何をしたいか
おまけにもう一話PON★
さて、いかがでしたでしょうか一週間。結構進みましたかね? そうでもない? ソウデスネ。
一週間お付き合いいただけた方には、お疲れ様です、と言わせていただきたく……月一更新からどうしてこうなった感もありますが、読んでいただいてる方には感謝しかありませぬ……!! 本当にありがとうございます。
では、投稿強化週間のラスト分、本編をどうぞ!
手には閉じた本、目の前には酷く辛そうな顔のグレイ。どういう状況だったか、把握するのに少し時間がかかる。
あぁ、そうだ。前回のアリスの記憶を見ていた。アリスは姉さんだった。
……記憶を覗く前に、グレイは謝っていた。
つまり?
「あんたは前回のアリスが、私の姉さんだったって知ってたの?」
手にもっていた本を、胸に抱く。これには姉さんの生きた証が詰まっていた。
疑う気持ちが強くなって、信じられない気持ちが大きくなって、グレイの事を思い切り睨みあげる。
エースも、あんたも、怪しすぎる。
「知っていたか、というと微妙なところだ。《白兎》から少しは聞いていたが、姉だとは聞いてなかった。でも、近しい仲だとは、察していた。確信したのはついさっきだ。君の記憶を覗いて、前回のアリスを感じた。顔は全然違うけれど、表情も言葉も、彼女そっくりだったから……」
あえて事務的に話しているのだろうか、低く抑えられた声には感情が感じられない。硬く、冷たく、とっつきにくい。
違う、そうじゃない。報告が欲しいんじゃない。もっと感情みせてよ。中身が見たいのよ。じゃなきゃ信じられるかどうかもわからない。
「私は君のカードになった。そう、嘘はつかない」
「つけるってことね」
そう、をつけるって何かしら? 断言してないじゃない。疑わしい。
「そうだね。つけないことはない。でも、つかないよ。少なくとも、こういう大事な時には」
「へー、ふーん、そう……」
諦めたように肩をすくめるグレイに、怒りが募る。
どうしてそこまで形を整えるの? どうしてもっと近くに来てくれないの? どうして、どうして、どうして……。
意味のない問いが頭をぐるぐるとまわる。グレイにあたってしまいたかったけど、それは違うとまだ残ってるまともな頭が囁く。
でもやっぱり何かにすがりたくて、グレイに近づいた。本を抱き込んだまま、グレイの胸に頭をつける。
「アリス?」
「ねぇ、後でもっと話してくれる?」
「……いいよ。何を話そうか」
「私の質問に答えてくれる?」
「うん。でも、時間は有限だから、あまり無駄にしてはいけないよ」
「今、私の愚痴に付き合ってくれる?」
「大丈夫、ここには私しかいないよ。ネネが迎えに来るかもしれないけど、あの子は空気読んでくれるから問題ないよ。……好きなだけ泣きわめいていいんだよ?」
その言葉で、もう堪えきれなかった。次々涙が溢れる。本を濡らしてしまわないか不安だったけれど、どうしても手放せなかった。
「私っ、姉さん殺しちゃって、二回も!! なのに忘れて笑ってバカみたい! 私が死んじゃえっばよかったのよ。だって、姉さんのがっ、ひとにすかれてる! アズだって、とかげさんだってっ、私、疫病神どころじゃないじゃん、死神じゃん、これじゃあ!!」
グレイの言葉通り泣きわめく私を、グレイはそっと抱きしめて背中を撫でてくれた。
「二回目の咎は私たちにあるよ。役付には、ゲームがスムーズに進むように動かす役割がある。それを怠ってしまったんだ。すまないね。それに一回目で手を出してしまったのは君かもしれないが、殺意があったわけじゃない。不注意だ。仕方ないと言い切れはしないけど、君は忘れなくては心を守れないほどだったんだ。十分傷ついた。十分自分で責めたんじゃないか? さらに思いつめてはいけないよ。ビルの事はね、正直君のために今死にかけているわけじゃない。君の姉を守れなかった罪悪感から、今君を守ろうとしているだけだ。だから、彼の事を君が重荷に思う必要はないと思うよ」
さっきと同じ、感情を抑えた声だった。でも、私の背中を撫でてくれる手は温かい。優しい。落ち着く。
でも、グレイの言葉は逆に私を傷つけた。
これは言わせてるだけだ。
一回目だって私がやったことだと重々承知している。二回目だって、私が一回目に姉さんを殺さなければ、この世界に異様に執着しなかったかもしれない。帰ることを恐れたりしなかったはずだ。アズの事が好きだったとして、それでも、嘘をついて、誤魔化して、逃げることなんてしなかったはずだ。
だって姉さんは強くてかっこいい、あこがれの人だったから。
だから姉さんがそんな悪い子になるはずがない。
そこまで帰るのを嫌がったのは、私に殺されたという事実があったからだ。私が姉さんを殺してしまったからだ。
トカゲさんだってそう。今危ない原因が、前回のアリスにあると言うのなら、さらにその原因は私のせいだ。
わかってる。全部わかってる。でも、今の私には慰めでも同情でも、嘘でもなんでもいいから、すがれる何かが欲しかった。味方が欲しかった。
無理やり付き合わせて、この言葉を吐かざるを得なかったグレイには申し訳ないが、もう無理だ。私はもう、一人じゃ立ってられない。
この本は、とても重い。
この責任は、とても重い。
今だけでもいいから、思い切り甘やかしてほしい。そしたら頑張って立つから、今だけ、今だけは……。
本当にごめんなさい。そう思いながら私は、グレイの胸を借りて喉が裂けそうなほどに泣き喚いた。
「彼女の願いは叶ったね。この世界に残ると言う願いがね。……もちろん、こんな形ではなかっただろうが」
泣き疲れて、声がどんどん小さくなってきたころを見計らい、グレイがそっと声をかけてきた。
姉さんの願い。元の世界に帰りたくない、アズと一緒にいたい。……叶ってる? 確かに帰ってないけれど、アズと一緒だったか? アズにみとられたわけでもないし……あれ?
