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迷夢の国のアリス  作者: 影宮ルキ
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存在しないはずの少女

 家の中は光あふれる空間だった。花の匂いがする、居心地のいい温かさ。

 床には花柄のカーペット。奥には暖炉、その横にはさらに奥の部屋があるのだろう、扉があった。開けられた大きな窓から庭が見え、風がレースのカーテンを揺らしている。

 窓の前に小さなテーブルとロッキングチェアが置かれ、庭を向いて少女が一人座っていた。

「いらっしゃい」

 そう言って少女はこちらを振り返る。

 金色のさらさらとした髪、大きな目は空の青。白い肌に薔薇色の頬。服はアリスのものと似たような、青いワンピースに白いエプロン飾り。靴下は白のレースだけれど靴は黒のストラップ付。……本当に今着てるやつとそっくりだ。

 とてもかわいいきれいな、お人形みたいな女の子だった。

「こ、こんにちは……」

「どうぞ。もっとこっちに来て、ここに座って?」

 少女は椅子を降りるとロッキングチェアをテーブルの方に向け、近くの椅子をテーブルの方に持ってきて私にすすめてきた。

「あ、ありがとうございます?」

 小さな女の子相手にどう対応していいか少し戸惑う。 

 その返事に少女はくすりと笑った。

「ふふっ、堅苦しくしなくていいのよ。お茶を持ってくるわ。ゆっくりしていてね」

「あ、そ、そんなお構いなく……」

 堅苦しくしなくてもいいと言われたが、ここは日本人として少し遠慮してみる?

「堅苦しくしなくてもいいって」

 少女は笑いながら奥の扉へ消えていった。

「……」

 ゆっくりって、どうすれば……。

 いいや、少し整理しよう。落ち着こう。うん。

 とりあえず、あれだ、あの子が目的なんだよね、たぶん? グレイが言ってたアオの名前を言える人って、あの子のことだよね?

 小っちゃい女の子で驚いた。ってか、ここでずっと一人で住んでるの? でも他の人の気配とかなんも感じないし……。まだ小学生、しかも低学年くらいに見えるんだけど……。

 ……。

 お茶って言ってたけど火とか大丈夫なのかな!? それとも水出しなのかなっ!?

 いや、たぶんずっと住んでるんだろうし、大丈夫なんだろうけどね!? なんか心配だなあ!!

 ……いやいやいやいや!! 落ち着こう、うん。ね!

 え、ホントにあの子が目的の子なんだよね!? あれぇ!? それすら不安になってきたぞ!?

「ふふふっ、百面相ね」

「!?」

 考え事してたらいつの間にか女の子がこっちの部屋に戻って来てた。持っているお盆にガラスのティーポットと白のティーカップが乗っている。

「あ、持つよ!?」

「大丈夫よ。いつもやってるもの」

「え、あ、そ、そうですよね!」

 危なげなく運んでいる様子と少女の言葉を聞いて思わず敬語になる。

「うふふ。そんな慌てなくても大丈夫よ? 普通に接してちょうだい」

 ……もう、やばい。顔真っ赤だ今、絶対。はずか死ぬ……。

 少女は小さいけど、私よりも大人に見える。

「さぁ、どうぞ」

 少女はティーポットからお茶をついで渡してくれた。

 ティーポットの中には花が咲いていた。中国とかでありそうな綺麗なお茶だった。だからガラスにしていたんだな、と思う。

 こ、この技術……!! 女の子はやっぱりファンタジー的要素で外見だけ少女なんじゃ……とかバカなことを考え始めた私は末期。

「あ、ありがとう」

 甘くてフルーツみたいないい香りがする。少し落ち着いた。これで頭リセットできた、たぶんね! もう変なことは考えないよ!!

 その考えも出てたのか、少女はおかしそうにくすくすずっと笑い続けている。くっ……。

「ふふっ、ごめんなさいね。すごく久しぶりに他の人が来たから、楽しくて」

 やっぱりここで一人暮らしなのか……。寂しいな……。

「ここに来たってことは、ゲームよね?」

「う、うん」

 いまだにどう対応したらいいか……。

「あの人、今どうしてる?」

「ア、イモムシのことですよね?」

 またいいかけてしまった。その名前言っても通じないんだけどね!

