望み叶える彼女の話
私がどこで何していようと、アリスの記憶は進んでいく。場所を変え、時間を変え、人を変え、どんどんゲームは進んでいった。
時々私を思い出しているのか、暗い表情をすることもあったけど、アリス……姉さんはこの世界になじんでいるようだった。
明るく笑って、元気に話して、いろんな人と知り合って……。
特にアズと一緒にいるときは幸せそうだった。姉さんは綺麗なものが好きだったから、あの幻想的な森が気にいったんだろう。そこの主であるアズも、とても美しい羽を持っている。気にいらないはずがない。
きっかけはそんな感じだとは思うけれど、アズは普通にカッコいい人だった。内面イケメンだ。アリスは綺麗なもの目的で通っているうちに、アズの内面にも魅かれたらしい。自覚をしているのかしていないのか、アズを見る目は恋する乙女のものになっていく。
アズの森ではチェシャ猫やトカゲさんがよく一緒にいた。三人の中ではアズが一番年上で、兄かお父さんのような立ち位置に見える。アリスは他二人にからかわれながらも、アズとその二人と一緒に過ごす時も好きみたいだった。
アリスはどんどん悩む回数が減り、どんどん笑顔が増えて行った。
長い間、私の事で悩まなくてよかった。このままアズには姉さんを笑顔にし続けてほしい。私を忘れるくらい、幸せにしてほしい。
そう思ったが、ダメだった。幸せにしすぎたみたい。
ゲームの進行具合的には、半分くらい。ある時からアリスはゲームを進めなくなった。それは進められないのもあったし、クリアできないこともあったけど、積極的ではないのは誰の目にも明らかになっている。
まだ見ぬ役付がいるのに、アリスは探そうともしないで、アズの森へよく遊びに行っている。そう噂になるほどだった。
持っているカードはアズとビル、ジャック、グレイ、ミカ、ネネ、ラビ。エースはあのニセモノの図案だ。
ディーとダムにゲームはしかけられているが、それはアリスが見抜けないだけ。ずっとみんなそう思っていた。でもアリスが徐々に、あからさまに二人を避け始めたことにより、皆がアリスに怪訝な目を向けていく。
それの理由はチェシャ猫が訊ねて分かったことだ。
「ねぇ、あんた最近あいつら避けてない?」
「誰の事?」
「双子。ディーとダム」
「……」
「もしかしてあんた、ゲームされてるってわかってる? わかってたら、クリアできるもんね。やんないだけ?」
「……そんなの、知らないわ。それは本当よ!」
「それは? じゃあ、他はなんなの?」
「……」
「なんで答えないわけ?」
「私……」
「なぁに?」
「私、この世界にいたいのよ! 帰りたくない!!」
そう叫んだアリスは、言い切った後にやってしまったと顔を青くする。
チェシャ猫の方も顔を青くしてアリスを見ていた。
「な、バカじゃないの!? ゲームしないならあんたこの世界にいられないよ!? わかってる?」
「でも、ゲーム終わったら、私、どうすればいいの? ゲームしないならここにいられないじゃない。じゃあ終わったら、帰らなきゃいけないじゃない!」
「しょうがないじゃん! だってあんた、この世界の人間じゃないんだから……」
「嫌! 帰る場所なんてない! この世界にいさせてよぉ!!」
アリスの悲痛な叫びがこだまする。
帰る場所なんてない。その言葉は私の心をずたずたに引き裂いた。
私のせいだ。私が姉さん殺しちゃったから、姉さんの帰る場所がなくなった。私のせいだ。
また大量にあふれてくる涙を払って、私は前回のアリスの記憶をしっかりと見る。
これから、ここから、アリスの最後がきっと始めるから。前回のゲームの行方を、私はちゃんと見つめなくちゃいけない。じゃなきゃ償えないでしょう。




