カードについて
「そういえば」
アリスはポケットからカードを取り出した。
「自己紹介のインパクトがすごすぎて忘れかけてたけど、カード」
「見つけたから開ける、というのは無理だよ?」
「どうして?」
「……白兎はちゃんと説明しなかったのかい?」
呆れた様子のグレイ。
「ゲームして認めさせてカード開けって」
「……それはある意味そうなんだけれど……」
空を仰ぐ。
「え、違うの?」
「どう説明したらいいか……」
「俺ら、あんたにカードをゼッタイに開けないってこともできるんだぜ?」
ミカヅキはお菓子から顔をあげ、会話に参戦する。
「え……」
「でも私たちはそんな信念を持っているわけでもないからね。君の働き次第だよ、と言っておこうか」
「俺らはそうだけどな。他の奴らは知らねえ。だけど時々いるみたいだぜ? そういう信念持ってるやつ?」
「手ごわい相手がいるのもゲームの醍醐味といれるかもしれないけどね」
「えー、そうかぁ?」
「……ミカに同意。さらっとしてほしい……」
「だよなぁ。でも、さらっとしすぎも手ごたえなさすぎでつまんねぇけどな」
「いや、手ごたえなんていらない」
「そうかぁ? ゲームは楽しんで何ぼだろ?」
「矛盾してるわよ? それに、私はさっさと帰りたいのよ……」
「アリスは帰りたいのかい?」
「当たり前じゃない」
「こっちに来たのに?」
「それは手違いというかなんというか……」
初めは無理やり落とされ、次は殴りたいと思う様な事をされ……。
「まったく私の意思ではないわ」
「ふむ、そうか……」
「ふーん?」
「まぁ、いいだろう。では、白兎の尻拭いでもしてやるとするか」
「まぁったく、これじゃあ案内人失格じゃねぇ?」
「いやいや、今回のアリスはなかなか手ごわそうだ。時間がなかったんだろう」
「そうかぁ? ……そうかもな……」
そこで話を完結しないでもらえない?
「くくっ、アリスが寂しそうな顔をしてこっちを見ているよ、ミカ?」
「ん? 寂しいのか?」
「違うわよ」
「なんだよ、遠慮すんなよ」
「してないわよ」
「ほら、こっちのタルトもおいしいぞ」
そういうミカヅキの横にはお皿の山が。
……ひぃふぅみぃ、じゅう、じゅうに、じゅうよ……え?
「……いつもそんなに食べるの?」
「ん? 普通だろ?」
「……敵」
食べても太らないのか? 出るとこ出てて出ないとこはキュッとか……敵!! こっちはダイエットしても痩せないって言うのに!!
そう思っていたら、どうやら睨み付けていたらしく……
「え!? 俺なんかしたか!?」
ミカがおろおろとした。
「くくくっ」
「え、グレイー……!!」
「はいはい。悪かったね。アリスも」
「まったくよ」
誰が寂しがってるだ、誰が!
