絶不機嫌なチェシャ猫が立っている。声も低いし、尻尾もなんだかピンとしていた。ちょっと怖い。
赤がいくらか落ちた、緑色のキャスケットを被っている。……。
「いや、勝手に人の家をたまり場にしないでくれないか?」
困ったように口を出すのはグレイ。諦めたように椅子を探しに行くのはミカ。我関せず眠りに入るのはネネ。
完全に頭が追い付かないで呆然としているのは、私。
「ねぇ、ちょっと。あんたが自分で囮になるとか言ったんだよ? 良い作戦思いついてるもんだと思ってたわ」
ミカが差し出した椅子をひったくるようにして、背中を前にして乱暴に座る。チェシャ猫は私に近づきたくないのか、グレイの後ろに陣取った。
ディーとダムは逆に私の両隣。グレイに紅茶を強請って、ミカには貸を強請っている。
「聞いてんの? いつまで呆けてるわけ? いい加減にしろよ。時間はいくら早くてもいいんだから」
「ちょっと! あんまりお姉さんいじめないでくれる!?」
「お前みたいなのが上から言ったら、お姉さん怯えちゃうでしょ! そんなこともわかんないわけ!?」
チェシャ猫の焼けつくような視線に射すくめられてた私は、ディーとダムの庇ってくれる声にはっとなる。
庇われてる場合じゃない。悪いのは私なんだから、ちゃんと償わなければ。
「足止め、できると思ったんだけど……」
「だーかーらー! お姉さん、それはちょっと違うって!」
「エース様だってちゃんと人間だよ? あんまり嫌わないでほしいなぁ」
「怖いけど、一応僕らの上司だからね」
「怖いけど、悪い人じゃないんだよ?」
右と左からかけられる声に、頭はどんどん下を向いていく。ねぇ、じゃ、どうしたらいいってのよ?
「だってあの人はアリスを殺すでしょ?」
「前回のアリスの事? あれはあのお姉さんがゲーム放棄したからだよ。お姉さんはゲーム放棄するの?」
「しないわ」
「じゃあ、エース様に敵対行動でもした?」
「……一昨日、思いっきり罵倒して逃げてきちゃったけど……」
「でも、敵対したわけじゃないんでしょ?」
「どうなのかな?」
「わかんないなら話し合おうよ。そりゃ、怒ってるかもしれないけど、いきなり殺したりなんてしないよ」
「お姉さんもそう言ってたじゃん、自分で?」
「それにほら、ちゃんとお姉さんを迎えにいったでしょ?」
「お姉さんを守るために」
そう、そうだけど……。
エースは敵じゃないの? じゃあなんで嘘ついたの? 命令だから? どこまで命令聞くの? どこまで信じていいの? お母さんみたいだったのは、嘘? 心配して怒ってくれたのは、嘘? 苦しそうだったのは、嘘?
何を信じていいかわからない。疑ったらずっと疑いたい。もしもう一回信じてみて、また裏切られたら痛すぎる。いやだ。
あぁ、どうしたら、いいの? もうやだ。めんどうくさい。
「……双子」
完全に黙ってしまった私を見て、今まで傍観していたグレイが声を出す。
「「なぁに?」」
「トカゲの居場所に心当たりは?」
「チェシャ猫にも言ったけど、ないよ」
「僕ら管轄が違うから」
「ラビ様なら知ってるかもしれないけど」
「まず居場所がつかめないよ」
「「最近女王陛下がこきつかっててさ!!」」
さすがに体壊しそうだよねー、と二人は顔を見合わせる。
……ラビも、味方? どうかな。
「なら、もう一人の騎士様は?」
「それはわかんないなぁ」
「まともな牢の場所なら知ってるかもしれないけど」
「トカゲがまともな牢に入ってるとは思えないなぁ」
秘密の牢屋? なにそれ怖い。拷問とか、されそう……。
「でもさ、知らないと思う」
ディーが私の方をまっすぐと見た。ダムも、私の服の裾をつかんで何かアピールしてくる。
「だって、すごくお姉さんのこと心配してたし」
「帽子屋邸に保護されてるのは知ってるけど」
「街でお姉さん探してるくらいだし」
「自分から行ったら逃げられるって思ってるみたいでさ」
「偶然ばったりなら、とか思ってるんじゃない?」
「だから、さ。あの人、とってもいい人だよ」
「ちょっとおかしいし、逆にイラッとくることもあるけどね!」
ジャックの事はせめて信じてほしいのか、双子がそろって弁護してくる。なんでかな? どうしてそんなに庇うのかな?
