双子、故に願うこと
双子の話が始まった。帽子屋邸の面々は、ゲームの後の話を聞いていたのか、何も口を挟まない。
「僕ら、親なんていないんだー」
「ディーとダムって言うのは、役職名で、僕らの名前じゃないんだ」
「だって名づけてくれる人なんていなかったし」
「“トゥイードル・ディー”と“トゥイードル・ダム”って言うのは、双子にだけ与えられる役職なんだけど」
「僕ら、親もいなかったしちょうどよかったんだ」
えっとー、思ったより話の内容が重いんですがそれは。
ミカの特製チョコケーキに手を伸ばすどころか、紅茶を飲むのにもためらうくらいの内容なんじゃないです!? 何でグレイたちは優雅に紅茶啜ってんのよ!? なんでそこだけ和気藹藹なの!?
いや、ディーとダムも普通にお菓子食べながら話してんだけどね!? 一般人の私にはちょっと難しいかなぁ……。
「役付になればそれなりの待遇があるけど」
「でも危険な仕事も割り振られたりするから」
「「普通の親は役付になんてしたくないんだよねー」」
……役付って本当に謎。役って、この場合は職業ってこと? でも双子が条件なら……生まれながらの役でもありそう……?
「役付になる前まで、僕らは貧民街にいたんだ」
「盗んだり、殺したり、日常茶飯事って感じ?」
「あー、そういえば犯罪街の近くで、初めてお姉さんと会ったんだっけ?」
「あそこも僕らの庭みたいなものだよー!」
なんというか、こんな小さい子供が……って感じ。そこまで歳は離れていないけど、なんだか、なぁー……。
役付になったのがいつだかわかんないけど、前回のアリスの時にはいたんだろうか。もしそうだったら、さらに子供の時の話だ。絶対にこれ、お茶と一緒にする話しじゃないと思うんだー。
「「まぁ、それはどうでもよくて」」
「いいのかよっ!!」
じゃあ今までの重苦しい話なんなの!? ただ苦い気分になっただけなんですかねぇ!?
「いやいや、まぁ、僕らそんな生活してたからさ」
「信用できるのなんて、僕らしかいなかったわけなんだ」
「だから僕ら、兄弟になろうとしたんだよ」
ねー、というように二人は笑い合った。私には理解できない。
……できないよ。できないから、その話はやめてほしい。やめて。ヤメテヤメテ……。
「兄弟がいないなんてだめだから、一つになろうとしたんだよ」
「兄弟がいなくなるなんて考えられないから、なりかわろうとしたんだよ」
「「だから僕ら、僕であって、兄弟なんだ」」
あーあー、聞コエナイ。
「でもやっぱり、僕は僕だったんだよね」
「もう自分でもどっちだかわかんないんだけどね」
「兄弟に似せたけど、分かってほしいんだ」
「僕が僕だってさ。我がままなんだけどね」
二人の話を聞いているうちに、目の前がかすんできた。おかしいな。カード、開いてないのに、くらくらしてきちゃった。
手が震えてる。ティーカップもってたら、確実にこぼしてる。ヤバい。
「「だからゲームは、僕らを見分けること、なんだ」」
「前のアリスは気が付かなかったけど」
「あのお姉さんは、ちょっと鈍感だったよね」
「優しくてよく気が付く、いいお姉さんだったけど」
「何かちょっと足らなかったよね」
双子がくすくす笑ってる。なぁに? アリスを嘲ってるの? 楽しそうね。私も笑ってたのかしら? 違うわ。泣いてたの。……泣いてたの? なんで? 誰に対して? どうして?
見つけてほしかったの。でも疲れたの? 双子は、待ってたの? 遊んでたから大丈夫なの? ずるいわ。私は、弱いわ……。
目の前が暗くなった。気を失った? わけじゃない。温かい、布の感触がまぶたの上にある。
「アリス、疲れたのかい?」
いつもニヤニヤしている声が、すっと耳元で囁く。あぁ、グレイの手だ。手袋越しの体温だ。
そうね、そうね。とても疲れたわ。なんでかしら。なんでだろう? なんで、なんで……? あぁ、私は……?
「何も考えなくていい。忘れてしまえばいい。ここは、君にとって夢のような場所なんだから」
「夢……?」
白兎に落とされた、不思議な国。そうだ、そんなの、現実にあるわけないじゃない。ここは夢だったわ。あまりにリアルで忘れてたの。
落ち着いた。大丈夫。もう何でもない。だって私はこの世界と関係ないんだもの。
「グレイ……」
「「お姉さん……?」」
グレイの手を外すと、手の主を振り返る前にディーとダムが目に入る。
「大丈夫?」
「僕らなんか変なこと言った?」
「ごめんねお姉さん」
「ごめんなさい……」
泣きそうな双子だけど、きっと理由はわかってない。わかってないで謝ってる。
謝らせてるのは、私なんだろうな……。
「大丈夫よ、ごめんなさいね」
……時々、切り離さないと、息ができなくなるのはなんでだろう。無いはずの記憶が? そんなゴミみたいなものが、私を許さないの?
あぁ、なんて面倒な。
「アリス」
背後に立ったグレイが、誰かの名前を呼ぶ。もう慣れきった、私の名前。
「……カードを開けてもらったらどうだい? どうせこの後、ゆっくりなんてできないだろう?」
「そう、ね」
「そうだねそうだね!」
「カード開けるよ!」
「「だからゆっくり休んでね!!」」
ディーとダムが空気を読んで、急いでこっちに寄って来てくれる。年下の子に気を遣わせて、本当に申し訳ない。
「じゃ、僕らのカード」
「ハートの六、開けるね」
やっぱり双子は一枚のカードだった。二人で、一枚。
カードを取り出して見せると、ディーとダムは一緒に、人差し指で軽くカードを叩いた。
絵柄は一度波打って、新しい絵柄に変わる。二人の身長ほどの大鎌を、刃を下にして交差させ、ディーとダムが背中合わせに立っている、可愛いミニキャラの絵柄だ。
「おやすみ」
「お姉さん」
このカード、可愛いなぁ。けど、あれ……? ミニキャラじゃないのも…………?
それを思いついたところで、私の視界は暗転した。