「???」
きょとん、としているミカヅキ。
……天然? 純粋? おい、可愛いじゃないか。
「さて、アリス。ゲームの話をしようか」
「やっとか……」
「悪かったね。……さっきも言ったとおり、ゲームを仕掛けるのは個人の自由だ。だが、最終的にはやることになるだろうがね」
「え、矛盾……」
「アリスに説得されたらやらないわけにはいかない、この世界のルールだ」
「……?」
「ま、とにかく口説き落とせってこと」
「へー」
「そして、この世界の住人にもルールがあってね、これを破ると死ぬより辛いことが待っている、という話だ」
「ふーん?」
「住人のルールは、セカイのルールと君だ、アリス」
「ハ? 私?」
「カードを開ける、ということはそういうことになる」
「……え、よくわかんないんだけど」
「カードを開ける、って言うのは、あんたに命丸ごと預けるってなコトなんだ」
「ハ? え、ちょ……ハ?」
「常識が違うからね、説明しづらいが、そのうちわかる時が来るだろう」
「えー、うん、あー、そう……?」
「そうだぜ。たぶん」
「……」
「私たちのカード、一応教えておこうか?」
「そ、うね、お願いするわ。何に使えるか知らないけど」
「……私がスペードの四、ミカがダイヤの九、ネネがクラブの五だ。……まぁ、使えないから教えるのだけれど?」
「じゃぁ、聞く意味あったの……?」
「ある、一応ね」
「自分のカードがどうにかなるってことは、二度と、そいつと会えないってことだからな」
「え?」
「存在が極端に薄くなる、もしくは消える、そのような感じだ」
「……死ぬの?」
「いや、見えなくなる。簡単に言えば、透明人間だ。だが、いなくなっても気づかれない。自分は本当にここにいるのか、気が狂うほどの孤独感が隣に居座るのだろうな」
「……コワッ」
「だからすべてのカードに言えることだが、折ったり破ったりしないでおくれよ?」
「く、くれぐれも注意するわ!!」
「ちょうどいいケースどっかにあったかなー……見つけてくっから入れとけよ」
ミカヅキはそう言って席を立つ。
「あ、ありがとう」
「いいってことよ。どうせ俺らのためにもなるし」
アリスの頭を一撫でし、邸の方へ消えて行った。
「……ミカってかっこいいわよね……」
「惚れるなよ? 彼女はあれで乙女だからな」
「惚れないわよ」
乙女……。
「それは何より……くくくっ」
「笑いすぎじゃないかしら?」
「ふふっ、すまないね。最近楽しみに飢えていたからね。久しぶりの浮かれ気分を味わいすぎたようだ」
「……」
「難しいことは抜きにして、カードは私たちだと思ってくれ。開けることは君に私たちをあげることになるだろう。だからこそ、開けるまでが大変だ」
「そうね、理由を聞けばなんとなくわかるわ」
「あぁ、そういうことだ。アリス、君は値踏みされるだろう。このアリスはだめだと、いや、値踏みすらせずに嫌だと姿を隠すものもいるだろう。命なんて預けられるかと、手に入れられる前に君を害そうとするやつもいるかもしれない」
「……」
「だからこそ、早くカードを、いや、それに限らず味方を見つけるといい。役付であろうとなかろうと、敵も味方もごちゃまぜだ」
「あなたはどうなの? 私に価値はあった?」
「どうだろうね? まだわからない。ただ、見込みアリ、だ。楽しいやつは大歓迎。だが、それだけじゃ私には足りない。もっと私をその気にさせておくれ」
「その気って……」
「とりあえず、一応は君の味方になってあげよう。でも残念ながら、私は楽しいことが好きでね。君と敵を天秤にかけるだろう。そして楽しい方を取るだろう。君が私に楽しさ、という報酬をくれるのであれば、その分は働こう?」
「……今まで笑ってたけど、その分はいくらくらいになるのかしら?」
「友好関係を築けるくらい、かな?」
「なによそれ……」
「とにかく、困ったことがあればここにおいで。招かれない客、でない限りは歓迎するよ」
「……曖昧ね。どうとでもとれるような不安定な言葉。せめていつでも歓迎、とは言えないの?」
「言っただろう? 私は楽しいことが好きなんだ。君が厄介事しか生まないのであれば、門は閉めたいね。私も自分が可愛い」
「……あなたって最低ね。目の前でいうなんて、最高だわ」
「ふふっ、矛盾をどうもありがとう。この世界は、アリス、君に牙をむくのか、微笑を向けるのか、楽しみだね」
「今現在進行形でむかれてる気がするのは私だけかしら?」
「そうかな? 私は微笑んでいるつもりだけれど?」
「顔だけ、ね? お腹の中は真っ黒黒じゃない?」
「はっきり言ってくれるね。素敵な悪口をどうも。だが、どこの世界だってそんなものだろうね」
「……悲しいことに」
「君と意見が一致して嬉しいよ。……きりもいいところだ。ここらでお茶会は解散かな?」
いつの間にかミカの姿が見える。手にはきらりと光るものが……。
「あぁ、お得な情報一つだけ」
「?」
「私を落とせば、必ずミカが、ほとんどの確率でネネもついてくるよ」
「なるほどね。あなたを口説き落とせば、確かにお得ね」
「そうだね、まぁ、頑張っておくれよ?」