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迷夢の国のアリス  作者: 影宮ルキ
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ルール説明

「あなたをここに連れてきたのは、ゲームに参加していただくためですよ、アリス」

 唐突に言われた言葉。

「ゲームって、ふざけてるの?」

「いえ、そう言うわけではありません。……違いますから、その拳を下ろしていただけませんか? ね?」

 いつの間にか握って、脅すように持ち上げられていた拳をやんわり下ろさせる。

「返答しだいでは、あなたの顔に叩き込むこともやぶさかではないわ」

 下させない。力を込めてその場から動かさない。

「やぶさかじゃないって……」

「あら? よろこんで、の方がよろしかったかしら?」にっこり

「意味変わりませんよ、それ……」

 ラビの笑顔が引きつる。

「さっさと説明しなさい」

 さすがに動物虐待に思えてきたので下ろすことにする。

「さっきまで落ち込んでた人とは大違いですね……?」

「そう? そんな人いたかしら?」

「……」

「思考の切り替えって大事よね」

「……そうですね」

 耳と視線が泳いだ。

「ねぇ、その耳本物?」

「え?」

「地耳?」

「地毛みたいに言わないでくださいよ……ええ、本物です」

「ふぅん」

「疑っているんですか? でも触らせたりしませんよ? 引っ張られたら怖いですからね……」

「さすがにそんなことしないわよ。で、さっさと説明」

「はいはい。……あなたを連れてきた理由ですが、先ほども言いました通りゲームに参加していただくためです。そしてこのゲームはあなたがこちらの世界に来た以上、強制参加となります」

「強制参加……」

 面倒そうな響きだ。

「嫌そうな顔しないでください。これが唯一の、あなたが家に帰る手がかりですよ? 帰りたいのであれば、ですけれど」

「本当……? 帰りたいに決まってるけど……」

「今回のゲームのルールはあなたがすべてのカードを集めて元の世界に戻ること、です」

「今回? カード? ルール……?」

「えーと、まず、ここに十三枚のカードがあります。これをあなたに」

 カードの束を渡された。

 手のひらに収まるほどのカード。トランプくらいだろうか。(おそらく)裏面が白と黒のダイヤチェック。(あっちが裏ならこっちはおそらく)表面が黒地に、白いローマ数字で1~10まで書かれているものと、真っ黒に塗りつぶされたものが3枚。数字の書かれているものの中で、三番だけは数字の後ろに赤いハートが描かれていた。

「なにこれ? トランプにしてはマークもなにも描かれてないし、絵柄もないじゃない? それになんで3だけハート? しかも色つき。ってか、カード集めるんでしょ? だったら……」

