住む場所決まって即行で家出してみる
まぁ、変態だから、真面目に傷ついた顔しても、こっちに罪悪感が半端無くても、良心がチクチクどころじゃなくても、ざくざくでも、ちょっと、うん、気にしない。
「はぁ……」
何してるんだろう。私こんなんじゃない。こんなんじゃなかった。
もっとひんやりしてて、それでよく……
――――ほら、笑って?
そう言った、あなたは誰?
――――あなたが笑えば私も楽しいのよ。
なんで? どうして?
――――なんでかしら?
こっちが聞いてるのに。
――――ねぇ、ほら、笑って?
……いや。あなたがいないなら私は……あなたは誰?
――――ほら、ほら……?
声が遠のいてゆく。
まっていかないで!
それはまるで夢のよう。
そう、そうだ、夢。夢の、あれは、私の記憶。たぶん、いや、絶対そう。知ってる。私は知ってる。
でも……
「誰? 誰だっけ? あの人は誰? なんで、何で思い出せないの?」
――――気にしなくていいのよ。
声が帰ってきた。
「やだ」
――――知らない方がいいこともあるわ。
「だめ」
――――……。
「やだ、だめ、しらないと、いけないの。わたしが、わたしのせいだから……」
何のこと?
体と心が離れてしまったよう。頭が半分になって、別々のことを考えているみたい。
「……」
だめだ。頭がちかちかしてきた。ついでに目も……。
「だからなんでこんなに赤とハートを押すのかなぁ!?」
目のちかちかの原因はこの部屋の色彩。ハートの城は死ぬほど赤とハートを押してくる。
いやね、赤はまぁ、嫌いじゃないよ? でもね、原色そのまま塗りつぶすように配置されたらさすがにお腹いっぱい通り越して胸やけだよ?
「ちょっと、うん、出よう……」
そう言って彼女はドアの前に移動したが……。
「……なんかいる!?」
外から何者かの気配を感じた。
「……アリスは索敵のスキルを手に入れた! ……なわけないか……」
だが、何かを感じるのにわざわざ行くこともない。いや、不審者だとは思わないが。
アリスは窓を見る。ここはどうやら一階のようだ。
考えた時間、およそ五秒。窓を開け放ち、窓枠に手をかけ、勢いをつけて飛び越えた。
「せいやっ、っと」
さっと窓の下にあった茂みに身を隠す。
「……よし」
何がいいのかわからないが、確認が終わったらしい。
さっと立ち上がり素早く城の庭を目指した。
「ここまでくればいいよね」
普通に散歩しています、を装い、ゆっくりと歩きだした。
「きれいな庭ね。これくらいの赤がちょうどいいわ」
薔薇の迷路を抜け、敷地を出た。
「……うん。何にも考えてなかったな」
衝動のままに外に出てきてしまった。あとになったら怒られるかな。
「いいや。めんどくさい」
目的もなく、森に入る。
歩く。
歩く歩く。
歩く歩く歩く。
疲れる。座る。
「はぁ、なにしてんだろ……」
日が暮れた。森は真っ暗だ。行く先も帰る先もわからない。
「なんで私ここにいるんだろ」
木の根元に座りこみ、膝を抱えて頭をうずめる。
「もうやだ。疲れた」
……。
「……」
風が吹いて、木々が鳴る。誰もいない、寂しい声。
闇が迫る。飲み込まれそうになる。
それでもいいや。何にもないんだから、別に気にしない。誰も、何も……。
「あっれー? 女の子が暗い森に一人? 悪いオオカミさんに食べられちゃっても知らないよ?」
ま た 新 キ ャ ラ か ?
