俺さんの覚悟
トカゲさん、見られたりしてないよね!?
「アリス? こんなところで何をしているんだ?」
エースお母さんの視線が怖い。般若です! 般若!! 後ろから黒いオーラが出てるのが見えるよ!?
「ちょ、ちょっと散歩に……」
「こんな朝早くから? こんなところまで?」
現在時刻、わかんないけど絶対九時までいってない!! 確かに早いな!!
め、目が泳いちゃうZE☆
「ア・リ・ス?」
一音一音わざわざ区切って名前を呼ぶ。一音ずつめっちゃ力がこもってます。重いよー(泣
「迷っちゃったのよ!! しょうがないでしょ!?」
必殺☆逆・ギ・レ!!
……最低か!!
「……」
無言の視線が刺さってきます。
「……はぁ、まぁ、いい。“アリス”に何を言っても無駄だろうからな」
? 名前を呼ばれるのとはニュアンスが違った気がするけど、何だろう?
「迷ったのなら城に戻ろう。いいな?」
「ええ。もちろんよ! さっ、行きましょう!!」
力を籠めすぎた気もしないではないが、気にしたら負け!
走ってエースの横を抜ける。
「? どうしたの?」
すぐに足音が聞こえなかったので振り返って確認すると、エースは私に背を向けていた。
「……なんでもない」
なんでもないって声じゃない、低ーい声で返事をして城に向かって歩き出す。
今度は私の横をエースが通った。
「……」
無言で置いて行かれないように一歩後ろを歩くけど……。
ちらり。
一回だけ後ろの森を振り返る。
……絶対に、なんでもない、って、感じじゃなかったわ。
ばれてないといいんだけど、と目を伏せて祈った。
少し前のエースの気配が冷たくて、少し怖く感じる。いい人なのに、お母さんなのに、なのになんで……
今はこんなに背筋がゾクゾクしてしまうんだろう。
-SIDEトカゲ-
あはっ、最悪!! バレタバレタバレタ!!
気配がしたから逃げたのに、逃げられない殺気が絡んできて、足がすくんだ! 怖い!! あいつ怖い!!
逃げられないから気配殺してうかがってた。見つからないって、見つかんなきゃいいなって思ってた。
けど最後に振り返ったあいつ! 目が合った!! 冷たい冷たいガラスの目!! 感情なんか元からないんだって言っても信じられるあの目!!
恐怖で凍りつくなんて、あの時もなかったのに!! なのに!!
……。
あ~ぁ~、俺さ~ん、死んじゃう~のかな~……。
今度こそって思ったのに。
ごめん、ごめんアズール、ごめん、×××。
俺さんはあんたの名前も憶えてない、言う資格もない。
でも、でもさ、俺さんは、助けたかったんだ、×××を。
ごめん、アズール。許してくれて、ありがとう。だから俺さんは、今度こそ。
あいつが来るのはいつだろう。それまで、できるだけあがくから。
だか~ら、待~っててね~、ア~リス~。
アズ~ルの~ために~も、俺さん~、がんばる~から~!!
音が聞こえる。死神の足音。
「よ~くきた~ね」
「……逃げないとは、お前も頭がいかれてるのか?」
「ど~だろ~。あの日~から、俺さん~は、キャラかわ~っちゃった~からね~」
「……そうか」
俺さん馬鹿だから、話し続かないや。
「死ぬ覚悟はできたのか?」
「ん~ん」
俺さん馬鹿だから、死ぬって怖いと思うよ。
「ではなぜ逃げない?」
「あ~なた~と、お話したかったからだよ、スペードの騎士さん、女王の狗」
俺さん馬鹿だから、キャラだって中途半端だ。
「ねぇ、交渉しない?」
「交渉?」
俺さん馬鹿だから……いい方法思いつかないんだ。
「いくら切ってもいいよ、いたぶってくれて構わない。だけどさ、命だけは奪わないでくれる?」
「……本気で言ってるのか?」
「うん。俺さんの体、引き裂く? 炙る? 腕をもいだり、足を落としたり、好きにしていいよ。玩具にしてくれ。トカゲだからね、生命力には少し自信があるよ。その代り、命だけはとらないでって、女王様に伝えて」
俺さん、すっごい馬鹿だからさ、それがどんだけ痛いのか、想像なんてつかないや。
俺さん……、本当は、怖いよ。痛いの嫌いなんだよ。怖くて怖くて、震えてて、視界がにじんでる。
でも、でもね、それでも譲れないものがあるんだ。
そういう覚悟なら、あるよ。
「言いたいことはそれだけか?」
黒い騎士様が腰の剣を抜き放って、頭上に掲げる。
怖くて身がすくんで、動けないんだ。だから、避けられないし、もともと無理なんだよ。カードの強さ的に。敵わない。最後には俺さんが死ぬ運命。
俺の覚悟は無駄だった? ホント、玩具になる気満々だったんだけど……スペードの騎士様には俺の言葉は届かなかったみたい。
「恨むよ、エース・スペード……」
ホント、俺さん馬鹿だから、またポカしちゃったよ。
ごめんね、アズール。×××。アリス。
黒い騎士様の剣が無情にも振り下ろされる。
-終-




