仮でも名前
「僕は誰?」
いや知りませんが。
「知らないよね、やっぱ」
「ええ、初対面だし。……え、違うの?」
「いや、初対面のはずだけど」
「だよね」
……じゃぁ知るわけないじゃないかこのやろー!
「あぁ、役名は覚えているよ。“イモムシ”だ」
「役付!?」
ラッキー!!
カードを見てみると新たにクラブの10が色づいていた。
しょっぱなからこんなに役付に会えるって、じゃぁ、早くにカード集めきるんじゃない!?
「ねぇ、ねぇってば……?」
「わっ、な、何!?」
カードに気を取られすぎてた。
「“アリス”なら僕のこと知らない? 何か、分かることない?」
「ごめんなさい、何もわからないわ」
「そっか……」
しゅんっ、とさせてしまったが、知らないものは知らない。大体“アリス”にはそんな一目見ただけで誰かがわかる特殊技能は標準装備だったのか?
「アリスだったら特別だから何とかなると思ったんだけど……」
いや無理だろ。
「ほんとごめんなさいね」
「いや、いいんだ。あ、お願いしてもいい? 何かわかったら教えてほしいんだ」
「それくらいいいわよ。……あなたいつもこの辺にいるの?」
「大体このへんだね」
「で、ここ何処?」
「どこだろうな」
「……」
じゃぁ、どうやって知らせに来いと?
「ここには名前がないんだ。僕と同じ。だからね、誰かに聞けばいいんだよ。僕のいるところはどこ? って」
「あなたの名前がないのにどうやって聞くのよ」
「誰かに聞けばいい。ここにいる僕は誰?」
「だーかーらー」
堂々巡りか!
「悪い悪い。だからそんなにへそを曲げないで」
「……」つーん
「アリスってからかいがいあるね」
「……」つーーーーん
「ごめんごめん」
「……で、本当はどうしたらいいのかしら?」
役付なら会えないと困る。
「簡単だよ“イモムシ”はどこにいるって言えばいい」
「普通のイモムシだと思われない?」
「じゃあ、たばこを吸うイモムシとでも言えば? あぁ、役付の、って言った方がいいかな?」
「……なるほど」
確かに簡単だな。
「これで問題は全部解決した?」
「そうね」
「じゃあ、安心だね?」
「そうね、まだ一つあるわ」
「何?」
「あなたのことをどう呼んだらいいのかってことよ」
「え? イモムシじゃだめなの?」
「あなたはそれでいいんだ……」
「……まぁ、あまり気にいってはいないけど。虫とか……」
気にいってねぇのかよ! じゃあ提案すんな!
「まぁ、役名は変えられないから仕方ないし」
「よし、じゃぁ、アオ、青って呼ぶわ。イモムシのままじゃかわいそうだし」
「え、そ、そうかい? どうして? まぁ、名前はうれし……」
「イモムシ→青虫→アオ」
「かわいそうとか言ってた割にはイモムシからそんなに離れてなかったんだね!?」
「いいじゃない、分かりやすくて」
「そうだね! もういいよ! なんとでも呼べばいいだろう!」
「そうさせていただくわ。これからよろしくね、アオ」
手を差し出す。
「……よろしくアリス」
若干複雑そうな顔をしつつも、手を握り返してくれた。
「名前で呼ばれるってなんか新鮮だな。ちょっとアレだけど、ありがとう」
「そう? そんなもの、よね……」
「そこは、そんなものかな? じゃないの?」
「名前はこだわりたい感じするわ、私は」
そういえば、私も本当の名前は行方不明だった。アオと同じだったのね。
あれ? なんでこんな大事なこと忘れかけてたの? とっさに思い出せなかったの? “アリス”にまだ違和感あるはずなのに……。
「アリスにはアリスって名前があるだろ?」
「それは……」
「あぁ、大人のジジョーだっけ? じゃぁ聞かない」
「……ありがと」
「早くめんどくさい事情、解決するといいね」
「そうね、ありがとう」
……ほっとした。今までの人は“アリス”を押し付けてくるばっかだった気がする。なんか、ほっとした。いや、“アリス”かどうかについては言ってないからなのかもしれないけど。
「まぁ、これで問題は全部解決?」
「あ、まだもう一つ問題あったわ!」
「今度はなんだい?」
「お城がどっちだかわかる?」
絶賛迷子ナウだったのもすっかり忘れてた。
「……そうだ、質問いいかい?」
「何よ?」
こっちが質問してるのにっ。
「どうしてこんなところに来たんだ?」
「グレイが言ったのよ!」
「帽子屋が……?」
何が気になったのか、考え事を始めたアオ。
「ふぅむ。……」
手を顎に当てて考え事をする姿は、もうちょっと大きかったらきっとかっこいいのだろうけど、私より若干低いくらいのアオがやるとなんかかわいい。
「……また失礼なこと考えなかったか?」
「きのせいよ」
「ほんとかなぁ」
「ホントホント」
「まぁ、いいか。城はあっちの方角だ。少し行けば多少はちゃんとした道があるはずだから、そこまで行けばわかるだろう」
「分かったわ、ありがとう」
「まだオープニングは始まったばかりなんだろう? だったら早く行くことをお勧めするよ」
「そうなの? 了解」
「では、またね、アリス。君に幸運が訪れることを願うよ」
「ありがとう。あなたもね。アオ」
アオに手を振って歩き出す。
……ちゃんとした道があるならそれを教えろよグレイ……!!
「……で、そこで何してるんだ、帽子屋?」
「……盗み聞きかな?」
「行儀悪いぞ」
「これは失敬」
「それで? お前は何をたくらんでる?」
「……ふふふっ」




