ひび割れ鏡
明けましておめでとうございます!
今年も不定期で頑張りますので、読んでいただけたら幸いです!! よろしくお願いします!!
息苦しさを感じて、いつの間にか息を止めていたことに気が付いた。
一度目を閉じて、息を吐く。そして、目を開いてグレイを見つめた。
「……私の事、認めたわけじゃあないわよね?」
「そうだね。正直、君を見て、君のカードになろうと思ったわけじゃない。ただ、“アリス”の下について動いたほうが効果的だと思ったからだ」
グレイは一瞬も迷わずにそう言い切った。その顔にはいつも張り付いている笑顔すらない。
「正直ね」
「……すまない。私もこれはどうかと思っている。それでも、引けない事情がある。わかってくれとは言わないし、言えない。……君にも利点はあると思うだが、どうだい? 取引と行こうじゃないか?」
後ろでミカの耳がピコピコ揺れる。不本意ですって、その表情からも読み取れる。
ミカも確か殺し屋とか言ってなかったかしら? こんな正直者でも大丈夫なの?
「……そうね、カードが手に入るなら私はラッキーかもね」
「あぁ、私が手に入れば、ミカもネネもついてくるからお得だよ」
「それで……」
「それで六枚。次は“白兎”が手に入る。その後が一番難問かもしれないけど、順調と言えば順調じゃないかな?」
……六枚? というか、その次でラビ? 半数……っていくつ?
「とにかく、どうする? ゲームをしないのなら、私は君を見放して、早く次の作戦を考えないといけないんだ」
気になることは目の前にあったのに、それを考える隙をもらえない。すぐさまもっと大事なものを出してきて、気になったものを取り上げられた。
「そう……聞いてもいい?」
今は情報を増やすことに費やそう。後で聞くのを忘れないように、今はグレイの策略の網をかいくぐらないといけない。
ちゃんと、認めてもらえないと意味がないはずよ。
「言えることなら」
グレイがカードをまとめて、端をそろえる。とんとん、とテーブルを叩く音が少し耳障りだった。
「何があったの?」
「……チェシャ猫が派手に立ち回っただろう? あれでばれてしまってね。私が今回、あの二人と引き合わせたことが……まぁ、焦った私が悪いんだけど」
あぁ、でも、侯爵夫人でしょ? 暴れなくてもどこかしらから報告行きそうなもんだけど、ちがうのかしら?
んー、なんか違和感。もともと、どうして焦ったの? 何があったの?
聞きたいことはたくさんありそうなんだけど、考えが纏まらない。言葉にならない。さて、困った。
「……あなた、何企んでんの?」
聞くに困って、ストレート。……私馬鹿だなーって感想しか出てこない。笑う。
「何、と言われても……」
さすがのグレイもこれには困った様子。
「うーん……そうね、あなたにとってどういう結末がハッピーエンドなの? 何が最終目的なのかしら?」
言葉にしたら、それが一番聞きたいことだったと感じる。
結局ここの人たちって何がしたいんだろう。なんでゲームなんてものがあるわけ? 私が呼ばれた理由は? どうして何か企んでるくせに、さっさと行動しないんだろう? 時期を図ってるの? だとしたらどういう時期を?
推理小説の謎解きみたいに、犯人と動機とか目的がわかれば、途中の謎な行動だって説明つくもの。だから、答えから知りたい。
「……」
私の言葉を聞いて、グレイは呆然と口を半開きにする。
あら、いつもの隙のない紳士面が残念なことね。
「……くくっ、君は、面白いことを言うね。私のハッピーエンド? アハハッ!!」
黙った後、ニヤッとするように口の端をあげた。その後、いつもの姿からは想像できないような大声で笑い始める。
ぎょっとした。少し、狂気じみていた。
ミカもネネも、驚いたのか目を見開いている。
「君、それは最終目的イコール、ハッピーエンドだと思ってるってことかい?」
後ろの二人や、目の前で引いている私にかまわず、グレイは笑い声の合間にそう聞いてきた。
「え、そうじゃ、ないの……?」
幸せのためじゃなかったら、何が楽しくて企み事なんてするの? 今よりもっといい状況にしようとか、そういう目的があるからじゃないの?
「ふふっ、ハッピーエンド! 面白いことを聞いた。本当に!!」
笑いすぎてにじんだ涙をぬぐいながら、グレイはいつも目深にかぶっているシルクハットに手をかける。
「ねぇ、君、私のお願い叶えてくれるかい? 私のハッピーエンド、叶えてくれるかい? 叶えてくれるなら、私は本当に君のカードになってもいいよ!」
ばっと帽子が脱ぎ去られる。
帽子の下には非常に整った顔があった。なめらかな肌、すっとした鼻筋、切れ長の瞳……パーツがすべて完璧な場所にある、って感じ。雰囲気が結構落ち着いてたから、三十代くらいかもって思ってたけど、まだ二十代前半でもいけそうなくらい若い。顔が若いと言うか、肌のハリ艶が若い。
でも惜しむのは、右目を覆う痛々しい火傷跡だ。その火傷のせいなのか、右目は夜明けを思わせる薔薇のような赤色、左目は日が沈んだ後の澄んだ青藍色のオッドアイになっている。
……夜明けの薔薇色? あぁ、この色はハートと同じ色だ。そういえば、あの人も片目隠してたような。なんでだろう。
「ふふふっ! 気になるかい? 母親につけられた傷だよ。なんでかは……君のカードになったら教えてあげよう?」
グレイが右目の引き攣れた跡を撫でる。
美しい人形のような、その顔を損なう傷痕。でも、それがあることによって、彼は人形ではなく人間に見える気がする。とても、悲しい気持ちもするけれど。
「母親……?」
「続きはゲームの後だ。のるか? のらないかい? 私のお願い、叶えてくれる?」
狂気じみた笑みは変わらずに、三日月のように唇を吊り上げたグレイが真正面から私を見つめる。




