迷い
はっきり言って理解不能。今の状況が? ラビの言葉が? それともほかの何か?
全部よ全部!!
ラビは、今は自分の体を抱いて、縮こまってしまっている。肩が少し震えて、泣いてるみたい?
なんでだよ!! 私なんかした!?
「ごめんなさい、ごめんなさいアリス……私が、私は弱いから……」
「ちょ、ちょっとラビ!?」
「もうどうしたらよいかわからないのです。やはり私のしたことは間違いだった。でも他に方法なんて……!!」
どうしよう? 私の今のセリフだわ!!
とかツッコんでやりたいのは山々なんだけど、今はだめ。本気でラビはなんかに苦しんでる。
あぁ、もう本当どうしようどうしよう!? 気の利いた言葉なんてないわよ!!
「ラビ……?」
「謝って済む問題ではないですわかっています。けれど謝罪するしか私にできることなんてないのです。ごめんなさいごめんなさい」
「ラビ!!」
私より少しだけ高い位置に来たラビの顔を左右から勢いよくはさむ。
ぺちんっ
「っ」
垂れていた耳が一瞬ぴんっと伸びる。私と目を合わせるように固定した。
ずれちゃったメガネの奥で、泣く寸前だった瞳が驚きに見開かれている。
「ラビ、私はあんたが何に謝ってるか知らないし、わかんない!」
「はい、はいそうですよね……すべて私の自己まんぞ」
「そういうのはいいの!!」
ネガティブに落ちていくラビを阻止して、どうしてくれようかって考える暇もなさそうだからとにかく言葉を紡ぐ。
「謝ってる理由とか、気になるけど、でもいいの! 少なくとも今は無理そうだからいいわ! それで、何だっけ? 汚れてる? それについて、私はよくわからない。愛って何? それもわからないわ」
あれ? 元気づけようとしたつもりなんだけど、最後とか逆効果じゃない?
あぁ、やっぱり、ラビの顔が悲しそうに歪んだ。
「あー、えっと、わからないけど、でも、そうね、あんたのこと……好きではないけど嫌いでもないわ!!」
好きとは言えない。そりゃ、引きずりこまれたんだから。最初はもうぶっちぎれもいいとこよ。
でも今は、そこまで憎んでないし。こっちの世界はいい人ばっかりだし、楽しいことも多い。だから別に……。
だ、だからって好きなんてないんだからねっ!! ……けふんけふん。
「……優しいですね、アリスは」
絶対本気で思ってない。自虐の笑みでラビはそう呟いた。
「ねぇ、ラビ」
「なんですか」
「今ね、私ね、少しは楽しいわ。悪い気分じゃないの」
ねぇ、私フォローしてるわよね? 引きずり込んだのをわるいって思ってるなら、こういう対応が正解よね?
ねぇ、なのになんであんたは悲しそうになるばっかなの?
「アリス……」
そんな震える声で呼ばないで。
「何よ」
「憎んでくれていいんです」
「お断り」
最初は憎んだりもしたけど、今は全然なのよ。
「許さないでください」
「いやだ」
許してなるものかって思ってたけど、もう怒ってないわ。
「アリス……」
「何?」
「……助けてください」
絞り出すような声は絶望を含んでいて。
「教えて。助けたいから」
面倒事は嫌だけど、さっさと帰らないといけないのは変わらないけど、この世界に愛着だってあるんだから、助けてほしいって言われたら、助けたくなっちゃったのよ。
「この世界の人たちは、皆傷を持っています。そして狂うのです。狂っているのはこの世界そのものでしょうか」
薔薇園の東屋で、私はラビの告白を聞いた。
「最初は違いました。初代はただただ夢を見ているだけでよかったのです。でも今は狂った悪夢です。目的などなく進むから、迷ってしまった夢なのです」
ラビの話は抽象的過ぎてまったく理解できない。でも聞きたい。聞かないといけない。
「私は、自分が汚れていると感じます。アリスには、きっと重すぎる話です。私からは言えないルールです。いえ、言いたくないだけかもしれません」
どっちやねん。
「少しイラッとしましたか? ごめんなさい。疲れているみたいで。いつもよりも言葉がばらばらなのです。ごめんなさい」
「いいわよそんなのは。疲れてるのは丸わかりだし」
自分がどんだけすごい恰好なのかわかってないな。こいつ。夜真っ暗な場所で見たら幽霊と見間違えそうよ?
ちなみにバラ園は細かい光で煌いていて綺麗。謎の光。うん、なんの光だよ!!
「すみません」
「例の森の件? 終わったんじゃないの?」
「えぇ、終わりました。でも色々ありまして、しっかり終ったと思えたのは最近です。いえ、まだ終わってはいないのですが」
「どゆこと?」
「重い話です。ですから私は疲れてしまって、隠しきることができなかったのです。浅ましく、あなたに助けを求めてしまった」
話しが元に戻ってきた。
それはいいんだけど、なにがあ……ねぇ、やっぱりトカゲさんになんかあったりしたの? 大丈夫かしら。確かめにもいけないからどうしようもないけど。
グレイならなんか知ってるかな? 情報屋とか言ってなかったっけ?
「アリス、私は、この国を終わらせたいのです」
「え?」
そ、それって革命的な……?
「この悪夢を、ルールに縛られ、ゲームと称し、何人もの少女を食い物にしたこのふざけた夢を」
あ、そっち……。
いや、どっちにしろよくわかんないんだけど。
「最初の話は帽子屋がするでしょう。私ができるのは、ほんの少し、ルールで縛られていない範囲での、最近のお話です」
そうして私は、ラビの話を聞いた。前回のゲームの話。
そういえば、他の“アリス”の話を聞くのは初めてだったかもしれない。




