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迷夢の国のアリス  作者: 影宮ルキ
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キオクのカケラ④

 カケラのやつにしては長いですが、三人分なので……。

 ④~⑥にしようかと思ったのですが、とりあえず気絶一回分として④となっております。

 まずは、一つ目。

 少女が一人ぼっちでいる。周りに人はいるけれど、誰も彼女が見えていないかのようだった。

 どうして、誰も関わらないの?

 ――――あなたが関わらせないのじゃない。

 そうだっけ?

 あぁ、そうだ。確かそうだった。あの人を忘れられなくて、周りを傷つけて、結局一人になったんだ。

 少女が耳をふさいで、心の底から叫び声をあげた。

「うるさい私に近づくな! 私があの人になれば、そうすればあの人は生きていられるんだ! 私が! 私が代わりに死んだことにすれば……!!」

 そう、少女はそう言う選択をした。みんなに愛されていた姉を、自分の代わりに生かそうと。

 姉の真似をして話し、姉の真似をして表情を作り、姉の真似をして生活を送った。それを周りは痛々しい目で見て、少女に止めるように諭した。

 それほど、本当に、愚かな選択。

 ――――そうよ。忘れないでね。だって、あなたがそれを望んだの。

 皆が忘れるように言ってくるから、とても腹が立ったの。自分も、許せなかった。だって守れなかったから。守れないから、皆私に忘れるように言うんだもの。

 お前じゃ役不足、そう言われているようで腹が立った。でも私はそれしか姉さんを生かせる道がなくて……。

 だから私は皆を遠ざけた。そんなこと言う皆は嫌い。大嫌い。

 でも一番嫌いなのは私。

 私があんなことしなければ、そうすれば……。

 ――――忘れちゃえばよかったのに。

 だめ。いや。でも、覚えているのもつらい。

 ――――じゃあ、手放しちゃう?

 無理。

 ――――何をそんなに大事に持っているの?

 ……なんだっけ?

 ――――じゃあ、思い出しに行きましょうか?


 二つ目。

 少女の生活が周りとずれ始める。

 学校で。

「ね、今日学校帰りにクレープ屋さんいかない?」

「いいわね。行きたいわ」

「……あれ? なんか、話し方変わった?」

「そうかしら?」

「……」

 家で。

「どうして姉さんみたいな話し方をするんだ!」

「なんの事?」

「それだ! 声も、いつものお前と違うだろう!?」

「やめてよ、お父さん。私はいつも通りだわ」

「いつも通り? それは姉さんのいつも通りだ! お前じゃない!」

「何を言ってるの? 私は私。変なお父さん」

「……っ!」

 自分の部屋でさえ。

「ねぇ、姉さん、私今日も学校楽しかったわ。ちゃんと、学校楽しんでるの。姉さん、いつも学校の事、楽しそうに話してたものね。私、ちゃんとやれてるわ。……ちゃんと、やれてるでしょう? 姉さんの、未来は、私が守るから、だからね……、だからなんなんでしょうね? ごめんなさい、ごめんなさい姉さん……」

 ――――そんなこと望んでないわ。

 だろうね。

 ――――知ってるじゃない。

 でも、それでも……。

 ――――私はあなたの幸せを望んでいたの。

 そう、姉さんはいつも望んでくれてた。

 ――――通じていたの?

 受け取れてなかった。

 ――――今はどう?

 受け取れない、受け取りたくない、受け取りたい。

 ――――困ったものね。

 ……姉さん?

 ――――違うわ。私は、何か、知ってるでしょう?

 …………うん、でも、姉さんがいい。姉さんにいてほしい。

 ――――ダメよ。でも、まだ少しだけ、私が一緒にいてあげる。

 うん、うん……ありがとう。それでもいいや。

 ――――でもこれもあなたの望むこと。わかってるでしょう? 私、あなたに従うしかないの。最終的にはね?

 うん、わかってる。

 私のせいで死んでしまったのに、その上こんなことに巻き込んで、本当にごめんなさい。

 ――――カワイソウ。でも、ちゃんと見て。忘れないんでしょう? 逃げ出せないんでしょう? ならちゃんと、せめて見つめましょう?