あぁ、違うかも? 普通の人だ。登場の仕方が唐突だったから役つ……ナンデモナイ。
ハンチング帽を目深にかぶっている。なんだ、この国の奴は帽子を深くかぶるのがお好きなのか? でもグレイほどではないので目がちゃんと見えてよかった。あの人、なんで目が見えないんだろ……。服はthe普通! って感じの物。
「どうしたの? 迷子?」
アリスとそこまで変わらないだろう、年上らしき男が話しかけてくる。
「迷子、かな……?」
「かなって……」
「もうなんだかよくわからなくなってきて……」
「そっか。……帰りたい?」
帰る、その言葉で思い浮かぶのはどうしても元の世界。
「帰りたい。けど、本当に帰りたいところが迷子なの。帰らなきゃいけないのに、道がないの」
「そうなんだ。それは困ったね」
「本気にしてないでしょ?」
自分で言ってて非現実的だと思う。……それを言ったらこの世界そのものが、なのだが。
「あぁ、そう聞こえたのなら謝るよ。でもね、この世界じゃ道は変わるものだからしょうがないって割り切らないと」
「道がかわる?」
「そうそう。特に森の中は、時間によって、季節によって、迷子になるんだ。消えたり現れたり、自由気まま」
……そりゃ迷うわ。
「戻れないのは必然ね」
「あはは……慣れるまでは大変だね。いや、慣れても迷子になる人は多いか」
「あなたは迷ってないの?」
「俺? 俺は迷わないよ。道が消えたって、無くなったって、迷子だって。俺は俺の行きたいところに行くんだ」
「……いいわね」
「うん。……君は迷子なんだね? よし、今回は俺が君の知っているところにつける道に案内してあげるよ」
「……」
「それが君の帰りたいところじゃないとしても、心配してくれる人がいるんだろ? だったら、一応でも戻らないとな」
「……うん、そうね」
白兎、ラビ、真剣に心配してた。最近会ったばっかりなのに、心から。
「ちょっと悪いことしちゃったかな」
引きずり込まれたとしても、思ってくれるのは嬉しいことだ。
「じゃぁ、謝らないとな」
「うん」
「……行くか」
男が手を差し伸べる。
アリスは手を重ねて立ち上がる。
「ねえ」
「ん?」
「なんで私の戻らないといけない道がわかるの?」
「それは、俺だから」
「……」
「なぁ」
「何?」
「もう少し警戒心もったほうがいいんじゃない?」
「……前は持ってたんだけどね、持ってても無駄かなって思い始めてきて……」
例、白兎に問答無用で引きずり込まれる・どこぞの騎士の黒い笑顔・女王陛下の権力&圧力。
「……そ、そうだね……」
男の顔は素晴らしくひきつっている。
「なかなかにでんじゃら……おっとっと……」
「分かってる。わかってるわよ……」
「あー、なんかごめん。うん、でもちょっともってたほうがいいかm」
「……」
「あー、うーん、ごめん……」
しばらく沈黙が支配した。
「それに」
「?」
「あなたなんか悪い気がしないの」
「えぇ?」
「なんだろう、野良猫、みたいな?」
「えー、どういうこと?」
「気まぐれになつくけど、ひっかかれても仕方ないかなー?」
「んー、よくわかんないや」
「私もわかんない」
「なにそれ」
ぷっと吹き出す男に、つられてアリスも表情を柔らかくする。
「お、いいね。仏頂面よりまし。俺的にはもっと笑ってくれた方が可愛いと思う」
「なんか慣れてるわね」
「そう?」
「……」
「あぁ、また戻っちゃった……」
「あなたのせいじゃない?」
「酷いなぁ、俺のせいにするなんて……っと、ついたよ」
木々が途切れ、明かりがあふれる大通りについた。
「あっちにお城が見えるでしょ? ここがこの国で一番大きな通りかな。ここに来ればほとんど何でもそろうよ」
「へぇー」
「ここまでくれば大丈夫だよね?」
「ええ。ありがとう」
「いえいえ。それじゃあまたね。お嬢さん」
軽く手を振って森に戻った男。
「……あ、そう言えば名前聞いてない」




