再会
私の手の中に、姉さんがいる。私に、笑いかけてくれる。
夢? 幻? 信じられない。
だって、何? この状況。なんで笑いかけてくれるの? 責められてしかるべきでしょ? それに、なんで羽? しかも、小さくない? え?
私が無反応だったからか、姉さんが私の腕をよじ上ってきた。肩のあたりに乗って、頬をつつく。
「アリス? 大丈夫?」
「ねえ、さ、ん……?」
「あら? 嫌よ、そんな呼びか、きゃっ!?」
姉さんって呼び方が嫌だって言われた。私、妹として拒否されたの?
わかってたけど、恐怖で体がびくっとしてしまう。そのせいで姉さんは少し驚いたみたいだ。慌てて私の髪にしがみついたみたいで、ちょっと痛い。
「ごめん、なさい。ごめんなさいごめんなさい」
「アリス?」
肩の姉さんを手のひらに乗せて、その場に膝をつく。
土下座して、そんなんじゃ足りないのはわかってるけど、謝って、それで
「アリスっ」
姉さんがぴょんと私の腕に飛びついた。
「嫌よアリス、そんな顔しないで。抱きしめてあげられなくてごめんなさい。なんか、気がついたら小さくなってしまっていたの。でも、アリス、許してね」
「許す、だなんて、そんな……」
「じゃあ、またお姉ちゃんと呼んで? 私、アリスのお姉ちゃんなのよ。姉さんだなんて、ちょっと距離感じちゃうわ」
距離? 距離ってなんだろう? 何の距離? 理解できないよ。どうしたらいいの? もうやだ、頭ぐるぐるするんだ。
吐きそう……。
「あぁ、ごめんなさい。アリスって呼ばれるの、嫌なのよね? でも、嫌よ。あなたは私のアリスなの。だから、譲れないわ。ごめんなさいね」
「え?」
アリスって呼ばれるのが嫌? 何でだっけ? そんなこと言ったっけ? わからない。思い出せない。
「……憶えてないのね? ……そう。でも、じゃぁ、思い出さなくていいわ。ねぇ、そうしましょう? 忘れたままでいいわ。ね? 私のアリス。アリス、お姉ちゃんのアリスでいてくれる? ちょっと、ずるいかしら??」
「……? わか、らないわ……どうして笑ってくれるの? 私、姉さん、殺しちゃった……のに」
「私が悪いのよ。あなた覚えてないみたいだし。でも、忘れてて頂戴ね。だって、思い出したらまた拒否されちゃいそうなんだもの」
姉さんが、笑っている。私ににこって、笑いかけてくれる。
でも、よく見たら、目が、笑ってなかった。
この世界でいっぱい笑ってない目、見たよ。だからわかるの。姉さん、本気で笑いかけてくれてるわけじゃないよね?
ねぇ、何があったの? あったんだっけ? 覚えてないよ。教えてよ。
姉さんは、私に、何を求めてるの?
「アリス、アリス。私のアリス。ねぇ、いいでしょ? お姉ちゃんって呼んでよ。私、怯えて失敗したわ。だから次はもっと貪欲にって決めたの。ね、ね? 私のアリス。私を許して、受け止めて?」
私の指先を、姉さんがぎゅっと握った。
許す? 許すかどうか決めるのは姉さんであって私じゃない。
「謝るのは私で……」
「じゃあ、じゃあ、私許すわ。それならいいでしょう? アリス、許すから、許して頂戴」
「許す? 許してくれるの? でも、だって」
「私、死んだかもしれないけど、ここで生きてるわ。また、生きていられるわ。……アズールにも色々
迷惑かけてしまったけど、それは後で謝るわ。ねぇ、生きてればやり直せるのよ」
「そう……?」
「そうよ! 私のアリス、ねぇ、あなたは私にやりなおさせてくれないの??」
「え? え?」
なんだか丸め込まれてる気がするんだけど、どうなんだろうか。これ、頷いちゃいけないやつ?
あぁ、でも、何でもいい。許されるんだよ? どうなの? 姉さんに許される! 許されたい。でも、償いは? 許してって姉さん言ってるから、それでいいの? 足らない? わからない。
「こんなに謝っているのに、アリスはお姉ちゃんの事、そんなに嫌いなの?」
「そんなわけ!!」
「じゃあ、いいわよね? 仲直り。良いわよね?」
「……」
「い・い・わ・よ・ね?」
「……ハイ」
……この世界の住人になってしまったの? だから姉さん、押しが強いの?
まだ私は日本人なので、押しには弱い、仕方ない。
……本当にこんなんでいいんだろうか? ダメな気がするけど、姉さんが押したからいいの? 許してくれるんだから、突っぱねる必要もないの?
ない、んだろうけど……なんだか納得いかない。
首をひねって、頭ん中疑問符だらけにするけど、どうせ答えは見つからないし……どうしてくれようこのもやもや。あんなに思いつめてたのが嘘みたい。
姉さんだよ? 本物の姉さん。その姉さんが答えを押し付けてきたんだから、それが真実本物なんだろうけど……こんなあっさり許されると、ちょっと、拍子抜け? 都合よすぎて、逆に信じられない。
……。
「アリス、アリス、私のアリス♪ あぁ、本当に、ちゃんと喋れてる。前に会ったときは本当のことは話せなかったし、どうせ一回きりだしと思って、何も言えなかったけど……あぁ、あぁ、本当に私の妹! また、あえて、話せて、本当にうれしいわ」
よかったと言いながら、潤ませる瞳は本物に見える。泣きそうに笑うその顔は、本物に見える。
本当によかったって思ってくれてる? 私と会えてよかったって?
でも、さっき笑ってなかったよね? なんだろう? あ、でも、今のこの顔は本当だ。
なら、もう、いいか。
思考を放棄して、姉さんを手のひらに乗せて持ち上げた。
「……私も、会えて嬉しい。…………おねえちゃん」
一瞬きょとんとして、大輪の花が咲くみたいに笑ったお姉ちゃん。
その顔を見て、私もとてもうれしくなる。
やっと、帰ってきたって、そんな感じがする。
「仲直り、ね」
「仲直り、ね」
そう言って笑い合った。




