幸せの青い鳥
侯爵夫人のマリーさんと、グリフォンのドードーさんがアズの森を訪れた。
「お久しぶり……でよろしいかしら? アリス」
「お久デース!」
「お、お久しぶりです?」
挨拶されたからとりあえず挨拶を返す。
マリーの邸を出てから家出したから、正直あんまり会いたくなかった。嫌なこと思いだすからさー……。
「あら、トカゲ、ずいぶんな格好ね」
「やられました~。大失敗~」
「ふふっ、猫が大荒れだったのよ。それはもう、すごかったんだから」
「ちょっと! 変なこと吹きこまないでよ!?」
「あはは~、ほんと~、チェシャ猫ってば、俺さん大好きだなぁ~」
「そうだけど何か!?」
「あらまぁ、正直!」
「トカゲにだけは素直デース」
……何しに来たんだろう、あの人たち。てか、トカゲさんも普通にニコニコおしゃべりしてるし……。
何? あんな大けが、わりと日常?
「で、何しに来たんだ? 夫人。申し訳ないが、客人をもてなす余裕はないんだが」
話が進まないと思ったのか、アズが進んで会話を促してくれる。
「まだ何人かとアリスは会えていない」
「あら、早く着すぎてしまいましたね。申し訳ありませんわ」
「飛ばしすぎちゃいまシター」
そうだよね。ディーとダムともあんまり話してないし、ミカとネネ、ジャックにも会えてない。
状況だけは聞いてるけど、顔見て安心したい感じはある。というか普通に会いたい。戻ってきたよって言いたい。
「話しは一つですのよ。でも、少し時間かかっちゃうかもしれないですわ」
「ふむ、私はイノコリ組に伝えてこよう」
「ビル休ませてくる」
「俺さんは~……」
「いいから行くぞ」
「じゃあ、皆退散してますね」
「一人にして大丈夫か?」
「そうしてくださいませ」
「守りはミーに任せるよろしいデース」
というわけで、私とあと二人が取り残される。
「時間がなさそうなので簡潔に。話題はこちらですわ」
そう言ってマリーさんが取り出したのは鶏の卵より大きめの、青い卵だ。いろいろ可愛い飾りが描かれている。
「うぅん、なんといいましょうか、少し面倒なことになりまして」
「本当はただの卵だったはずデス。でも、命が宿っちゃったみたいなんデース」
「は?」
卵って普通そうなんじゃ? あ、でも、市販の卵って無精卵なんだっけ? てか卵ができた後で命が宿るわけじゃないし……どういうこと?
「これは本当はカードなんですのよ? アイテムカード」
「アイテムカード?」
それって、最後に色づいたカードが、アイテムだったってこと? 役付はいないんだ。
あれ、じゃあ、目の前の二人は?
「わたくしたちはこのカードの代わりにあなたにゲームをする役目なんですの。あぁ、本当ならこんな説明もしませんのよ? ネタ晴らしを先にするなんて……アイテムカードに命が宿るなんて、予想外すぎて、あなたにお渡しする以外の道がなくなってしまいましたの」
「それでも一応ゲームするデース。よーしきび、デース?」
様式美? 勝っても勝たなくても、その卵? アイテム? を、もらえるってこと? じゃあ、カードを開けてくれるってこと、よね?
「カード集めという今回のゲーム以外にも、わたくしたちのような役目は必ずいましたわ。私たちはなんだと思います? これが問題ですわ」
問題を解くのがゲームってことね。
えぇ、っと……必ずいる役目? 役付なのに二人もいるから、最初はおかしいなとは思ってたのよ。
何で大目に役付がいるのかしら? 卵の番人なら、一人でもいいわよね? いや、そもそも番人早く付きなのかしら? カードの人が役であるなら、アイテムカードの番人は役付きじゃないわよね?
じゃあ何かしら? 役付きだけど、本当に役付きって感じではない。しかも二人いる。
役付きは欠けてはならない。じゃないとゲームが成立しないわ。だから多めにいるの? ……そういうことね?
「スペア?」
《帽子屋》の役は生まれつきだって言ってた。でも、他の役はどうだろう。生まれつきの役もあれば、後天的な役もある。生まれつきなら替えがきかないことも多いだろうし、他のゲームの時に違う役職もいたって聞いた気がする。つまり役自体は多めにある。
なら、もしゲームに参加する役付きが足りなくなったら? すぐに補充できるように、他の役がいてもいいと思う。
って、考えた答えだけど……。
「正解ですわ」
合っていたみたいでよかった。
「これで心置きなくこの子を託せますわ」
そう言ってマリーは私に青い卵とスプーンを押し付けてきた。
……スプーン?
「これでその卵を割ってくださいませ。でも、あまり力を入れてはいけませんよ? 中の子まで割れてしまったら取り返しつきませんからね」
「え、えぇ?」
混乱している私には構わず、二人は踵を返した。
「それではごきげんよう」
「サヨナラデース」
いい笑顔で別れを告げて、引き留める間もなく走り去っていく。
あんな淑女っぽいマリーさんも、ダッシュするんだ……じゃなくて! カード開けてくれないんですか!?
と言えるような精神状態に戻った時には、時すでに遅し。
仕方なく卵を見つめなおす。
「割ればいいんでしょ、割れば!」
誰もいないけど、なんか口にせずにはいられなかった。
私の! この戸惑い! 誰か! わかって!!
こんこんスプーンで卵を叩く。もう少し強め? あ、ひびが入った。もうちょっと。よし、これではがせる。
欠片がはがれたところに爪をいれて、どんどん穴を広げていく。
隙間から、青い羽が見えた。
次に見えたのは、金色、の、髪……?
目が、合った。青い目。
その人は、隙間から手を伸ばして、殻から這い出てきた。そして、青い羽を広げて、うんと伸びをする。
「……姉、さん?」
前回のアリス、とても綺麗な庭の小さな家に住んでいた小さなあの子が、もっと小さくなって、私の手のひらの上にいる。
小さくなっただけじゃなくて、青い羽まで生えている。
でも、見間違えない。彼女は前回のアリス。私の、姉さん……。
「ふふっ、久しぶりね。私のアリス」




