妖精の庭
はいどうも、アリスです! いやぁ、最近大分この名前にも慣れました。違和感なんて感じませんよ! でもね、今の状況はとても違和感を感じるよ!
「ねぇ、いつまでどこまで行くの!?」
ジャックに姫抱きされたまま、白い鳥を追って森を走ることもう何分よ? 十分以上たってるんじゃないの!?
「知らないよぉ! そっちの鳥に聞いてもらえるぅ!?」
「おいこら鳥ぃ! どこまで行くんだっつうの!!」
「ホントに聞いちゃうのぉ!?」
いや、しょうがないじゃん。だってそんだけ疲れてるっていうか、もうそろそろ地面が恋しいっつうか、とにかく落ち着きたいっての!!
「でも、確かにすっごく走ってるよねぇ……俺も少し疲れてきちゃったぁ……」
そういうジャックの息は切れてはいないが、確かに少し汗が出て、顔がつかれているような気もする。
でも息切れてないとかおかしいよね! 騎士ってみんなこうなの? それとも男女の差なの? 化け物に見えてくるんだけど?
「もうすぐで広場みたいな場所に出るはずだよぉ? それ以上はいけないと思うからぁ、そこが目的地なのかなぁ?」
「それ以上はいけないってどういうこと?」
「この国って森に囲まれてるじゃなぁい? 森の外はないってことぉ」
「ハ?」
「うーん、たぶん、アリスの世界だったら、世界は丸い、だからぐるっと回って同じ場所につくって思うでしょぉ? でもこの国、っていうか世界? は違うんだよねぇ」
ジャックが言ってるのは地球球体説のことだろう。それが違うってことは……
「えーっと、昔の人が世界の果ては崖になってる、って言ってたあれみたいな?」
「そうそう、そんな感じかなぁ? こっちの世界は、森の外は存在しないんだよねぇ」
「え、じゃぁ、崖なの?」
「ううん、違うよぉ。ある程度森の外に出ると、戻されるっていうかぁ、境界線踏むといつの間にか同じ地点にいるっていうのぉ?」
境界線……よし、ファンタジー。ま、よくあるよね、ゲームとかにも……エンドレスみたいな……。
「おけわかった。それで、その広場っぽいとこが西の果て?」
「の、少し手前かなぁ。それ以上は本当何もないしぃ……あぁ、ほら、明るくなってきたぁ」
確かにずっと森! って感じで木々が茂って太陽の光をさえぎっていたのに、前の方は木がとぎれとぎれで明るくなっていた。
鳥を追って、森を抜けて、ぱぁーっと明るい広場へ。
「……わぁ」
広場はとても広かった、そして中央は森の中のように暗かった。とてもとても大きな樹のせいで。
私が何人、十人、いや、もっと、それ以上はいないと手が回らないような太さ、縦はそれ以上の高さをもった樹だった。神様がいると言ったら信じてしまいそうな何かを感じる……。
「何ここ……」
白い鳥は森を飛んでいた勢いをそのままに、大樹に突っこんだ。
「え!?」
鳥がつぶれた様子はない。血も羽も落ちてない……と言いたいところだが、元は紙だったし、しかも魔法みたいなものでできたものだからどう判断していいのか……。
「アリス、行き先はここで終わりだと思う? それとも……あの中だと思う?」
ジャックは低めの声で聞いてきた。
「あ、あの中って……」
樹? 樹ですか? 樹の中ですか!?
「俺はあの中だと思う。しっかりつかまっといて!!」
ジャックは加速した。マジで突っこむ気だ!
「え、ちょ、まじでぇ!?」
「行くよ!!」
「ぎゃぁぁぁあああ!!」
ギュッと目をつぶってジャックにしがみついて、それから……?
