自分を忘れた×××
……ここ何処やねん。
グレイに言われた方向に歩き続けて何分経ったか? 太陽は動いているのか、動いていないのか、それすらもわからないこの世界では時間なんてものわからない。
「さすがに疲れたっつの」
あのうっすい微笑を張り付けた顔をとりあえずぶん殴りたい。理由はない、ただ殴りたい。なんとなく。うん。それはもうぼこぼこに。
いつしか森の木々はとぎれとぎれ、木にかわって大きな葉っぱが目立つようになった。
草ではなく葉っぱ。植物の、チューリップなどの葉っぱ。上には大きな花も見えるような気もしないではない。それが木々のように高くそびえているのだ。
「さすがワンダーランド。私がちっさくなったみたいね……これでも身長気にしてんのよ」
大きな花に、大きな葉っぱ。いつしか木はその葉っぱに取って代わられ、見当たらなくなった。
「本当にあってんのかしらー、どこ行くのか知らないけどー、これで迷子死にしたら化けて出てやるわよー?」
ふわっ
「……?」
甘い、煙いにおいがする。
「火事? いや、それにしてはいい匂い?」
あっちの方からね……?
行く、行かない。
行くに決まってるじゃない。どうせ迷子なんだし。
てくてくてくてくてくt……
「へ?」
ずべっ
「ぎゃぁぁぁ!!」
どっかで足を踏み外し、滑り落ちていく。
どさっ
「いたっ! また落ちるとかなんだよ!」
汚れたスカートをはらう。今度はまたどこだし!?
「うるさいねぇ」
「え、あ、ご、ごめんなさい?」
上の方から声が聞こえた。大きな葉っぱの上だ。
「あ、あのー……」
「なんだい? 僕はこれでも考え事で忙しいんだが?」
考え事なら少しくらいいいんじゃないでしょーかー……。
「すみません、ここはどこでしょう?」
「ここ? ここがどこかだって?」
「はい」
なんか変なこと言った? なんでそんなに聞き返されるの?
「それは僕が聞きたいくらいだよ」
「えー……」
「ところで君は誰だい?」
「わ、私は……」
「君は“私”という名前なのかい?」
「違うわよ!」
それくらいわかるよね!?
「じゃぁ、誰なんだい?」
「だから私は……」
「“ダカラワタシ”?」
「違うわよ!」
「なんだい、だったらさっさと言いなよ」
「~~~っ!!」
なんだこいつ! なんだこいつ!! 大事なことなので二回言ってみました。
「って、あんたこそ誰なのよ!」
「人の名前を聞くのなら、自分から名乗るべきじゃないのかい?」
「言ってるけどあなたがちゃんと最後まで聞いてくれないんでしょう! それに、その言葉はそっくりそのまま返してあげるわ! 最初に聞いたのはあんたの方でしょ!!」
「……そうだったっけ?」
「……」
よし、分かった。ここがどこでもいい。自力でどこかにいこう。
「ちょっと待ちなよ」
「あんたみたいなバカ、相手にしてる暇ないわ」
「悪かったって。考え事をしていたんだ」
「あらそう。だったらその続きを勝手にどうぞ」
「ほんと悪かったって。そこまでへそを曲げなくてもいいだろう?」
曲げるわバカ。
「ちっ」舌打ち
「おお、怖い怖い」
そう言って葉っぱから降りてきたのは、まだギリギリ少年、といった感じの男の子だった。
……え? 今上からふんわり降りてきたけど、ナニ? どうやって降りてきた? あれ?
肩を少し過ぎるくらいの、淡い青緑色の髪をリボンで一つにくくっていて、瞳は不思議なアレキサンドライト。
服装はフリルがついたシャツに黒のベストとズボン、足元はブーツ、手元にはキセル。さっきの甘い煙っぽい臭いはこれのせいか。……子供がなんてもん吸ってんだ!
「ん? 何だ?」
「……」
……それでちょっとヴィジュアル系はいってるようなないようなあるようでないような……? でもなんかかわいい系? 衣装に負けてるような、ちゃんと着こなしてるけど背伸びしてる感じが……可愛いです。
……ネネ君にも反応してたけど、ショタコンジャナイヨ? 小っちゃい子が好きなダケダヨ?
「なにかとても失礼なことを思われている気がするんだけど?」
むっとした顔は綺麗でお人形みたい……。うらやましすぎる肌の白さときめ細やかさ!
「おーい? 今度は君が僕の話聞いてる?」
「聞いてないわ」
あんたにみとれてて!
「はっきり言うねぇ……」
呆れられても困るわよ。
「で、君は誰?」
「私は……」
ちょっと区切ってみる。
「君は……?」
お、ちゃんと聞いてくれるらしい。
「アリスよ」
この名前にも少し慣れてきた。まだちょっと嫌な感じはするけど。
「アリス? 君がアリス?」
少し不思議そうに首をかしげる。
「ええ、アリスって呼ばれてるわ」
「よばれてる? 呼ばれてるって、なんか呼ばれてるみたいだ」
……おっと、理解できねえぜ。
「あー、ニックネームみたいな? 本名じゃないみたいだ?」
わかりやすく言い直してくれた。
「そうね、実際そんなもんだと思ってるわ」
「え? でも君はアリスなんじゃないの?」
「そうらしいけど」
「らしいって……」
「ともかく、そんな感じなの!」
詳しく聞かれても何も答えらんない!
「ふぅん、大人のジジョーってやつ?」
「そうそう。そんな感じ」
「そっか。じゃあ、助言。ツッコまれたくないならちゃんと名乗るべきだと思うね」
「そうね、次からそうさせてもらうわ」
「それがいいよ」
「……」
「……」
沈黙。
「……」
「……ねぇ、あなたの名前は?」
「僕? 僕の名前?」
「そうよ、名乗ったんだから名乗りかえしなさいよ……」
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「僕は誰?」
「……ハ?」