 三つ目。

「お姉ちゃんのバカ! どうしてわかってくれないの!?」

 理由はなんだったか、忘れてしまうくらいに些細な喧嘩。ほんのちょっと、姉の言葉が気に食わなかった。ただそれだけの事だったか。

 でも少女は本気で怒って、姉に向かって叫び散らした。

「あたしはもう子供じゃないの! そんなに構わないでよ!!」

「なによ! いいじゃない。だってお姉ちゃんなんだもの!」

「嫌! 放っておいて!!」

「待って!!」

「触んないで!! ……あっ!?」

「あっ、きゃぁぁああああああ!?」

 姉の言葉が耳障りで、逃げようとした少女の腕を姉が掴もうとする。しかし、喧嘩の余韻と、急なことへの対応で、普通よりも力をこめて乱雑に姉の腕をはらってしまった。

 突き飛ばされたかのような形になった、姉は、後ろに、倒れ込む。

 とある建物の四階でのことだった。帰ろうとして、外階段を使っていたところだった。錆びついた柵が壊れていて、修理がまだだった。

 運が悪かった。場所が悪かった。タイミングが悪かった。

 姉の体は柵にぶつかることなく、四階の高さにある外階段から、宙へ倒れて行ってしまう。

 少女が手を伸すも、もちろん届かず。

 悲鳴、衝突音、沈黙。

 恐る恐る少女は階段から身を乗り出し、下を覗き見た。

 赤。アカあか赤。

 ぐちゃりとつぶれたからだが、まっかにそまって、ありえないほうこうにまがって、それで……。

「いやぁぁっぁぁぁあああぁぁぁぁあっぁあ!!??」

 喉が裂け、血が出るほどに、少女は叫んだ。叫んで叫んで叫んで、少女は気を失った。

 そこでぶつりと映像が途切れる。

 ……あぁ、完全に思い出した。

 ――――どう? ご感想は?

 サイアク。

 ――――でしょうね。これがあなたが逃げた理由。あなたが記憶を忘れてしまった理由。

 お姉ちゃん……。

 私、あたしが殺した。殺しちゃった。

 殺しちゃったから、代わりに私が死ねばよかったんだって。あたしが、だって、悪いんだから、なら、あたしがいなければ……!

 ――――違うわよ。それは、違うのよ。

 絶対恨んでる。お姉ちゃんだって、あたしがいなきゃ死ぬはずなかったって!

 ――――そんなこと思うような人だったかしら?

 違う、お姉ちゃんは優しいから。でも、そうなんだもん。あたしがいなければぁ……!!

 ――――あぁ、もう、本当お馬鹿さん。そう言ってても、お姉ちゃんに恨まれたら生きてけないくせに。

 ……だって好きだったのよ。大好きだったの。嫌われたくない。一緒にいたかった。

 だからあたしがお姉ちゃんになったの。だって、そしたらあたしはお姉ちゃんと一緒にいられる。お姉ちゃんも死ななくて済む。

 ――――そんなはずないの、わかってるのに。

 知ってるよ! わかってるよ!! でもそれくらいしか考えられなかったんだよ!!

 ごめん、ごめんおねえちゃん。許して、許さないで、罰していいから、傍にいて。許して。見放さないで。ごめんなさい。ごめんなさい。

 ――――死んじゃったら話せない。だから想像するしかない。でしょ?

 そう、そう……。

 ――――ね、今のあなたは笑えてたわ。少し前までね?

 笑っちゃいけなかった。おねえちゃんみたいに笑うのは仕方ないけど、あたしが笑うのはいけなかった。

 ごめんなさい。

 ――――責めてるわけじゃないのよ。お姉ちゃんは、よく、あなたの笑顔をほめてたわ。

 可愛いって、言ってくれた。

 ――――そうよ。嘘物の笑いじゃだめよ? 本当の、笑顔。

 ……。

 ――――最初は装っていたわね。でも、そのうち馴染んできてたわ。偽物がはがれて来て、ちょっとずつ、本当の笑顔が見れたわね。それをしてくれたのは誰かしら?

 ……楽しかった。香りのいい紅茶も、美味しいお菓子も、どう話しても気にしない皆も。

 ――――じゃあ、皆が大事ね。お姉ちゃんだけじゃなく、新しい大事を見つけたわね?

 でも、やだ。お姉ちゃんの方が、お姉ちゃんが……!

 ――――そうやってこだわるの、お姉ちゃんは喜ぶのかしら?

 わかんないけど、忘れられない。あたしが許せない。

 ――――でも、最近まで忘れてた。だから、そうね、ここにいるくらいは許してあげたら?

 ごめんなさいごめんなさい。

 ――――言い方を変えましょう。お姉ちゃんのためにも、他の大事を手放しちゃだめよ。全部、持っていきましょう?

 全部……?

 ――――どれも手放しちゃだめよ。そんなのお姉ちゃんが望まないわ。

 お姉ちゃんが。

 ――――そうよ。ねぇ、ほら、聞いてちょうだいな。少なくとも今あなたの近くに三人いたわね。助けるって言ったんでしょう? 力になるって、約束したんでしょう?

 ……うん、うん、そうだね。もう、約束しちゃった。

 ――――じゃあ破っちゃだめよ。お姉ちゃん、ウソツキ嫌いだったもの。だから、もう少し、頑張って?

 わかった。

 ――――こんな理由づけしないと動けない臆病さん。ほら、ゴールまで、あと半分でしょ?

 うん、わかった。頑張る。ね?

 ――――ね、そう、頑張りましょうね。それで全部記憶を取り戻したら――――――

 取り戻したら、ちゃんと姉さんに会いに行こう。帰ろう。現実を見て、姉さんに、償わないと。

 ――――――たぶん、そうじゃないの、わかっているのにね。

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