「えぇ、そう、確かそうだった……」

 そういう少女は昔を懐かしむような、過ぎてしまった遠くを悲しむような目をした。

 なんでだろう。どうしても見た目と中身の歳があってないような気がする……?

「ねぇ、教えて? あなたの知っている、あの人のこと、全部」

「知ってること全部……と、言っても、あんまり知らないんだけど……」

 会ったのなんて二回くらいだし、あ、こう考えてみると本当に知らない人だな。

「というか、多分外の人の方が知ってるとおも……」

「無理よ」

 ジャックのことをすすめようとして、言葉を全部言い終える前に少女が断言した。

「え、なんで?」

「ハートの騎士様は私に会えないわ」

「どういう……」

「気にしたらダメよ。だってそういう、わけなんですもの」

 またルールとかそういうやつか? めんどくさいなーもー!

「分かった」

「じゃぁ、教えて?」

 そうして私はアオのことを知ってる限り全部話した。

 アオが名前を探していること、アオという名前を付けたこと、あの森から出られないこと、ゲームをしてること。

 ……本当に話すことが少ない……。

 少女はずっと聞いていた。ちゃんと聞いているのかと聞きたくなるくらいずっと同じ顔で。

「そう、なの……」

 話が終わると、少女はそれだけつぶやいた。

 それから少し沈黙が場を支配して、少女はふっと息をつく。

「話してくれてありがとう。ねぇ、あの人に伝言を、お願いしてもいいかしら?」

「うん、もちろん」

「もう、いいの。返すわって。ありがとうって、伝えてもらえるかしら?」

「もういいの、返す、ありがとう、ね。わかったわ」

「お願いね。……あの人の名前、それはね」

 唐突にゲームの話に戻ってきた! いきなりでびっくりするわ!! 強引ですね!!

「鳥になっちゃったのよ」

「え、鳥……?」

 なっちゃったって、なに!?

「そう、鳥」

「鳥……」

「……」

「……」

 私ポカーン、少女真顔。何このシュール画。

 しばらく固まっていたが、少女がクスリと笑ってからかわれたことを知る。

「ごめんなさいね。楽しくて」

「……」

 どうしよう、何も言えねぇ……イラっとしすぎて。

「でも、嘘ではないわよ。ここまであなたたちを案内していた鳥がいたでしょう?」

「あぁ。え、でも紙に戻っちゃったわよ?」

「あれを渡して。そうしたらあの人には伝わるわ」

「わ、わかった」

「お願いね。その時に伝言を伝えてくれればいいから」

「了解!」

「じゃぁ、もう行った方がいいかしら。そろそろ日も暮れるから」

「え、日が……?」

 窓を見るとここに来た時と全く変わらず明るいように見える。

「ここは特別なのよ。さ、玄関まで送るわ」

「ありがとう?」

「うふふっ、何で疑問形なのよ」

 そういって外へ送り出される。

「――会えて嬉しかったわ」

「え?」

 背後で小さく聞こえた言葉。本当に小さくて、いきなりだったから最初を聞きのがした。

「何?」

「あなたに会えて嬉しかったわ。って言ったのよ」

「私も嬉しかった。ありがとうね」

 そこではっと気が付いた。

「あれ? 名前……」

「ダメよ。聞いてはいけないわ」

「へ?」

 いや、自己紹介してない方がおかしかったよね? ね?

「私はね、あの人に名前を借りていただけだから」

「それってどういう??」

「ほら、行って? 早く戻らないと、夜になってしまうわよ? 夜の森は怖いんだから」

 意味がわからず頭の中を整理しようと思っていたら、そのままゆっくり扉を閉められてしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「ばいばい」

 その言葉を最後に扉は固く閉ざされてしまった。叩いても呼びかけてもなんの反応もない。

「な、なんだったの……?」

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