表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷夢の国のアリス  作者: 影宮ルキ
2/102

ワンダーランドへ強制連行

「……え?」

 気が付いたとき、彼女は暖かな木漏れ日の下にいた。

 光を反射して煌めくのは、月光の銀髪。瞳は吸い込まれそうな深海の青。肌は人形のような滑らかな白。壊れそうな、本当にお人形のように、目に光のない少女。それは目覚めたばかりとかそういうわけではないだろう。

 なんで、どうして? 私はさっきまで……?

「……何してたんだっけ?」

 思い出せない。覚えてない。何もない……。

 ここはどこ、私はだれ?

「私は……?」

「急がなきゃ、急がなきゃ!!」

「ん?」

 目の前を白いウサギが、赤いチェックの服を着たウサギが、よく見たらメガネもかけているウサギが、二本足で立ち、その手には大きそうな時計を見ながら、しゃべりながら、横切った。

「……」

 混乱した頭でもわかる。この世界に、人間の言葉をしゃべって、二足歩行で走りながら、メガネをかけ、時計を理解し、急いでいるウサギなんて存在しない。つまり……

「なるほど。これは夢。わかった。じゃあもう一眠りしたらちゃんとわけのわかる現実に戻るはず。ダイジョブダイジョブおけおけ……」

 そうして横になって、眠りにつこうとしたとき……

「ちょっと待ってください! 全然オッケーじゃないです!!」

「……」

 片目を開けて、様子をうかがう。

「…………」

 よし、寝よう。

「待ってくださいってば! 起きてください!!」

「やだ」

「なんで!? なんでです!?」

「だって目の前に変質者がいるから」

 さっき様子をうかがった時に、目の前には青年がいた。そう、青年だ。その時点でできればもう現実逃避ものだ。独り言を聞かれた挙句、近くに寄られて眠ろうとしていた顔を見られた。……ヤダなにそれ恥ずかし。

 しかも、その青年は超絶美形。雪のように白い髪は、肩よりも長くて、リボンで一つにくくっていた。瞳はありえないほどきれいな、ルビーの赤。しゃがみこんでいたから身長はわからないが、きっと高いと思う。なんとなく。美形だし。服はさっきのウサギと同じものだろう、赤いチェックの……ちがう、そこじゃない。そう、ウサギだ。一番気にすべきことはウサギだ。

 その青年の頭には、ぴんと立った、白いウサギ耳が生えていた……

「へ、変質者? も、もしかしなくても、私のことですか?」

「あなた以外に誰がいるの?」

「……私は変質者じゃありません」

「……いきなり現れて、コスプレして、無防備な女子に近づく男のどこが変質者じゃないの?」

「前二つはまあ、しょうがないとしましても、最後の一つはここで寝ているあなたがいけないんじゃないですか!!」

「えぇー?」

「もうっ! それに、あなたはここで寝ている場合じゃないんです! 時間がないんですってば!!」

「時間?」

「そうですよ。早くしないと間に合いません。さあ、行きましょう?」

「……」

 変質者の謎の言葉にうなずいてはいけない。そして、知らない人にはついてかない。変質者ならなおのこと。これ常識。

 ちなみに今の会話、すべて目を瞑って行っている。

「嫌」

「我がまま言わないでください……」

「わがままはあなた」

「……どうしてもですか?」

「もちろん」

「……仕方ありませんね。手荒な真似はしたくなかったのですが、時間がありませんから」

「え? え!?」

 いきなり現れた変質者が、いきなり抱き上げてきた。姫様抱っこ……っ!?

「な、放して!!」

「あんまり暴れないで!」

「これが暴れないでいられるか!!」

「仕方ないじゃないですかぁ! あなたがはい、と言ってくれないからぁ!」

「お前みたいなやつについて行っちゃいけないなんて、子供でも分かるわ!!」

「えぇー!?」

「お・ろ・せ!!」

「無理ですよっと!!」

 変質者がどこかに飛び降りた。

「!?」

 大きな穴だった。とっても大きくて、深い……

「な、何これ!?」

「ワンダーランドへの入り口ですよっ」

「何がワンダーランド!?」

 いつの間にか彼女は変質者から離れていた。落ちた衝撃だろうか?

 深い深い穴。底が見えない。

「いや、ワンダーランドってか、死者の国への入り口!?」

「死にませんよ。その辺がワンダーランド補正です」

「どんな!?」

「いやぁ、まあ、夢の国補正ってことで?」

「雑!!」

「ああ、ほら、そんな雑談をしていたら、あっという間につきますよっと」

 はるか下の方に光が見えてきた。

「!? いやぁ、まだ死にたくないかも!!」

「かもって……、自分の命、もう少し重く見てくださいよ……」

「いやぁ!!」

 恐怖からか、もう許容量オーバーだったのか、そこで彼女は気を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