ズビズビと鼻を啜って、グレイの腕の中から抜け出す。顔を上げると辛そうな表情のグレイと目が合った。
ついでに視界にぐしゃぐしゃになったグレイの服が映るけど、うん、申し訳ない……。
「あのさ、私、一回姉さんと会ったのよ。アズのゲームで。……どうなってるの?」
グレイの胸元から目をそらしつつ、気になっていたことを質問する。
「あぁ、それか……アズールの最後に言った言葉覚えてるかい? 最後の我がまま」
確か、アリスを生かそうと思う、みたいな……生かす? どうやって。アレは完全に、死んでた……。
「私たち……正確に言うと私は少し微妙な所なんだけれど、アズールに関しての記憶がなかったのは、知ってるね? 役付としての情報は持っていたし、ゲームにかかわる役付たちはある程度の記憶を持っていたとは思うけれど」
アズのゲームで聞き込みをした時に、アズの名前を誰も知らなかった。少しよくわかんないけど、徐々に記憶がなくなった、みたいなことも言ってた気がする。
あぁ、そうだ。アズはあの時生贄だなんだっていってた。それに、名前を取り戻したときにかなり取り乱して……
「アズールはあの時、存在ごと、名前を前回のアリスに捧げていた。生贄だね。それで一応存在をこの世界に留めることができた。……少し違うけれど、幽霊、というのがわかりやすいかな?」
幽霊? それは、いいのかな? だって、誰にも見られないじゃない。あんなとこ、普通には入れない。誰か会いに行っていた? でも、アズは少なくとも行ってない。
そんなの、寂しい、悲しすぎるじゃん。
ああ、だからかな? もういいって、言ったの。姉さん、自分から名前を返したみたいないい方だったし。
でも、アズがゲームにしたの、どうしてかな? どうしても手放せなかった姉さん、なんでしょ? なら、どうして?
「アリスが願ったんだと思うよ。アリスを生かす元は、アズールだから、根っこの方でつながっていたのだと思う。ゲームの題材は、おそらくアリスの思いが流れ込んだ結果だろうね。……もしくは……」
次の言葉を言う前に、グレイは私の方を見た。
意味ありげに、伺うように、少し眉を寄せて。
何? なにか?
「限界を、感じたんじゃないかな? 他人の犠牲になり続けることは、両者ともに傷つけると、私は思うよ……?」
歯切れ悪く言われたのを、飲み込むのに少し時間がかかった。
あぁ、私のこと言ってるのね? 確かに、いつか壊れるよ、そんな関係。
でもさ、あんたもそれやろうとしてるんだからね? そこわかってんのかしら? 殺した罪、背負うなら、一生犠牲になるのとあまり変わらないと思うのよ?
「うぅん、だから、その……ゲームが終わってしまったなら、もう……」
今度の言葉はあっさりと飲み込める。あぁ、そう、二回じゃなくて三回も殺しちゃったのね? 姉さんの事、また殺しちゃってたのね?
自分のこと殺すようなコト、私に頼んだ姉さんは、どんな気持ちだったかしら? 私だとわかって、頼んだの? それとも、アズを救うために死んでもいいと思って名前を返したのかしら? 私の事はどうでもよくて?
私を気にしても、しなくても、自分で死ぬってわかってて返したのなら、やっぱり姉さんはかっこいい。強くて優しくて、自分より他人を思いやれる素敵な人だ。
……でもアズも諦め悪かったような。
「そうよ、アズ、なんかやらかしたって言ってたんだけど、あなた知ってる?」
羽をもいで、世界に反抗する手段を無理やり作ったみたいなこと言ってた気がしたんだけど。
「なにかやらかした? 何を……?」
「知らないなら、いいわ。たぶん姉さん関係だと思うけど」
グレイは全く心当たりがないのか、首をかしげて考え込んでいる。普通に考えるよりも険しいように見える表情はなんでだろう。
「ねぇ、この記憶見た時、あなたがいないときの記憶もあったんだけど、《帽子屋》はすべてを分かってるわけじゃないの?」
「あぁ、ゲーム終わりに他人の記憶も一緒にまとめるんだ。ただ、ゲームの最中にすべてを分かっていたら、私たちの行動も制限されるかもしれないからね。ゲームの最中には他の記憶はわからないんだ。それにいくらすべてを記憶すると言ってもね、完全に、些細なことまでまとめるのは難しいよ。特に他人のものはね。その記憶も、時々おおざっぱなまとめになってただろう? ……だから今も、アズールが何をしたかまるで見当もつかない。すまない」
「別に謝らなくても大丈夫よ。だってアズの行動だもの。アズの好きにしたらいいと思うわ」
そう、ずっとあの森に縛られて、何もできないも同然だったから、好きにしたらいいと思う。
……そうだ、私も少しくらい……。
「じゃあ、私も動かないと」
「え?」
「アズが反撃するって言ってたんだもの。だから私もやり返さなくちゃ」
本を一回力をこめて抱きしめる。
姉さん、敵討ちはできないけれど、少しくらい噛みついてやるわ。
「まずはトカゲさんを取り返さなくちゃ、ね?」