「ちょっとちょっとストップストップ! 一気にさらさらーっと言わないでください! 追いつけません!!」

 アリスは気になったところを一つ一つ間を開けずに、流れるように言い続けた。それにさすがに無理を感じたラビは割って入る。

「何よ。その大きなお耳はやっぱり飾りなの?」

「そういう問題じゃありません! 聞こえてますけど、流れ出て行っちゃうんですよ!」

「じゃぁ、もう一回言ってあげるわ。仕方ないわねぇ。いい? ……」

 すぅっと息を吸ったアリスにまたもやストップをかける。

「一つずつお願いしますよ!?」

「はいはい。そうね、まずはこれね。集めるのに、カードを渡すのは?」

「これは目印のようなものです。3番目、これにハートが描かれているでしょう? これは私の数字、ということです」

「あなたの数字?」

「ええ。この世界には《役付》と呼ばれる人がいます。私もその一人です。それらの人が《カード》となります」

「じゃぁ、13人いるってこと? その人たちを集めろってこと?」

 ラビは曖昧に笑って見せた。

「?」

「人を集めるのではありません」

「え?」

「カードは探知機のようなものです。あなたが役付に会えばカードはこのように色づきます」

 3番目を指さす。

「役って、キングとかのことじゃないの?」

 アリスの質問にちゃんと答えなかったラビをあやしみながらも話を進める。

「いいえ。キングも役付ではありますが、ただの数字であっても、このカードになっている時点で役となるのです。その他大勢、モブとは違う、というわけです」

「通行人Aより各上、主人公のクラスメイト、みたいな? エンドロールでちゃんと名前が出てくる感じかしら?」

「うーん、まぁ、そんな感じですね?」

「ふぅん……」

「そして、役付たちに会えばカードは反応し、それとなくあなたに教えてくれます」

「会うって、どの程度? すれ違えば会ったことになるのかしら?」

「それはあなたがちゃんと相手を認識すれば会ったことになるようです。目の端に映ったくらいではおそらくならないでしょう」

「なるほど」

「そしてそれは、ただの探知機能であって、手に入れたことにはなりません」

「じゃぁ、どうしろって?」

「役付たちに認めさせてください。あなたのことを」

「私? 認めさせるって、何を?」

「あなた自身を」

「……」

 さっぱり意味がわからない。

「そうですね……相手はあなたにゲームを仕掛けてくることがほとんどだと思います」

「ゲーム? ……今持ってるトランプのカードは、そっちより、大きい数字? 小さい数字? とか?」

「そんなわかりやすいものはないと思いますが、まぁ、似たようなものでしょう」

「マジか……」

「相手があなたを認めれば、カードにちゃんと絵柄が出るはずです。マークだけではなく、ね。それでカードをゲットということです」

「と、いうことは、カードを集めるってことは、役付とやらを認めさせた証を集めろってことかしら?」

「そういうことです。……役付はわかりやすい者もいれば隠れている者もいます。探すのもゲームの範囲内です」

「それでこのカード全部集めればいいのね。探して認めさせて……いったい何か月かかるのかしら? 期限はあるの?」

「ありません。あえて言うのなら飽きるまででしょうか?」

「飽きるまで?」

「……この国はそこまで広くありませんからそこまで心配しなくても大丈夫かと。かくれんぼでも範囲が狭ければ見つけやすいでしょうし。でも、そうですね……前回のゲームは三か月で終わったそうですが」

「……私その間どうすればいいの、生活……」

「でしたらハートの城を頼るといいでしょう。あまりお勧めしませんが」

「なんか矛盾してない?」

「そうでしょうか?」

「ってか、城って……」

「見つけるのは簡単でしょう。門番か、城の騎士に私の名前を出せばきっと通してくれますよ」

「ハ? なんであなたの……」

「いいですか、アリス?」

 丸太から立ち上がり、アリスを見下ろす。

「あなたのやることはカードを集めることです。集め方はもう大丈夫ですよね?」

「探してゲームに勝ってでも認めさせろ」

「はい。そうです。そして、忠告です。役付は癖のある人が多いです。気を付けてください」

「あれ? 失敗したらどうなるの? 再挑戦とかありなの?」

「そこも含めて口説き落としてください」

「わぉ」

「では、私はもういきますね」

「え、あなたついてきてくれないの?」

「申し訳ありませんが、私にも仕事がありますので……」

「引きずりこんだくせに!!」

「お詫びに私のカード開けますね、と言えないのが悲しいのですが……」

「開けろよ!! じゃぁ!!」

「ダメなんですよ。ルールですから」

「はぁ!?」

「では、アリス。健闘を祈ります。まずは帽子屋邸を目指してみてください。あっち方です」

 遠くを指さし、さっさと踵を返す。

「え、ちょ」

「それではさようなら。もう時間がかなり迫っていますので私は失礼しますね!」

 言うだけ言って跳ねるように走り去った。……さすがウサギ、速い……。

「……まじで置いて行きやがった……」

 今度会ったら跳び蹴りにすねを蹴り上げるのも追加してやろう。あ、それとも同性ではまねできないような痛みでも……

「じゃなくて! うん、拷問方法は後で考えよう!!」

 帽子屋邸? あっち? ……適当すぎやしないか?

 でもここにいても仕方ない。そっちに行けと言われたのだから、行くしかないのだろう。それはきっとまだゲームの初歩だから。この世界に慣れるような、説明を兼ねた、そこまでいかないと、ちゃんとゲームが始まらないようなところなのだ。きっと。

 ……きっと……

「……」

 がっ!

 近くの大きな樹に蹴りを入れてみた。うん、痛い。

「~~~っ!!」

 やっぱ森にあたっちゃだめだよね。ごめんね、樹……。

「……はぁ……」

 とりあえず助言に従おう。森から出ないと始まらないわけだし。

 ……本当にこれからの生活どうなるのかしら……

 

 世界に一人ぼっちの気分になり、生きていけるのかすら不安になったアリスであった。

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