……。
確かにジャックはおかしいけど、いい人だ。疑えるけど、それ以上に、信じてもいい人かもしれない。でも、でも、って色々思い浮かんでしまうけど……。
うん。
「……いいわ、ねえ、ディー、ダム」
もう考えるのが嫌になった。こうなったらシンプルにいきましょう。
「「何? お姉さん」」
「今城に突撃して、私が死ぬ可能性はどのくらいかしら?」
「えーっと……ないんじゃないかな?」
「お姉さんが敵対してないならね」
これでいくが逝くになる可能性は低くなった。
「それ、チェシャ猫を連れて行っても?」
「チェシャ猫は今対罪人扱いだから……」
「でもゲームしてるって言えばある程度許容してもらえるかも」
「らしいわよ、チェシャ猫。なんかいい感じのゲームのアイデアない?」
急に話を振ったからか、尻尾がぶわっとふくれた。ついでにキャスケットの中で耳もぴんとしたのがわかった。どんだけ予想外だったのよ。
「……ふーん? ふーん?」
真ん丸にした目を、今度は細めて、意味ありげな視線をグレイに向ける。
「ふふっ、今回のアリスは壊れっぱなしにはならないみたいだよ。ただ、壊れたりなおったりを繰り返すようだけど」
「へー、ふーん、そー……。いいよ、勝手にして。俺は下りてる。もうアリスに期待なんてしないって決めたから、好きにして」
「これで大体過半数かな」
意味の分からない会話が二人の間で交わされる。
その後チェシャ猫はこっちに視線を移して、舌打ちをした。
え、なによ。
「そうだね、じゃあ、○○をしてはいけないゲームなんてどう?」
「なにそれ?」
「なんでもいいよ、そんなの。とにかく俺はアリスの行動を監視して、アリスが俺の意に沿わない行動でもしたら、そこでゲーム終了ってこと」
「……それ、監視ならぴったりくっついてなきゃいけないじゃない。探すなら手分けした方がいいでしょ」
城に入っても大丈夫かもしれないけど、その後どうする気なんだろ。というか、監視って微妙だよね。
「どうせあんたが一人でいても助けらんないだろ」
「そりゃそうだけど、あんたも私と一緒でいいわけ?」
「仕方ねぇ。ただ、もし足引っ張ってみろ? ……コロス」
ですよねー。
「いや、そんな奴とお姉さん二人にできないよ!」
「そうだよ! 何で危険人物と一緒にさせなきゃいけないのさ!」
「どう、い……」
眠ってたネネまで同意してきた。どんだけ嫌なんだ。
「じゃあもう一人、ネネでもつけるといい。眠ってたら、ネネの能力で見つけられるかもしれない」
「……ネネの能力?」
私が首をかしげると、ネネががバッと起きだして、目をかっと開いて、一言。
「その発想はなかった」
その場を沈黙が満たす。意味がわからず沈黙してるのは私だけじゃなくて、帽子屋邸のメンバー以外きょとん顔だ。よかった。仲間外れは私だけじゃない。
「えっと……?」
「いける、いけ、る……。めいびー」
たぶん? たぶんなの?
「え、なに、どゆこと?」
「眠りネズミって異能持ちだったっけ?」
「え、何そのSFみたいな?」
「そこはファンタジーじゃないのお姉さん?」
意味が不明すぎて頭ん中はてな状態の私たちだけど、帽子屋邸の住人は無言を貫く。
ミカでさえきょとんとして耳をそよがせている。あれ、ミカさん? あなた地味に隠し事苦手キャラじゃなかったでしたっけ? 何でここ黙るんです? やましいことない風なんです?
「まぁ、グレイが話してくれないのは学習済みだわ。ネネ、わからないけど、お願いね。無理だったらエースに直接聞きましょう」
「なんでラスボスに突っこむかな、お姉さん」
「いや、ラスボスは陛下だと思うよ兄弟」
「じゃあ、副魔王みたいな?」
「副魔王って聞いたことないよ兄弟……」
「むぅ、あり、す、あぶなく、ないように、がんば、る、ね……」
そうしてネネはガツンと音を立てて、また眠りに沈んでいった。……これ大丈夫かしら?
「では私たちと双子はどうする?」
「えー、僕らお姉さんを助けに来たのに」
「そうだよ、お姉さんと行動したいな」
「手を分けた方が効率がいい。結果的にアリスの手助けになるとも思うけど」
「「しょーがないなー」」
ということでディーとダムは私たちとは別枠で、城の探索をするようになったみたい。
「でも私たちは城の住人ではないしね」
「いざとなったら乗り込むか? 逃げ出せるように準備でもしとくか?」
「そうだね、外で待機していよう。何かあれば呼んでくれ。それで、もし追われるような結末になったら、アズールの森に逃げ込むように。あそこなら彼が何とかしてくれるだろう」
最後思いっきり人任せだけどいいのかな?
いや、私結局何もしてないも同然なんだけどさ。どうせ私は言い訳の材料くらいにしかなりませんよ。
でも、うん、できる限り足を引っ張らないようにしよう。それで、できることなら、
誰かをかばって退場したい。




