涙に溺れる
短かったので本日二話目投稿します。
更新は不定期で、月に何回投稿できるかわかりませんが、ちょこちょこやって行こうと思います。お付き合いいただけたら幸いです。
そして相変わらずぐだぐだしていて申し訳ないですぅ……。
「ごめんなさい、私が弱いから、助けてほしいと手を伸ばしてしまった。アリスは助けてもらえなかったのに、自分は浅ましく助けを望んでしまった。そして自分のためにあなたを利用しようとしている。すみません、ごめんなさい。許してくれとは言えません。けれど、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……」
ラビが泣いている。いつもはぴんと立った耳も下を向いて、プルプル震えている。俯いているから余計に涙がどんどん下へ落ちた。
正直言って、頭がいっぱいいっぱい。
前回のアリスは殺された? アズが生かすって言ってんだから、あのアリスっぽい女の子は、本当にアリスだった? 利用するって何?
あぁ、でも、今はそれよりも……。
「ラビ、ラビ!」
軽く肩をつかんで揺さぶった。ラビは驚いたように顔をあげる。
「ごめん、正直意味わかんない。でも、すごく後悔してんのはわかったわ」
びしょ濡れの眼鏡を外してエプロン飾りで拭う。そして横によけておく。
エプロン飾りを外してそれで顔もぬぐってやった。
「ごめんね、急だったからハンカチ持ってくんの忘れちゃった。綺麗なはずだから許してね」
拭っても拭っても涙があふれて止まらない。飾り用のエプロンだから小さいのはわかるけど、すぐに使い物にならなそうな勢いだ。ハンカチ持ってきてても足らなそうだな。
あぁ、アリなら簡単に溺れそうなくらい涙が溢れてる。そんなに泣いたら目玉が溶けちゃいそうよ?
「あ、ありっ……」
「ゆっくり息して。すってー、はいてー」
過呼吸になりかけなのか、しゃくりあげるラビに深呼吸するよう促した。
涙でぐちゃぐちゃな顔はいつもより幼く感じる。兎だし、なんか守らなきゃって感じがする。美形だしね! いいね美形って! なんでも様になるっていうの? そんな感じよ!
「あのね、ルールとか私まだよくわかってないのよ。とりあえず、前回のアリスを見殺しにしてしまったのはわかったけど、ごめん、正直言って、新聞で殺人事件が報道されててもだから? って思っちゃうような人間なの、私」
これは薄情ってやつなのかしら。でもそんなもんじゃない? 普通。
私は前回のアリスを知らない。だからハァ? って感じ。けど、ラビのことは知ってる。アズも知ってる。ルールで言えてないのかもしれないけど、他の人もいたかもしれない。
だから私は彼らを通してアリスを見れる。きっと、子供らしい女の子だったんでしょう。好きなことには全力で、飽きっぽくて? 無邪気に元気だったのかしら。
「ねぇ、ラビ。アリスのことはなんて言っていいかわからないわ。だから、こう言うわね。それで私に謝ることはないわ。少なくとも私はゲームをやめるつもりなんてないもの。帰らなくちゃいけないからね。だからあなたは私を見殺しにすることもないでしょ?」
「でも、わたしは……」
少し舌足らずないい方が、本当に小さな子みたいで可愛い。
私、嫌いじゃないって言ったじゃない。愛着わいちゃってんのよ。言ってやりはしないけど、よくわからない言葉程度で揺らぐ愛着じゃないのよ? 元々マイナス出発なんだから。
「利用ってことが引っ掛かるかしら? そうね、引きずり込んだのが利用なら、確かに腹立つわ。けどね、アズはなんか吹っ切れたみたいだったわ。私のおかげね!」
ちょっとドヤ顔で言ってやる。こういう時にギャグが救ってくれればいい。
「ミカは最初は怖かったけど、今は大型犬みたいだし、可愛いわ。ネネも可愛いし、癒される。グレイはちょっと癖が強いけど、頼れそうな素敵な人よ? たぶんね? ジャックはムードメーカーみたいな感じで、楽しいわ。ちょっと疲れるときもあるけど、いいお兄さんだわ。エースはお母さんみたいで、でも怖い先生みたいな時もあるの。ハートも怖いけど、でも可愛いし、素敵な女性よ。ねあ、あとディーとダムね。元気よすぎて困ることもあるけど、懐かれて悪い気はしないわ」
鼻をぐずぐず言わせながらも、何がいいたいかわからずに首を傾げるラビ。クスッと笑って頭をポンポンと撫でた。
「私、こんなにたくさん面白い人たちにあったわ。あんたのおかげでね」
ラビが目を見開いた。涙の量は減ったけど、まだ少しぽろっと落ちたりしている。それに真っ赤な目が、いつも以上に赤い。こすったりもせずに泣いていたのに、それでも痛々しい。
後で冷やしてあげないと。あぁ、そういえば仕事で疲れてもいたんだっけ。ゆっくり休ませないと。ハートに休ませたいなら私がどうにかしろ的なこと言われたし、いいよね?
「ね、ラビ。私さ、最初は本当腹立ってたのよ。記憶もなくて不安だし、イライラしてたわ。なんか、なんだろ、生きてんのめんどくさいな、ってレベルで」
「それは……」
「うん、うん。ラビも知ってるでしょ? 死にたくないかもーとか言ったら怒ってたもんね? かもじゃないでしょ、みたいな?」
覚えています、というように小さく頷いた。口がへの字に曲がっているのは、あの時本当に怒ってたか呆れてたかしてたからだろう。
「本当に、もうどうでもよかったのよ。なんか、帰らなきゃ、って言うのはあるんだけど、もうどうだっていいって、思ってたの」
帰らなきゃ、帰らなきゃ、って、それも意外と疲れるのよね。漠然と、それしかないからそれにすがるけど、それってかなり不安定じゃない?
「だから、だからね、私、ここの世界に来れて幸せなのかもしれないわ。だって、そうじゃない? 生きてんのめんどくさいかな、から、ちょっと楽しいかも、になるなんて、素敵じゃない?」
きっと今の私はとっても笑顔だ。へんてこだけど、楽しい生活。まぁ、悪くないもの。
「あ、もちろんそれで目的が変わるわけじゃないのよ? 帰るのは当たり前だもの」
前回のアリスのような失敗はしない。もう一回そんな結末になっちゃったら、ラビは本当に壊れちゃいそうだもの。それは私のためにも、ラビたちのためにも絶対にダメ。ゲームは続けないと。
「だから、ねぇ、大丈夫よ」
ラビの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「よくわかんないけど、それでも、大丈夫よ。私、結構楽しいわ」
こわごわ、といった様子で私の背中に手が回った。回った途端、力が強くなる。
「アリス! アリス、ありがとうございます……私が血まみれだと、しっかりと理解してもそのままで、いてくださいますか……?」
「それは知らないわ。理解できていないから。でも、今の話を聞いた限りでは、私は何も思ってないわ。……あなたは私を殺すの?」
「……わかりません。少なくとも、今その可能性はないでしょう」
「じゃあ、私は気にしないわ。見殺しにしたんだろうが、直接手を下したんだろうが……いいえ、あなたが私を殺すとしても、それはそれでいいんじゃない? だからね、私はあなたを受け入れる」
「っ!!」
言ってもいいのかなって思った。理解できてないのに簡単に言ってしまっていいものか。それでもグルグル回りそうなこの話に終止符を打つために、正直な気持ちを言ってみた。
どうやらそれが鍵だったようで……。




