クイーン・オブ・ハート
私たちが開けずに、ずっとその前で言い争っていた、大きな扉が開いた。
「なんじゃ騒々しい……」
中から声が聞こえた。美しい声。ただ、聞いたものに緊張を与える。ほら、
「も、申し訳ありません」
ジャックはガタガタだ。
「失礼しました」
エースの表情はこわばっている。
「……」
ラビだけ、微妙な顔をしている。なんというか、嫌いな食べ物を前に、これ食べたらデザートあげるよ! と言われた子供みたいな顔だ。
「入れ」
……
「アリス」
変た……ラビがこそっと話しかけてくる。
「私の後ろに。あんまり中の人と目を合わせてはいけませんよ。気にいられないのも困りますが、気にいられすぎも困ります」
とにかく目立つなってことか? おけおけ。てか、あったりまえ。言われるまでもねぇし。ここら辺で死ぬ危険なんておかせるかーい。
部屋の中も変わらず赤! そしてハート! メルヘン!
部屋に入って一番目を引くのは書類、それ埋もれた飴色の書き物机、そこに座った、the女王陛下。
上が赤、下にいくにつれだんだんと白んでくる朝焼けの緩やかに巻かれた髪。右目は長い前髪に隠され、見える左目は夜明けの薔薇色。頭に豪華なミニクラウンを乗せ、ドレスは豪華な赤とハートの意匠。ミカとはまた違った迫力美人。ミカに負けないような巨乳。……なんですか? この世界は私に喧嘩でも売ってんですか? 胸がなんだぁ!! 一番気にしてんのは私だけどなぁ!!
「え、えっと、陛下! 仕事が、えっと……」
ジャック、頑張れ! 確かに怖いけど、負けるな! 男だろ!?
「ジャック」
「は、はい!?」
「その娘は誰じゃ?」
「……」
「陛下、書類をお持ちしました」
「エース、邪魔」
「……」
「はぁ、別に隠すこともないんですよ、二人とも」
とか言いつつ、私を背中に隠しつつ後退するラビ。
「ラビ、お前は仕事でもしておれ」
「してます。いつもしてます」
「いつも以上に、それこそ自室に籠ってでもおやり」
「では、そのように」
私ごとってことか? このつかまれてる腕は。
「待ちや。その子は置いて行き」
「私抜きで陛下に会わせられるわけないじゃないですか! そんな恐ろしい!!」
「臆病なウサギじゃのぅ」
「草食動物ですから」
……やっぱいじめちゃダメだったかなー……。
「そこの子」
「は、はいっ!?」
おっと、声が裏返ってしまったぜ……。
「おやおや、緊張しているのかえ?」
「……」こくこく
「とって食いやしないよ。もうちょっとちこう寄り」
「……」
どうしよう……。
ラビを見上げると、嫌そうにちょっと退いてくれた。
若干近寄ってみる。
「もっと」
もう少し近寄ってみる。
「……そんなに妾の傍が嫌なのかえ?」
すみませんうそですごめんなさい。
即座に近くに寄りました。でも目線をすこぉしずらしめで。
「人と話すときはちゃんと相手をみなくてはね?」
「はい……」
うぅ……。
「よい。……それで、名前は?」
「アリス、です……」
「アリス? そなたがアリスか?」
「……」こくこくっ
「ほぅ……」
目を細めて笑う。……迫力が増してます。怖いです。氷の美女です。怖いです。
「妾はこの城の主、女王じゃ。ハートとお呼び」
「ハート様?」
「ハート、じゃ」
あ、この笑顔は! ジャックの時と同じだ!! 真っ黒笑顔じゃないか!! 迫力ぱねぇ!! 後ろにあるのは権力か!?
「ハ、ハート……?」
「そうじゃ、アリス」
楽しそうに微笑む女王様は可愛いと思った。
……それにしても、ここの人は呼び捨てがお好みなのかしら? どうでもいいけど、笑顔で脅すのはやめてくれ!!
「敬語は抜きじゃ。わかったかえ?」
「え、でも……」
女王様でしょ!?
「なんじゃ? 妾が良いと言うておるのに、それを断るのかえ?」
むっ、とした顔をされた。……かわいい……。この世界の迫力美人は、可愛いです……。ギャップ萌えです……。
「いや、断るとかそういう問題じゃないと思うんですけど……?」
「他に何か問題あるのかえ?」きょとん
「えぇ……?」
なんて言えばいいんだろ、その……
「部下に示しがつかない、と言いたいのでしょう、彼女は」
ナイスフォローだ変態ウサギ!
「そうですそうです!」
「ふんっ、そのようなやから、切って捨ててしまえばよかろう。アリス以上に優先されることなどありはせんよ」
“アリス”すごすぎ!?
「あなたはそれでなくても部下を切って捨てているくせに」ぼそっ
な ん だ っ て !?
「なんじゃ、ウサギ」
「アリスうんぬんは無理やりじゃないですか、と言いたかったのですけれど? 無駄な殺しばかりして……後始末だって大変なんですよ?」
あとし……いや、深くは考えまい。ここはメルヘンなファンタジーだ。夢の国だ。うん。
「それはバカな真似をするそやつらが悪い」
「バカなのはあなたでしょう? 紅茶に砂糖を入れすぎただけで首を刎ねるだなんて……」
はぁ!? なんだその馬鹿げた理由……ってか、首を刎ねるぅ!? いやいやファンタジーだから!!
「アリス、分かっただろう?」
エースがそっと耳打ちしてくる。
「陛下はちょっとでも気にいらないと簡単に人を殺しちゃうんだよねぇ」
「くれぐれも気を付けるように」
騎士二人に念押しされた。
ふぁんたz……で納得できるかぁ!!
てか、ちょいちょいちょいちょい!? 今なんか現在進行形で気にいられてる気がするんですけど!? それってめっちゃ危険増すんじゃないの!? 気を付けるって何をどうしたらいいのかなぁ!?
「ともかく……これからよろしゅうな、アリス」
「は、はいぃ……」
あれ? これって死亡フラグ一直線?
アリスは冷や汗を流して、引きつった笑みを浮かべ、女王陛下の言葉に何とか返事をしたのだった。