予想していた衝撃はなかった。予想していなかった衝撃ならあった。
「うわっとっとぉ!」
ジャックのその声と、ちょっと勢いが余った感じ。あれだ、ジェットコースターがガクンって減速or止まる感じ。内臓持ってかれそうな、ぐぇ……。
「うっ」
「あぁ、ごめんごめん」
「な、なにごと?」
目を開けるとさっきまでの森が消えていた。大樹も消えていた。
「わっつ!?」
さまざまな色の花が咲き乱れる花畑。その上を舞う純白の蝶々。優しい日差しが降り注ぐそこは妖精の庭みt……やめよう。私の頭の中までファンタジックに……。
ジャックにおろしてもらって、自分で歩こうとしたが、なんかもう、生まれたての小鹿状態だった。つまりは足プルプルです。姫抱きって変なところに力入るよね! しかもびびってたしね! 緊張しすぎてなんか力入らないよ!!
よろよろしているのを支えられて前に進んだ。後ろには森が見えたけど、風景画みたいで遠く感じられた。たぶんあそこに近づいても、行こうとしても行けないって思ってしまった。何だろう?
「きれいだねぇ」
「……」
「なにぃ?」
きょろきょろとあたりを見ていった感想に、私は思わず変なものを見る目を向けてしまった。
「え、だって……そんな感性合ったのね」
「ひ、ひどいよぉ……」
でも確かにきれいだ。すこし薄気味悪くなるほど。
綺麗であたたかい。なのになんでこんなに寒く感じるんだろう? 私は待っている蝶々を見て腕を押さえた。鳥肌が立っている。
怖い。
先にあるのが怖いのか、この空間が怖いのか。とにかく何かが怖かった。
「アリスぅ? どうしたのぉ?」
「なんでもないわ」
「……?」
怪訝そうな顔をしているのはわかったけれど、無視無視。私だって説明できないんだから。
しばらく歩くと小さな家が見えた。おとぎ話でありそうな、白い柵にかこまれた、小さくてかわいい家。
「あ、アリス見てみてぇ! アレ、さっきの鳥じゃなぁい?」
ジャックが屋根の上を指した。そこには大樹に突っこんでから姿が見えなくなっていた鳥がいた。
「あ、本当ね」
鳥は私たちを待っているようだった。
柵についていた門のようなものの前に二人で立つと、鳥はこちらへ舞い降りて、私の目の前で紙に戻った。
「うわっと」
白い鳥はただの白い一枚の紙になった。トカゲさんやメイドさんの付けた折り目はなく、ちぎった跡もないまっ平らな紙に。
サイズも変化していた。ちょうど私の持っているカードと同じくらいの大きさだ。もしかするとぴったりかもしれない。
「なにかしら……?」
とりあえずポケットに入っているカードケースに入れておく。ちなみにこのカードケース、紐がついていて、服のリボンに結んであるのでなくしづらい。走っても落ちづらい。いいね。
鳥がいなくなった、つまり、やっぱりここが目的地ってことでいいのよね? この家に入れってことで、いいのよね?
「あ……」
門をそっと開くと、ジャックが小さく声をあげて私から一歩離れた。
「ジャック?」
「ごめん、アリス。俺は行けないや」
申し訳なさそうな、悲しそうな表情でそう言った。
「え、なんで?」
「……言えない。けど、大丈夫。中の人は絶対に君を傷つけたりしないはずだから」
「……」
「アリス、行っておいで。俺はここで待ってるから」
無言でじっと睨みつけてみるけれど、どうしてもついて来てくれなさそう。護衛じゃなかったの?
「……わかった。行ってくるわ。その代り、なんかあったら幽霊になって恨んでやるからね!」
「……大丈夫だよ」
ジャックは真剣な表情だった。ちょっと、冗談言ったつもりなんだけどなぁ……。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
小さく門を開いてその隙間に体を突っ込み、家のドアの前に立つ。
「ふぅ……」
一人で行けって、いきなり言われるとビビっちゃうよね。少し息をついてノックする。
コンコン。
……。
カチリ。
ドアの所から小さな音が聞こえた。鍵が開いた? 入って来いってこと?
「……お邪魔します……」
そう声をかけつつドアを開いた。
「大丈夫だよぉ、アリス。だってアリスだもん……」
忘れてた。知ってたけど、理解できてなかった。でも今思い出したよぉ、理解した。知らないままでいたかったなぁ……。
「アリスぅ、ごめんねぇ……」




