約束破りは針千本
呆然としていると、ハンチングさんがドードーさんの拘束をどうにかした。
「あ、待ちなサーイ!」
「黙れ鳥頭!!」
「放っておきなさい」
「了解デース」
そのままハンチングさんは森の方に駆けていき、姿を消してしまう。地面では、ハンチングさんの血が点線を描いていた。
捕まるのはなんか嫌だし、あのままでも戦闘が収まるとは思えなかったけど、まだ聞きたいことがあったのに……。少し、なんで逃がしたの、と恨み言でも言いたくなる。
ネネは一瞬追いたそうにしたが、マリーさんの言葉を聞いて、仕方なさそうに鎖をしまった。どうやってしまったのかはわからないけど、鎖を少し振ったら巻き戻るように袖の中に入っていった。うん、謎。双子の鎌と同じように、ワンダーランドパワーなんだよね……。
「アリス、うちの猫が失礼をしましたわ」
マリーさんは申し訳なさそうに眉をひそめて、膝を折った。
「え、あの、いや! ネネ達が守ってくれましたし……」
と、いうか……うちの猫??
あぁ、なにから処理したらいいんだろう……!?
「アリス、俺達が会いに来たのはあの方、侯爵夫人だ」
「えっ!?」
ってことはやっぱ役付? てか、夫人? 夫人!? 既婚者!? まだ……頑張っても中学生以下に見えるわよ?
「うふふ……侯爵夫人と言っても、ただの役割。本当に夫人なわけではありませんわ。どちらかと言うと、女侯爵の方が近いかしら」
「あ、はい……」
またバレバレですね、すみません。
「三月ウサギ、わたくしに会いにいらしたと言っていたけれど……どういうことか説明願えるかしら? どうしてあんな諍いがあったのかも、ね?」
「承知いたしました」
おぉ、ミカがまともな口をきいている……!!
「では、アリスと一緒に我が邸に。他のものはお帰りなさい」
「ですが、夫人。我々はアリスの護衛です。離れるわけには……」
いまだに少しの寒気を漂わせているネネが、マリーさんを厳しい表情で見つめた。
「大丈夫デース! ミーの羽があればひとっ跳び! 猫なんか寄せ付けませーん!」
ドードーさんが羽をばっさばさ言わせながらアピールする。
え、あの、うん……? 空飛ぶのは人類の夢かもしれないけど……私は守ってくれる壁がある飛行機くらいでちょうどいいかな。怖そうだから遠慮したい。
てか、飛ぶ時どうしろって? あの足に掴まれたら、私の肩粉々になりそうよ? 絶対に嫌だからね。
「えぇっと、ドードー? さすがにそれは……」
マリーさんも困惑気味に首をかしげる。そうだよ、止めて。
「そうデスかー? でもミー強いデース! 護衛やれマース!!」
「まぁ、そうねぇ……。では、こうしましょう。双子、あなたたちは城へ帰り、アリスは私の邸にいると伝えなさい。護衛が二人で心もとないと言うのなら、アリスは私の邸に泊めますわ。そして明日の朝にエース殿に迎えに来てもらいましょう。二人でよいのなら、事情聴取後、きちんと送り届けさせますわ。あなたたち、急いで帰って上司に判断を仰ぎなさい。そして伝書鳩を。それなら話が早く済みますわ」
話をまとめてくれるのも、進めてくれるのもいいんだけど……私の意見は?
「あっはは! アリスはジューヨーサンコーニン? だから強制連行デース!!」
だめだ。また顔バレ(?)してる。ジューヨーサンコーニン? あ、重要参考人? え、なんか犯人みたいでいやなんだけど……。
甲高いドードーさんの笑い声が耳に触る。なんか、ちょっと、ギャルっぽくね? 違うか……?
違うな……。
「「承知。では失礼します」」
攻撃態勢は整えていたのに戦闘に参加できなかったからか、ディーとダムは少し不服そうだった。でも偉い人の命令には逆らえないのか、一礼して走り去っていく。
「むぅ……」
「ネネ、お前もいけ」
「アリス……よろ、しくぅ……」
あ、よかったいつものネネだ。
眠そうに細められた目と、ダルダルとした喋り方。とても安心する。
「バイバイ、アリス……。また、帽子屋やし、き……きて、ね……?」
「もちろん行くわよ!」
「ん……」
ネネも手を振って帰って行った。
「では参りましょう。わたくしの邸へ」
貴族街の一番城に近い、格が高いお屋敷の中。広い庭を持った、こじんまりとしたお屋敷がある。どうもマリーさんのお屋敷は、庭の方が広いらしい。
庭には花が咲き乱れ、蝶々がたくさん舞っている。幻想的な……あぁ、アズのゲームで行った、あの庭にとってもよく似ていた。あの子はどうしているのかな……?
クリーム色の外観を持った、かわいらしい邸は、中まで可愛らしかった。カントリーチック? と言う感じなのか、落ち着ける邸だ。
ハートと赤の存在主張が激しい、目がチカチカする城や、外壁に蔦がからまりまくってる、ホラーテイストな邸とは大違いだわ。
落ち着ける内装、優しい香りのハーブティー、かわいらしいマリーさん。こんな訊問ならアリ……って言いたいけど、もう、疲れた。口開くのも面倒かも……。
四角いテーブルに四人座る。私の隣にミカ。私の前にはドードーさん。ミカの前にマリーさんだ。
「さて、まずは兎にお聞きしましょうか。……なぜあなたが、アリスを連れて、ここにいらしたんですの? わたくしの管轄だと、知っていますわよね?」
あ、だめだ。ジャックみたいな迫力はないけど、この人も笑顔で威圧してくる人だ。
「それは……」
「帽子屋に何か入れ知恵でもされましたの? ともかく、介入はルール違反でしてよ」
「知ってます……」
「では、なぜ? ルール違反は厳罰でしてよ?」
「いえ、あの……」
「ただの約束破りじゃありませんの。針千本じゃすみませんわ。お分かり?」
「わかってます……」
「あら、ではどうして? それより、ルール違反をお認めになりますの?」
「いえ……」
「あらあら、何が言いたいんですの? わたくし、怒ってますのよ? 早く言ってくださらないと、堪忍袋が切れそうですわ」
彼らの会話を横目で見る。
笑顔で流れるように言ってくるから、口をはさむ隙さえない。一言はさめればいいほうだよ。ミカの耳もどんどんしょんぼり萎れていってるし……。
あぁ、でも、私が口はさめるようなものじゃないんだよね……。何も言われず、連れてこられたようなものだし……。これ変にフォローしない方がいいよなぁ。
ドードーさんは最初っから参加しない方向なのか、ずっとカップを持ってフーフーしてる。本当に冷ましてるのか、巻き込まれないように聞いてませんアピールしてるのかは謎。
一瞬、会話が途切れた。ここでミカが反論しようと口を開きかけた、が。
マリーさんがテーブルの上に身を乗り出して、ダメ押しに微笑む。
「ねぇ、早く話してくださいまし」
……話させてくれないの、あなたなんですけどね?




